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水曜日4

「あれ? ……愛宕クン、なんで居るの? 行かなくて良いの?」

 音楽準備室。

 部活終了まで本来あと三〇分あるのだが、しまおうと思って楽器を磨いていると声をかけられた。


 声をかけてきたのは部長。

 吹奏楽部男子の崇拝対象であり、お嬢様キャラも、魅力的な胸も、ちょっとのんびり屋さんに見える性格も。総てが嫌みに見えない清楚な先輩。

 それが俺の憧れ、我が吹奏楽部部長、白鷺(しらさぎ)つむぎ先輩その人である。


「本当に真っ正面に見えるんだね。気が付いたの、ブラス(ウチ)が一番早かったんじゃ無い?」

「ブラスが、って言うか鹿又が。ですけどね、多分」

 女子サッカー部の乗って来たマイクロバスが校長室のある本校舎玄関前に横付けになっているのが窓から見える。

 こういうのは県立ならではの光景だ。


 旧中学校舎、旧高校校舎、本校舎に旧高校校舎でもある中等部校舎、更には高等部新校舎、旧高校特別学習棟、部室棟、柔剣道場、小ホール棟、用具倉庫その他。そしてその全てが渡り廊下で繋がると言う無茶な設計。


 隣り合った村立峰田中学校と県立先岡高校が合併して新設された我が校の校舎は、だからL字とかコの字どころか、何かの漢字並みに建物が入り組んで居る。

 

 ただこの成り立ちのせいでグラウンドは旧中学、高校を隔てるフェンスが無くなったうえ近所の空き地や畑も盛大に取り込んだため、やろうと思えば野球、サッカー、テニスがフルサイズで同時に出来ると言う田舎ならではの広さを誇る。

 しかも一部は天然芝が張ってある公立学校としては豪華版グラウンドだ。


 但し解体工事の進まない校舎は三分の一が使われていないし、プールは元々あったものを壊していないから中等部用、高等部用の二つが隣り合っているうえ屋内プールまで作ろうとしてるし、体育館は既に巨大な新屋内運動場が学校開設と同時に落成して三つもある状態。

 新しいの作る前に要らないの、壊そうよ。


 建物の数だけみれば生徒数は三倍は必要だと言うのに、更になんか作ろうとしてるし。

 最終的にこのまま行ったら人のあまり行かない部分には、スライムとかゴブリンが住み着いてダンジョンになりそうな勢いである。


「どうせ家に帰ればイヤでも顔あわすし、わざわざ俺が行く必要も無ぇっすよ」

「仲は良いのに以外とそういうとこ、クールなんだよね。みんなはもう行ったんでしょ?」


 ちなみにみんな。は我が後輩、山伏候補生二人を含む月仍と交流のある女子達のことだ。やたらに付き合いが広いのは月乃、というよりこれは鹿又が接点になってるんだろうな。


 自主練習中の準備室から一年生はほぼ全部、全体でも半分以上居なくなった。

 当然友達が女子サッカー部と言う人だって居るだろうし。

 いずれ楽器の音はほぼストップ。

 時間は早いが行かなかった連中は既に帰り支度。

 カギを持った部長が楽器ケースを持ってここに来た事で、準備室内の人口密度減少のペースは一気に速まる。


「部長、愛宕クンも。お先に失礼しまーす。……会議も良いけど、ほどほどで帰りなよ? 要らんところで真面目だからなぁ、二人とも」

「おつかれっす、先輩」

「お疲れ様、マキ。明日、一年生分の譜面、覚えてるよね? ……うん、明日お願い。気をつけてね。――校庭も練習止まったね。山形ひばり台に勝ったのってやっぱスゴいんだ」

「そりゃまぁ、確かにスゴい事なんすけど」


 今やグラウンドに人影は無く、マイクロバス付近は黒山の人だかり。

 確かに体育会系、本年度初勝利。

 しかも隣県のスポーツ名門校ひばり台を倒す、だもんな……。


 活動自体がおまけなのだとしても、少なくとも全ての部は、試合に関しては絶対におまけだと思っては居ないだろう。当たり前の話だ。

 だからこそ女子サッカー部はたった一勝で県立体育会系の英雄なのである。



「そう言えば白鷺先輩こそ良いんすか、山田先輩。仲良しなんでしょ?」

「昨日電話で話したし、今日も多分電話するし。それこそ私も明日教室で会うしね」

 白鷺先輩こそクールすぎでしょ?

 ゲームキャプテンであり女子サッカー部部長でもあるくじ運が悪い山田先輩は、小学校時代から白鷺先輩の大親友だったはず。

 でも、だからこそ。って言うのもあるのかもな。


「先輩の方が冷たい。最強って言われるチームのキャプテンって大変そうじゃ無いですか。三年生が出る最後の大会だし」

「サッカー一筋なのよねぇ、部活なんかおまけなのに何しに県立に来たの? って良く言うんだけど、その話になるとおまけ扱いしてる連中をギャフンと言わせてやるんだ。って鼻息荒くなったりして」


「俺も男子サッカー部に良く似た友人が居ますよ。ま、運動部は大抵そうなんじゃないですかね。――それはそれとして、親友としてねぎらいの言葉でもかけてあげたらどうです? 次はヴェロニカだからプレッシャーも半端ないっすよ、多分」


「サッカーも東北最強だってね、聖ヴェロニカ。……んー。彼女とは姉妹みたいなモノ、なのかな、だから私はすぐじゃ無くてもいいや、見たいな。向こうも多分そう思ってるよ、お前にねぎらわれる程は疲れてないって。その辺、愛宕クンに近いかもね。家も近いし、幼なじみだし。――あ、そう言えば」


「はい?」

「幼なじみで思い出した。――南町さん、だっけ? たいしたことないって言ってたけど結構大変だったらしいじゃない。聞いたよ」

「今更先月の話を。誰から、何を。……聞いたんですか」


 先月、“見えない視線”に見られている気がする。

 と言う南町の相談に乗った事があった。昨日のランちゃんのハンカチはその過程で汚れたのだが、それはさておき。

 その件については南町本人には口止めしてある。


 視線の件は知っている友人達も居るので、全て終わったのを確認した上で、南町にはランちゃんに精神安定剤(みたいなサプリ)と睡眠薬(みたいなサプリ)をもらって解決した。と言うシナリオで話をしてくれと言ってあるのだ。


 サプリを強調するのは、医者では無いランちゃんが薬を渡したら薬事法違反で逮捕されてしまうから。――実際サプリだし。


 そしてその件でどう動くべきか迷った俺は白鷺先輩に相談した。

 だから解決したこと自体は先輩にもサプリ云々で既に話をしてある。

 問題は、南町の件を誰からどんなかたちで白鷺先輩が聞いたのか。と言う事。

 能力絡みは当然アウト。噂の出発点が南町であるなら本人が知らないんだから、そこは気にしないで良いはずだが。


「前進ゼミナール、だっけ? キミ達と同じくそこに通ってる彼岸谷中学校の生徒からスタートして、超遠回りで約一ヶ月かけてついに一昨日。私の所に噂が入ってきたという訳」


 彼岸谷中学校、通称谷中は南谷河町に二校しか無い町立中学のもう一校だ。

 それに前進ゼミナールは南谷河では唯一の塾。

 なので四人しか居ない県立の制服に比べて、若干遠くはあるのだが谷中の夏服、グレーのワイシャツやポロシャツはそれなりに人数が居る。


「でもその件は、前にも言った通りウチの姉が南町に薬を……」

「県立の双子が百中女子に取り付いた悪霊を退散。って言う話だったよ。南町さんの話を前に聞いていたから、あぁなる程って思ったの。県立で双子は中高含めて愛宕クン達しか居ないしね。――薬はカモフラだったんじゃ無いかって、そんな話になってるけど」

「そんな訳無いでしょ! 俺と月仍が霊能力者みたくなってるじゃ無いすか!」


 南町の部屋で、彼女の言う視線を俺も感じた。

 多分その辺の話を聞いたヤツが居るんだろう。

 確かに“調査中”だったときにはあまり強く口止めしていない。

「でも実際に何かは見えたんでしょ? まるっきり嘘だったら噂にはならないもの。……愛宕クン。先月の約束、覚えてる? 危ないこと、しなかった? 変な事とか無い?」


 俺が鼻血を吹いたり、月乃が意識を吹っ飛ばしたり、翌日二人とも全身筋肉痛+頭痛でへろへろだったり。

 そんな話は口が裂けても出来ないな。

 能力関係は基本口外NGではあるのだけれど、その辺あとで月乃にも再度言い含めておかなくちゃ。

「いえ、その。……勿論、特には何にも」


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