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その後2

「いやいやいや、それは誤解っ! そうでは無くて。……何か具体的に未練とかそう言うの、あるのかなって」

 ……そう、成仏してくれとかそういう事では無く。単純にそこに至る条件を知りたいだけなんだけど。


 ――だって。いきなり何の告知も無しに居なくなったら、寂しいじゃん。

「……未練か、そうだね。未練たらたらだと私みたいな形で“この世”に残っちゃうんじゃないかな」

「写真以外にもなんかあるの?」

「確かに写真を探す、と言うのが一番だったんだけど」


「そう言えば、“その後”その先輩には会ったの?」

 なんか聞いちゃいけない感ではあるんだけれど、これは聞きたい。

「な、何を急に! ……会わない、って言うか会えない。こんな姿は見られたくない」

「俺は良いのに? 差別だっ!」

「これは区別。言葉も意味も全然違うでしょ?」


 にっこり笑って突っ込んでくる利香子ちゃんは、こうしてみるとくるくる表情が変わる。

 なんかまた姿が薄くなった気がする。

 自分でコントロールしてるのか、それともヘコんだから薄くなったのか。

 その辺はよくわからない。


「地縛霊じゃなくなったんだから、その人の自宅に行ってみるとかしないの?」

「地縛霊というのも少し違うんだけど。けどまぁ理科室の外ってほぼ出なかったから言葉としてはあってるのかも。でもさぁ、今更立派になった彼をみても、私、もう何も思わないんじゃないかなって。だって普通に考えたらもう二十五,六でしょ? 普通に大人だろうし」


 ――憧れのイッコ上の先輩だったのに凄く年上になっちゃった。それに突然私が現れて、人なつっこく、にこやかに、フレンドリーに話しかけたとしてさ、乗ってくると思う? 

 そう言うと姿が薄くなったりはしなかったが今度は寂しそうに笑う。


「だいたい覚えてないかも知れないし、覚えてたら覚えてたで。彼からは目をむいて顔パンパンにむくんだ姿に見える可能性もある」

 さっき俺から“中等部の先輩”に見えた事を言ってるのか。

 ならあれは、意図してやったことじゃないんだ……。


「……私から見たってそれはめっちゃ怖いし、彼にとってはトラウマ画像だし。せめて会話が成り立てば見た目は変えられるだろうけど、怖がられたりしたらそれさえ出来ない。――普通の人は幽霊って基本的に怖いだろうし」

 明らかに肩が落ちた。だから俺は知らんぷりして突っ込む。  


「俺が普通の人じゃなく聞こえたけど?」

「……? うふふ、超能力を使いこなすヤツなんか、普通じゃないに決まってるでしょ」



 能力の事については日曜日に一通り説明はしてある。

 一応口止めはしたものの、その必要があったのか無いのかは、今でもよくわからない。



「使ったら鼻血出るんだってば。――なら自分の家には?」


「もっと行けない。お姉ちゃん、凄く仲良かったんだ。多分、ようクンと同じく、ううん。何もしなくても私を見ちゃうだろうし、そしたらそれこそ生活が崩壊しかねない。私と違って真面目な人だからさ。……それにお姉ちゃん、四つ上なんだからもうアラサーだもの、結婚してお家には居ないかもだし」


 ――って言うか今も家のソファで寝っ転がってテレビ見てたらそれはそれで不味いじゃ無い……。今度はそう言った後、素直に寂しそうな顔をする。



 仲良し姉妹だったんだろうな。

 多分その寝転がったお姉ちゃんの上に、何事も無く利香子ちゃんが座ったりして。


「ちょっと、何すんの! 邪魔!」

「邪魔してんの、そっち!」


 なんて言いながら。でもお互い笑って……、みたいな。

 そんなどうでも良い、でも大事な日常。普通の生活。

 それはもう利香子ちゃんの思い出の中にしか無い。

 二度と彼女は体験することが出来ないこと。



「あの……」

「だいたい、家に行きたくない一番の理由は別にあるの。……多分お仏壇にさ、いい顔で笑ってる自分の遺影が飾ってあるんだよ? ようクンなら積極的に行きたくなる?」

 うん。……それは確かにイヤすぎる。


「……ならないかな」

「でしょ?」

「でも」

「でも?」


「いや、だったら何が引っ掛かかってるのかなって。せっかく友達になったのに急に成仏されちゃったら寂しいけど、でも、なんか未練があるから。だからまだ居るんでしょ? 部長の彼でも無く、家族でも無いとしたら……」


 ――なんだと思う? そう言って少し意地悪そうに笑うと手を後ろに組む。

 ちょっとドキッとする。

 意外にもそう言うカワイコぶったポーズがハマるんだな、利香子ちゃん。

「意外って何よ。それにぶっても居ない。元から可愛いの。……もう、知らない!」


 ほおを膨らませてぷいっと横を向く利香子ちゃん。

 ちょっと待て、これに突っ込めってか!

 ――何処に行きたいのかわかんねぇよ!!

「はぁ。ま、いっか。……今ね。ちょっと気になる男の子が居るんだよ」


 言葉に合わせて背が縮むと白い半袖セーラー服になって、タイの上にペンダントが重なって光る。名札は手書きで【3の1 じょーぜんじ】。

 そう言えば。

 百中では、名前の刻印された本物の名札を忘れると、その日は購買部で一五〇円払って名札買わなくちゃいけないって南町がブツブツ言ってたっけ。

 ――しかしなんで百中の制服に……。


「ほう、夏服か。ちょっとエッチぃ気がしないでも無いが。……男子はやっぱセーラー服、好きなんだぁ。私は実際にこうして着てたんだから、おかしいわけでは無いけれど。でも三年生なのか、どうしても先輩枠からは外れないんだね」



 彼女の意思に関係なく、俺の見え方が変わってるのかも知れないが、俺には、見てくれる人見つけたのでコスプレを楽しんでいる。

 と言う風にしか見えない……。


 そして厨二男子としてこれは思わざるをえない。

 やべぇ! 殺人的に可愛いっ!



「だからね、その子は多分いい男になるからその過程を見ていたい、と言う感じなのかな。私の未練というは。……未練じゃ無いのかな、こういうのは」

「えーと」


「ニブチン。……ようクンのことが好きになっちゃったって言ってるの! だから、永遠の十六歳の私と同じ高二になる迄。せめてそれくらいまでは一緒の学校に居たいなって、そう思ったんだ」

「……いや、あのえっと」


「良かった、赤くなった! ……引かれたらどうしようかって、本気で心配しちゃった。十六年生きてきてその後、七年死んできたけど、私。……告白って初めてだったから」

「死んできたって何!? 始めて聞いたよ!! ――いや。でも利香子ちゃん、高校生だし」


 さしてモテもしない俺に突然、高校生の彼女とか。中々すごい事に……。

 あれ? 待てよ。一四歳である俺に対して利香子ちゃん、一六歳で亡くなってその後七年以上。

 ならば実際には二三,四歳。学年だと……、にーちゃんと同級生くらいっ!?


「あはは、ショタコンって言われても私は気にしないねっ! ――日曜日に別れてからいろいろやってみたけど、一六歳以上にはどうしたってなれないんだよ」

 なんかこれは突っ込みづらいと言うか、どう相づち打ったら良いかわかんないな……。


「……見た目、下には変えられるんだから後輩にもなれるよ? あぁ、そうだ。ようクンの前では中一ですごす事にしようか? おっぱいも身長も小さい方が良いんでしょ?」

 ……なんでそんな属性だと思ったの!?


「私、中二から急に背が伸びて、おっぱいもその頃からおっきくなったの。中一までブラ、要らなかったんだ。……ホラ、こんなだ」


 言いながら背が縮む。おかっぱ頭にややだぶついた紺のセーラー服、長めのスカート。

 身長は鹿又くらいになって、胸の部分は完全に何も無くなった。

 目つきが悪いところが無ければ。誰だかわからないところだ。


 そしてこうなっても生意気そうな美少女。と言う見た目に一切の揺らぎが無い。


「おっぱいはおいとくとしても。冗談で言ってるわけじゃ無い、本気だよ? でも。あんまり真面目にも受けないでね。寂しくなっちゃうから。……うんとね、ずっと見ていたいのは本当だし、生きている内に出会えれば、相手が中学生だしどうかしたら、絶対家までさらいに行ったくらいなんだけど」


 ろくでもないことを言いながら、背が伸びて今度は先岡高校の制服に。


「“時間”が合わなかったよね……。時間がかみ合わない、では無いのか。そこが歪んだからこそ中学生のようクンと高校生の私は会えた。十分理解出来てるよ。大人だからね、私は。だから束縛しようとは思わないし、どんな娘を好きになろうと、その娘と付き合ってあんな事やこんな事やそんな事をしようと、ちょっと悔しいけど、それは自由」


 ――幽霊に束縛されたら、それこそ呪われてる状態だしね。今度は普通に笑う。


「人を好きになって、そして告白した。……私はもうここまでで良いんだよ。ようクンを私が縛るわけには行かない。正直、こないだの子が恋人で、私の立ち位置は愛人でも全然構わないって思えてる。――フラれたく無いからって、ちょっとズルしてるかな」


 ……いや。我が天使長様は、ちょっと。

 いつの間にか高等部のエメラルドグリーンの制服姿に戻った利香子ちゃんはちょっと楽しそうに微笑む。


「ただ残念なのは、立ち位置が愛人で年上のお姉さんなのに、エッチなことを何もしてあげられないこと。何とかほっぺにちゅうくらいが関の山。逆に本体が元から無いから私はさわってももらえないしね」


 初めて会った時、頬に触れた冷たい手を思い出す。アレが、良くも悪くも彼女の限界。

 しかし、なんでいきなりエッチなこと、なんて話に持っていくかな……。


「べろちゅーどころか頭ポンポンさえして貰えない。……逆から見たって、おっぱいもさわれないとか。そんなの、男の子から見たら論外でしょ? 私としても欲求不満、たまりそうだし」

 茶化してるのか真面目なのか。

 何処まで本気なのかわからないのは、いかにも利香子ちゃんなんだけど。


「だから仲良しの先輩後輩で良いんだ。……あ、意識的に脱いだこと無いけど、見せるだけなら出来るのかも」

「俺はそんなのどうでも……」


 真面目なのか巫山戯ふざけてるのか、やはりつかみ所の無い人だな……。

 って言うか、意図的に脱げるの? 服!

 じゃあ背中、とかその他諸々。見えちゃったり……。



「あー、また顔が赤くなってるぅ。いろいろ考えちゃった? もぅ、エッチぃ。なんて。ふふーん……。残念でしたぁ、今は脱がないよ』

「いや、あの。そういう事を、か、考えたわけでは」

 うん。ある。


「硬派ぶってるのに可愛いんだよなぁ、そういうとこ。――だからさ、顔合わせた時におしゃべりしてくれればそれで良いんだ。私は当分“ここ”に居るって決めたから」


 ――帰るのに引き留めちゃった、ごめんね。利香子ちゃんはにっこりと、初めて見る優しい先輩の顔で微笑むと。

 くるっと振り向いて、そのまま校舎の方へ歩いて行く。


「何処、いくの?」

「暫くこっちにしがみつく事にしたんだし、だったら何かする事探さなきゃ。ようクンに取り憑くわけにもいかないしね。もっとも取り憑き方がわかんないんだけどさ。……やり方わかってれば、取り憑いちゃうんだけどもっ!」


 ――そう言うことだから、つっきーのにも宜しく言っといて。まったねー。こちらは振り向かずに。右手を挙げて振りながら、高校旧校舎昇降口の方へと歩いて行く。


 ……セーラー服を着た言葉を失う程の美少女っぷりを考えると、取り憑いてもらっても個人的には全然問題なかったかも、なんて。

 そんな事を思うのはいけない事だろうか……。


この後23時投稿分でお終いとなります。

最後までお付き合い頂けたら嬉しいです。

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