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その後1

 下校時刻ではあるものの夕焼けにはまだ早い時間帯。

 とは言え、いつも通り既に回りに人影はおろか自転車もはほぼ無く、下校を促す放送も既に終わった。

 眺めていたケータイの画面を消してポケットにしまう。


 0401。チェーンロックを外してカギを開ける。

 と、背後に人の気配。


「ようクン、今帰り? ……部活熱心なんだねぇ、あんま無理しちゃダメよーん?」


 振り返ると中等部の制服に銀のペンダントを光らせ、腰のポシェットを揺らしながら俺より少しだけ背の高い三つ編みの女子が立っている。

 大きめの胸を細い体が更に強調する。

 名札には中等部三年生の青の三本線の他、常禅寺(利)と書いてあった。


「利香子ちゃん。……あの、一つ伺いますが。何故に、そのカッコですか」

 そしてその姿は当然後ろが透けていたりはしない。

 俺から見ると普通の人との違いなんかは一切無い。

「ん? むぅ……。ね、ようクンにはどんなカッコに見えてんの? 今」


「どんな、って。中等部の制服だけど。……先輩って呼んだ方が良いの?」

「ふーん、なるほど。ま、半分はわざとじゃないんだけどね」

 そう言うといつの間にか多少背が伸びて髪が少し短く、制服の色も緑からエメラルドグリーンに変わって、その制服の下の胸も更に大きくなる。


「こうあって欲しいって言う、ようクンの願望みたいなものを感じたものだから、無意識で見た目変えちゃってたのかな。気をつけなくちゃ」

 そう言いながら彼女はちょっとスカートの裾を気にする素振り。


「でも中三を選ぶ辺り、私はやっぱり先輩枠なのかぁ。あ、もしかしておっぱい大きいの実はあんまり好きじゃ無いとか? ……ちょっと傷ついちゃうなぁ、数少ない私のセールスポイントの中でも最大最強、一番のウリなのに」


「断じて何も思ってません! それに利香子ちゃんは高校2年生で常禅寺先輩でしょ!?」

 ――そして当然大きい方が。……それも思ってないってば!

 セールスポイントって。自覚はあったんだね……。


「高校2年生の私に対する拘りが無い以上、当然と言えば当然なんだろうね。思い出したら中学の時って高校生は凄く大人で、近寄りがたかったもの。……ようクンが先輩属性持ちなのは、私としては今んとこはちょこっと嬉しいかな」


「だから俺は何も思ってないんだってば! 変な属性を追加しないでっ! だいたい、日曜からこっち、何処行ってたんだよ。写真をどうにか出来たから地縛霊で無くなったろうし、成仏しちゃったのかと思って心配して。……あれ? ここは良かったって思うトコ?」


「この世に未練はってヤツ? まぁねぇ。これも一般的に言われてるのとははちょっと違うんだけど、でもまぁその通りの所もあるかな。確かにこれで楽になれる、みたいなことは思ったし、日曜はかなり存在の意味が薄くなったって感じたし。――でも私は今日もここに居るんだな、これが。……そんなことよりさ」

 ――そんなことって。結構大事なことの様な気が。


「昨日、高校新校舎の屋上から見てたよ。直接関係ないのにゾクゾクしちゃった。あれ、つっきーの達の応援だったんでしょ?」


「知ってたんだ、試合のこと」

「そりゃね。……で、結果はどうだったの? 勝った? 勝ったの? つっきーの」


 ついさっき、メールと、そして試合速報のメールマガジンが相次いで着信した。

 我が天使長様ばりに、今日はケータイの電源を入れっぱにしてあったからだ。

「延長の末1-2で負け」

「東北最強は伊達じゃなかったかぁ、さすがはヴェロニカ。只のお嬢様じゃないねぇ」


 あれ? 変に詳しい。

 7年前から強かったのかな……。

 つーか利香子ちゃん、中学女子サッカーなんか、知ってたの?


「でもがんばったよ。ヴェロニカは本年度は公式戦全試合無失点だったのに一点取った。それに地方予選で延長まで引きずり込まれたのは、ここ何年かでも初めてじゃないかな。前半は完全にウチのペースだったみたいだし」


【センヴェロのスタメン表、レギュラー組三枚落としてベンチスタート。

 しかもDFまで一人入ってる! 舐めやがってぇええ!!

 全員引きずり出してやるっ! み~て~ろ~よ~っ!!】


 と、お昼前にメールが来た。

 ヴェロニカから見れば。

 聞いた事も無い、田舎の進学校であるところの県立峰ヶ先中等高等学校中等部。

 当たり前だが完全に格下扱いだったわけだ。


 但し、さっきまで読んでいたブログの試合レポートでは、戦前の下馬評とは逆に県立優位に試合が進んだようで、前半終了間際に点を失ったのはまさかの聖ヴェロニカ女学院中等科の方だった。

 試合内容だけ見れば、前半はボール支配率は県立が6:4で圧倒。ゲームの主導権も完全につかんでいた。とあった。


「前半は勝ってたんだ」

「後半はやっぱり自力が出た感じだね」

 メルマガのスタッツによれば東北最強の女王は、温存した三人を1点ビハインドで始まった後半開始時と後半三分でそれぞれ投入せざるを得なくなり、田舎の公立中学を相手に全力勝負を挑む事になった。


 一転ゲームはヴェロニカが主導権を奪い返したがそれでも、点数は後半7分の1点しか取れず延長にもつれ込んでしまった。

 レギュラー温存策は県立の戦力を見誤った、失敗だった。と言って良い。


 だから延長後半アディショナルタイムに決勝弾をヴェロニカが決めたのは、女王のプライドってやつなんだろうか。

 トーナメントである以上引き分けは無いからな。


 聞いた事も無いぽっと出の学校にPKまで引っ張られるわけには行かない。

 と言う事だ。

 結果は残らなかったが、ここは胸を張っても良いところだ。


【やーらーれーたー。延長後半で、あの体制と距離から枠にバッチリ行くとか。

 もはや人間じゃねーぞ、あの子。さすが日本代表は伊達じゃなかった・・・。

 だがしかし!今期の公式戦連続無失点は止めてやったぜ!】


 なので試合後の月乃からのメールもあまり意気消沈したものでは無かった。

 ブログを書いていた人が最後に、


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

……支配率は終わってみれば55:45でヴェロニカ。この辺は女王の風格。

但しヴェロニカは後半になっても攻撃陣を封じられて、東北の女子サッカーでは

失礼ながら無名の峰ヶ崎中高に最後までそのまま引っ張られてしまった。

事実上の東北最強でもあるヴェロニカとしては反省点でしょうね。


この試合で目に付いた選手は二人。

先ずはさすがの存在感。ヴェロニカ女学院のボランチ、2年生レギュラー

荒浜ひばりさん。年代別日本代表でスタメンに入ったのは伊達では無く、

後半、出場した瞬間から流れをがらっと変えました!


接触プレーはちょっと弱いけど、パスカットの技術は明らかに中学生レベルを

超えて居ると言って良いでしょう。

決勝点のロングループもシナリオがあるかのように彼女。

いつも思うことですが、彼女は、持ってますヨ。



そしてもう一人、負けちゃった峰ヶ先中高で10番を背負いトップ下に入った

二年生レギュラー愛宕月乃さん。


彼女は前半アシストをマーク、後半は防戦一方の中、攻守にわたってまさに

獅子奮迅の大活躍。フィジカルとスタミナに不安はありますが、視野の広さと

そしてドリブルの切れは見所アリ。

今の県内ジュニアユース世代では一押し!覚えといて損しませんよ! 

彼女の名前、あたごつきの さん、と読みます!日本代表だって夢じゃ無い!


荒浜さん渾身のロングに、全力で戻ってわずか数Cmでさわれなかった愛宕さん。

多分ボールは彼女の髪の毛を掠っていったはず。

アディショナルタイム最後のワンプレーでの息詰まる攻防、

マンガだってここまでのベタな展開は避けるでしょう(笑)


そして試合後の彼女たち二人の握手。もう泣きそう!

ってか泣きました(恥)!


荒浜さんからのパスカットからの愛宕さんのドリブル突破なんて、

是非、見てみたいなぁ。

先ずは次回の県選抜に呼ばれるように期待しよう、そうしよう。


仕事休んだぶん、良いもの見れましたね。

次は岩手の新興対秋田の魔女、3時キックオフです! 更新は6時予定。以上!!

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 と書いてたのは本人には伝えない事にしよう。

 必要以上に調子に乗っても鬱陶しいし。

 月乃が県選抜とか日本代表なんて、そもそもありえないし。


 ……中総体とかも試合のレポート書いてたけど、この人何してる人なんだろう。

 とか、その辺は詮索しても意味が無いんだろうな。

 趣味の世界だし。中学女子サッカーを求道する人が居ても良いだろう。

 結果として俺は試合の内容を知ることが出来るのだし。


「試合内容自体は悪くなかったんだ?」

「良かったみたいだよ。まぁ負けちゃったんだから、そこは良くはないんだろうけどさ。中学の女子サッカーなんか良く知ってるね。興味ないかと思ってた」


「さっきまで高等部の図書館で都合良く延々それをインターネットで見てる子が居てね。私も後ろでずっと見てたの。北の女城主、聖ヴェロニカ。って、すっかり刷り込まれた。高校も強いんだねぇ、ヴェロニカ」


 パソコンの画面を眺める人の後ろに身じろぎもせず立ち尽くす、女子高生。

 うっかり利香子ちゃんの姿が見えたら、実は廃校になった高校の制服を着てたりして……。

 中々怖い絵だな。パソコン使ってる人が呪われてるみたいだ。


「それでニワカと言える程度には知識が付いたの。友達の試合だもん、気になるじゃない? ……サッカーはお姉ちゃんが、男子だけど日本代表の試合よく見てたからルールくらいだったらわかるんだ」

「まさかサッカーの試合が気になって成仏できないとか」

「なーに? 私のこと成仏させたいわけ? さっきから……」


 ……もちろん、そうじゃ無い!

 いまさら、勝手に成仏なんかされちゃ困るんだけど。


次回最終話。変則二話構成です。

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