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女子高生の先輩と俺

 そして結局。

 数日後。予定されていた女子サッカー部壮行会は試合に負けてしまったため当然無し。

 一方、ブログで絶賛されていた月乃は。


「やっぱフィジカル重要だわ。当たり前だけど、延長前提で鍛えなきゃダメだよな……。ちくしょう、あと一歩が出なかった。あれ、さわれればそれだけでPKいけたのに!」


 と、必要以上のフィジカルは維持が大変だから要らない、とする自分の主義を根底から覆しつつ反省しきり。

 と言いながらもう一人絶賛されていたヴェロニカの日本代表の女の子とは友達になったようで、


「優勝しちゃってよ? 応援してるんだから。あ、あと今度あったらサインもらわなきゃ。――またまたご謙遜、超有名じゃん。センヴェロのパスカッター、リッパー荒浜って、私、代表に呼ばれる前から名前知ってたもん。――え? あのキャッチ、気に入ってないんだ。ごめんごめん。――だよねぇ、女子が切り裂き魔って気に入るはず無いわ。ははは……」


 なんて電話をしたりしている。 ボールペンのキャップだと自分で言っていたな。

 見つけたかどうかは別にして月乃はどうやらある場所くらいは見当を付けたらしい。



「ちょっとコンビニ行ってくる」

「9時までにはけぇって来いよ? だいちゃんに叱られ(ごしゃがれ)っつぉ」

「へぇーい」

 家を出たものの実際には特に買い物があるで無し。


 蒸し暑い昼に比べて多少は涼しい風がながれてくる。

 本当は明後日からの試験の勉強があるのだけれど、ほんの数時間サボってどうにかなるなら徹夜すれば良い話。

 そこまで普段サボっては居ない。


 なんとなく公園まで来て、なんとなくブランコに座る。

 このところずっと何かを探してた様な気がするけど、結局何も見つけられなかった気がするな。


 行きがかり上、お姉さんな愛人を見つけてしまったが。

 そもそもそう言ったものは探してはいなかったし……。

 愛人なのに、おっぱいはさわれないらしいし。


 はぁ、何も考えずため息を一つ。

 何もすることが無い。と言うのは意外と良いことなのかも知れないな。

 そんな、おっさん臭いことを思いながら夜空を見上げていると。


「やっぱり陽太だ。いつも通りにブランコに揺られてメランコリィなのね」

「南町。それ、巧いこと言ったつもりか? もしかして……。だいたいメランコリーって憂鬱みたいな意味だろそれ。別に落ち込んでるわけじゃねぇよ。のんびりしてるだけだ」

 南町が隣のブランコに座る。


「いくら家の裏だからってこんな時間に何してんの? おまえ。そんなカッコで」

「あら。陽太的にはセーラー服の方が良かった感じなのかしら。着替えてくる?」


 ――格好はお互い様でしょう? ジャージの半パンに腕まくりのパーカー。

 いかにも部屋着の南町がそう答える。

 こっちもスエットのズボンにTシャツだから。

 まぁ人のことは言えないんだけど、俺は一応男だし。



「なんとなく散歩に出てみたの。風が出てきたし、今日は星が綺麗だしね。ベランダから見るよりもここから見る方がクリアに見える気がするの」  

「なんか違うもんかぁ?」

「部屋の照明とか、たまに通る車のライトとか。そう言う気にしなくて良いものがノイズになって、邪魔になるんじゃ無いかしら」


「ここだって外灯あるぞ。……おまえ、星とか好きなんだ。それはそれで意外な」

「キライじゃ無い。……星座は北斗七星くらいしかわからないけれど、心が落ち着くわ」

 科学部は星に関しては無知でも良いのか……?


「今度ウチに来いよ。にーちゃんが元天文少年だった、という衝撃の事実が先日発覚してさ、実は部屋に望遠鏡あるんだって。夏休みだったら月乃の部屋に泊まれば良いし」

「……! うん、行く。広大さんに予定を聞いておいて」

 望遠鏡。……本人は先月の話の顛末は知らないわけだし。まぁ、いいか。


「あ、そう言えば。明日の夜、代表戦あるんだよね?」

「唐突になんだよ。……サッカーわかるんだっけ南町」

「陽太とつっきーがなんか本気で怒ったり喜んだりしてるから見てみようかなって。でも県立はテスト前だったかしら?」

「試験があってもテレビは見る。絶対見る」


「私も一緒に怒ったり愚痴ったりしてみたい!」

 ……負けるの前提になってないかそれ?

 まぁ興味を持ってくれて、サッカー談義仲間が増えるのなら悪くはないか。


「それにつっきーだってなでしこ、で良かったんだっけ? 女子の代表に選ばれるかも知れないのでしょう? ネットで試合の観戦記に書いてあったし」


 ……同じブログ見てるよなこれ。ジュニアユース世代、しかもクラブチームでも無い、東北の、ただの中学女子の試合詳細なんかあの人しか書いてないか。


「月乃の将来はともかく、――キックオフ6時だし、ウチ来いよ。ランちゃんの部屋だったら超デカいテレビあるし、簡単にわかんなかった用語教えるくらいは出来るぞ。明日の地上波の解説はちょっと話が難しい人だし、BSはマニアック過ぎてわかんないだろうし」

「電話するわね」



 そう言えばこいつの捜し物は見つかったんだろうか。

 打ち込めるものって言ってたよな。

 部活動だって性格上、手を抜いているとは思えないし。

 読書や、意外にもサバゲーまであって。

 しかも俺が知る限り全てがかなりレベル高いのにまだしっくりこないのか。


 それを探す過程のサッカー観戦、と言う事だったらそれなりにフォローしてやんなきゃ。

 ただ試合に負けた次の日に、機嫌が悪いやつになったらどうしよう。



「ところで話変わって。――零感れいかん兄妹の幽霊話はどうなったの」

「解決。……つうか、変なキャッチ付けるんじゃねーよ!」

 昨日白鷺先輩に話したダイジェスト版を更に予告編なみに端折って話す。


「エアガンを悪用されるのはあまり気分が良くないわね」

「その後は聞いてないけど、多分部長からこってり怒られてると思う。お仕置きしなきゃって言ってたし、怒ったらかなり怖そうな人だったし」

 ……そう言えば。



「ところで南町。この近所で常禅寺さんって家知ってるか? この辺つっても百中学区全域だから範囲的には百小以外まで入っちゃうんだけど、あんまりある名字でも無いし」

「私の聞いた事のある常禅寺さんだったら常禅寺りかこさんだけど。――心臓発作でプログラミング中に亡くなった天才女子高生りかこさん。旧先岡高だったわね、そういえば」


「知ってるの?」

「百中科学部でパソコンの使い方を一変させた天才、背が高くて細身で美形で巨乳、体が弱いのが球に傷。セーラー服がとにかく似合う、グラビアアイドルみたいな人だったのだと聞いているわ。学校の勉強があまり出来ないって言うのがまた親しみやすくて。……設定的にフックだらけの上に、写真まで残っているんだもの」


 ――あの夏服は女子から見ても無敵よ。女子から見てもやはりそう見える。

 利香子ちゃんの見た目の破壊力はハンパない。


「設定がフックだらけって……。お前から見てもそう見えるのか、あの人」

 こないだ自転車置き場で見た白いセーラー服を思い出す。

 見た目の特徴が完全に合致する。

 まぁ彼女の場合、喋らなければ印象が悪化することは無いわけで。


「部長とかは体の都合でやらなかったのだけれど、ウチの科学部がたった一回、研究発表で文科省に表彰された時のチームリーダー。まさに科学部のレジェンドなのよ。私としてはむしろ何故陽太が知っているかが知りたいのだけれど。……家も百小学区だからそこまで遠くはないわよ、雪庇谷のバス停から橋を超えた辺りって聞いているけれど」 


 おなちゅうどころか百小の大先輩だったわけだ、利香子ちゃん。

 しかも名前の残り方が県立高等部の比じゃ無い。

 南町がサラッとレジェンドなんて言う時点でただ事じゃ無い。


「その人がどうかしたの?」

「幽霊の件で高等部の人に話を聞いてる時に、名前を聞いたもんだからさ。百中だったって聞いたし、だからちょっと気になってたんだよ」



 じつはお線香をつけに、なんて思ったりもしたのだけど。

 見も知らない中学生がいきなり来たらびっくりされるよな、普通。

 そもそも本人が知ったら、大層嫌がられるだろうし。



 ブランコから降りてのびをする。

「じゃあ、明日電話くれよ。――さて。俺は諦めて、ウチ帰って勉強しますか!」





 と言う事で、色んな人の色んな捜し物に付き合ってはみたものの。

 結局、間違いなく見つかったと言えるのは利香子ちゃんの写真のみ。


 しかもそれだって、あっという間に目の前で灰になってしまったけれど。

 でもそれで良いんだろうと思う。


 ボールペンのキャップは場合によっては無いと困るかも知れないけれど、

 一方生きる意味なんて中学生で悟ってしまったら。

 その後逆に生きる意味を見失いかねないし。


それに、あえて探さなくったって別に生きていくのに不都合は無い。

 生きてない人とも知り合いになっちゃったし。


だから俺は、明日も普通に生きていくんだ。

 どうせ捜し物は忘れた頃に、大掃除のついでに机の裏から見つかるんだろうから。

ここまでお付き合い頂きまして、本当にありがとうございました。

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