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12話

「この大きさで、あれだけの荷を運び、なおかつ自走するとは…これなら何とかなりそうだ。是非、是非、是非引き受けて頂けませんか?!」


レヴィの手を両手でガシッと掴みながら話す、部長というステレオタイプを体現したかのような恰幅の良いこの50歳位の男がこの街の組合長らしい。


先ほど組合従業員の女性に連れられて建物に入っていったレヴィが、30分程でこの男を連れて戻ってきた。


「ちょっ、ちょっと時間をください。直ぐ戻りますので考えさせて下さい」


男の熱意に戸惑いながらレヴィが答える


「分かりました、受付で待機しておきますので、くれぐれも、くれぐれも宜しくお願いします。」


そう言いながら握った手を何度も振り、念を押す様にじっと見つめてから男は戻っていった。



『で、どうした?』


「うん、実は大きな仕事を頼まれちゃってね…」


ここイセコドの街は農業都市として有名らしい、中でも岩石かぼちゃと言われる野菜はこの辺りでしか栽培できず、シェアを独占している。

数が出るようなものではないが、古くから祝い事に欠かせない縁起物として重宝されており、一年を通して安定した利益を上げているらしい。

近く貴族の婚姻があると言う事で、岩石かぼちゃの大口注文が組合に入った。

先方が希望する品も在庫で確保出来たため、二つ返事で引き受けたのだが、配達の為に手配していた馬車が別の配達に行ったまま帰ってこない。

岩石かぼちゃは名前の通り岩のようなかぼちゃで非常に重い、重量物用の馬車でなくては運ぶ事が出来ないのだが、そんな馬車は直ぐに代替が用意できるほど数がなかった。

更に間の悪い事に先方の貴族はこの辺りを収めるイニジアレ辺境伯の親に辺り、キャンセルは愚か納期が遅れただけてでも組合長の首が飛ぶ可能性があるそうだ、比喩でなく…


『それで俺たちに頼んできたのか、ってかそれ俺達にまで責任追及されないだろうな?』


「昨日アラシシシを2匹積んで走っていた話を聞いたんだって。責任の事も全て組合長の責任で処理すると、一筆書く事を条件にしてくれてる」


『なるほどね、それなら問題ないんじゃないの?』


「運ぶのはビーちゃんだから先ずは聞かないとと思って」


『俺はレヴィの道具なんだからそんなのは気にしないで良いんだよ?』


「うん、ありがとう、それでも一応ね。……それとさ、正直報酬額が大きすぎて戸惑ってる」


『なんか裏ありそうなのか?』


「いや、組合長の仕事だから間違ってもそれは無いとおもう」


『じゃー良いんじゃない?』


「えぇ〜…昨日の今日でまた大金手に入れたら、私、勘違いしちゃわない?」


なるほど、そういうことか。

あぶく銭に気を大きくして道を踏み外す奴、居たなぁ…


『俺はともかく、レヴィは大丈夫だろ』


「何その謎信頼?!ってか、ビーちゃん駄目なの?」


『うん、駄目だね。お金は有ればあるだけ使うタイプだ』


「あはははは、それじゃぁビーちゃんの為に稼ぎますか!」


『報酬は折半だぞ?!』


「あるだけ使ってくれるんでしょ?それなら私は勘違いしようが無いから大丈夫」


『いや、流石に人の分までは使わねーよ!…たぶん…』


「あはははは、それじゃぁ急いでるみたいだから早速受けてくるね」


『おう、いってらっしゃい』









日が昇りだいぶ明るくなったが、まだまだ人気は少ない、そんな中で俺の周囲だけがざわざわと騒がしい。

ドンと俺の荷台に、直径1メートル程のかぼちゃが乗せられる。

重量は500キロくらいだろうか。

荷台に触れる音もガリガリと、野菜が出す音には聞こえない、こんな物が食えるのだろうか?


予定していた出発日を既に三日も過ぎている。

納期は明日の夜、殆ど休み無く走ってもは3日掛かるそうなので普通で考えれば完全に手遅れだ。

だからと言って諦めたらそこで…という事なので、悪足掻きはしているが、組合長は半ば覚悟しているようだった。

ナビを見る限り目的地のズーカまでおよそ300km、街道も整備されているという事なので俺だけなら余裕なんだか、問題は護衛の馬車だ。

馬車がどれだけの速度で走れるのか知らないが、俺に付いてきて貰わなくては意味が無い。

パッシングしてレヴィに合図を送る。


「おや?何か光りましたか?」


組合長が目ざとくライトに気づく


「あぁ、前を照らす明かりです、たまに勝手に光るんですよ。ちょっと失礼しますね」


そう言ってレヴィが俺に乗り込んでくる。


「ビーちゃん呼んだ?」


『護衛が乗る馬車だけどさ、一番速いやつにして貰ってね、護衛がついてこれなかったら意味ないしさ。あと鏡と温かいスープみたいなの手に入らないかも聞いといて』


「それなら会館で手に入ると思うよ。馬車は聞いてみるけど、もしかしてビーちゃんだけだったら間に合うの?」


『たぶん今晩にはつけると思うよ』


「ふぁぁぁ、流石だねぇ。よし、分かった。」

  ・

  ・

  ・

  ・

「組合長すいません、すぐ用意できる馬車の中で一番速いのはどれですか?」


「速さだけで言えば緊急時用の6頭引きの高速馬車があります?ズーカまで片道2日くらいでいけるでしょうか」


レヴィがチラリと俺を見る。

それしか無いなら仕方が無い、パッシングでyesと答える。


「それじゃぁ、護衛の方が乗る馬車はそれにしてもらえませんか?」


「あの荷を積んでそれ程速度が出るのですか?!」


「私達だけならたぶん、今夜には着けるみたいですけど…護衛は必要なんですよね?」


「そうですね、先方のことを考えますと万が一も起こせませんので…しかしそれが本当なら間に合うかも知れない…直ぐに準備させます!」


組合長が声を張り上げ指示を飛ばす、彼にしてみれば命懸けだ。

それを思えば、叫ぶたびに唾液が俺のボディに飛んでいる事くらい我慢してやろう。

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