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水曜日3

「なにあの! かわいー! 今の娘、陽太の後輩? 男子にモテモテでしょ、彼女? でもなんであんなおどおどびくびくしてたの? もしかして、実は部活で無茶苦茶しごいたりする訳?」


「んなわけないだろ。あいつ、超あがり症の上人見知りでさ、そもそも先輩とか男子が凄く苦手なんだ。二年の教室なんか来たらそりゃ、まともに喋れなくなるよ。ブラス内だって普通に喋れる男の先輩って俺しか居ないくらいだし。――あぁ。単に譜面の読み方とか教える担当だったからな。慣れればそれなりに喋れる様になる、……んじゃないかなぁ」


 ……そう思うと女子の先輩とは一応それなりには話せているような気が。

 属性として男嫌いも追加になるのかも知れないな。

 でも、それじゃ籠ノ瀬がますますコミュニケーションの取りづらい女の子になっちゃうなぁ。


「あんな可愛い子が陽太にだけ懐いてるのってなんかムカつくなぁ。だったら陽和ひよりに懐いてくれても良いんじゃないかなぁ。――え? つきっちとも仲良しなの? ブラスの娘なんでしょ? なんでぇ!?」

 まぁ男子が近寄りがたい。とか言われがちではあるのだが。

 月乃は月乃で後輩女子を手なずけるのを得意にしている。

 男子が近寄る隙を自分で潰していると言う気はするな。


「あ、そうか! ねぇ、陽太。今のが山伏のちっちゃい方?」

 意外と有名な山伏候補生は俺の後輩、それを今になってようやく思い出したんだろう。

 天は二物を与えず。やはり柴田陽和は微妙に残念な美少女だった。

 微妙止まりなのがまたイラン奴らを引きつけるわけで……。


 けど柴田の言うのはわかる。

 あの性格のせいで標準体型なのに身長よりちっちゃく見えるんだ、籠ノ瀬は。


「デカくは無いけどアレがでっかい方。ちっちゃい方はもっとちっちゃくてしっぽがある」

「しっぽ?」


「ポニテだよ。なんか拘りがあるみたいでさ、結構髪長いんだアイツ。背が低い上にしっぽが長いから見たらすぐ、こいつだ! ってわかると思、……うっくぁ。タップタップ!フィル、モロ、入って、ギブギブギブっ……!」

 知らぬ間に、後ろに回ったフィルに腕で首を絞めあげられていた。



「おい、陽太。話が違うぞ。山伏候補生があんなにめんこいなんて聞いてなかったぜ」

「ぷは、……殺す気か! 違うも何も具体的な見た目なんか気にしたことないって」

「良いから先ずは彼女の名前を教えろ、あとサッカーが好きかどうか知らないか?」

「げほ、……アイツみたいのが好みだったのか、意外な気がする」



「確かに。単純な年下かわいい系ではないかなぁ。なーんか雰囲気あるよねぇ、あの娘」

「そんなんじゃない。――おい陽太。教える気が、あるのか無いのか……」

「1年の籠ノ瀬風花(かごのせ ふうか)、何組だったかは忘れた。サッカーは月乃の中総体みて文句言ってたくらいだから、ルールくらいわかるはずだけど。それがどうかしたのかよ?」

 いつも威風堂々たるサッカーの修験者フィル。その雰囲気が明らかに変わる。


「……いや、その。ちょっと昔の自分を思い出してさ、だからなにか助けてあげられないもんかと。――その場合、話すったって俺、サッカーくらいしか話題が無いしな」


 今の彼の姿からは想像も出来ないが、その容姿と家庭環境から、小学校低学年の時は友達が少なかったのだと聞いた事がある。

 内気で内向的な少年が変わったのは、お母さんに半ば無理矢理連れて行かれた近所のスポーツ少年団で、サッカーを始めてからだった、と。


「あれぇ? 硬派のフィリップ君、もしかして山伏(大)に一目惚れ? 山伏、サッカー修行僧を一撃でノックアウトぉ! って感じ?」

「ん……? あぁ。俺の後輩が可愛かったので紹介してくれ。みたいな感じの話か」

「ヒヨ、陽太! そんなじゃ無ぇよ! あぁ、どう言ったら良いんだよ、こう言うの!」



『俺が助けてやれるかも知れない、同じ経験をしてきたんだ。お互い話をするだけで絶対に楽になるところがあるはずだ! 確かに彼女、籠ノ瀬さんは可愛い、好みなのは否定しないしそう言う下心があるって認めても良い。だけどなヒヨ、陽太。そういう事じゃ……』



 ――! 

 今の声。聞こえたのは耳じゃ無い、それに声の“色”は明らかにフィルだった。

 通常俺のレシーバはトランスミッタが居て初めて能力として成り立つが、例外はある。

 怒りや悲しみなどの激しい感情に後押しされた声は、例えトランスミッタで無くとも聞こえることがある。

 とは言え、これまで聞いた事のある声はランちゃんとにーちゃんのみ。


 ちなみにレシーバで聞こえた声には発した人間の色がついている。

 言葉で表現出来ないがとにかくそういう事なのだ。

 そして今の声には間違いなくフィルの色がついていた。


 本気で籠ノ瀬を心配し、力になってやりたい想いが本当なのはよくわかった。

 そうでなれば俺に聞こえるわけが無い。

 ……そして。あわよくば。なれるモノなら、友達以上になりたい、と。


 後ろ半分は聞こえない方が、綺麗な話でまとまって良かった気がするな。

 ともあれ、籠ノ瀬を心配してくれてることだけは事実なわけだ。




「わかってるよ、ちょっとからかっただけだ」

巫山戯(ふざけ)んな! こっちは真剣にだな。おほん、閑話休題。――とは言え。話をしようにも男も先輩も苦手なら、俺が話しかけるだけでもかえってプレッシャーじゃないか……」

「籠ノ瀬はなぁ。うん、なんつうか難しいぞ? ……どっちの意味でも」


「おい陽太、なんで意味が二つある事になってるんだ?」

「そりゃ勿論フィルがあの娘、えーと、かごのせちゃん? に惚れちゃったから、でしょ?」

 茶化すのは可哀想な気がするな。

 その部分も勿論嘘じゃ無いけれど、でも籠ノ瀬を助けたい。それが彼の想いの一番目、なわけだし。


「ヒヨ! やめろよ、そう言うんじゃ無いんだって。――陽太、どうにか出来ないか?」

 でも聞こえちゃったし。……完全にそう言うんじゃ無い、って事でも無いわけで。

 どうにか、ねぇ。ふむ。


 この場合、フィルと籠ノ瀬が話せればOK。

 別に二人きりとかそういう特殊な設定は求められていない以上、形だけ整えれば良しとするならば。

 うん。案外やり方によってはこれくらいは何とかなるんじゃなかろうか? 


「アイツの人見知りが治るんだったら、確かに吹奏楽部ブラスとしても助かるんだよな。……なんか考えてみるか。――で、報酬は出るんだろうな?」

「プランを聞いてから考える。――勿論、成功報酬だからな!」


「学食の天ぷら月見そば、十杯程予約しておこうか」

 かけそば180円。月見そばが230円、更にかき揚げが載るとに実に290円にまで値段は跳ね上がる。

 中学生の小遣いではそうそう食するわけには行かない。


「あくまでも成功報酬だからな。――なんか手があるのか?」

「アイディアが形になりそうな気がするが、今んとこはまだ。まぁ慌てんなよ」

「陽和にもなんかおごってよフィル。んー、B定にゆで卵かなぁ」

「なんでそこでヒヨが出てくるのか意味がわからんのだが?」


「口止め料。後輩から高等部の先輩まで、いったい今まで何人の可愛い女の子袖にした?……フィルが山伏(大)に一目惚れ! なーんてバラしたら。タイミングによっては、最悪あの娘にも良くない事が……。なーんてそれは大げさだけどさぁ。――言っとくけど隠しても無駄だよ。知ってるでしょ? 陽和、そう言うの。わかっちゃうんだから」


 そう言えばこいつの恋愛相談は良しにつけ悪しにつけ、不気味な程に結果が出るのだった。

 お前もテレパス、レシーバなのか?

 でも俺には感情なんか読めないんだが……。


「陽太が成功したらそん時一緒におごる。――だからヒヨは余計なこと喋んなよ?」

 で、フィルよ。そこは一応否定しろ。あっさり肯定すんなよ……。

 ここで予鈴が鳴った。教室外に居た連中が戻り始める。


 昼休みはあと五分。



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