表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/45

日曜日2

「確かに、こんなのむき出しで持ってくるわけには行かないけどさ。――とは言え、バールを差し込む隙間自体がないんですけど。動かすったって重そうだし、裏板破っちゃった方が早くないか?」

「そう思ってノコギリとかナイフとか持ってきたんだけど、今見たら高級品だからか裏板も分厚いんだよ」


 机の下に潜った俺は正面に見える板をコンコン、と叩いてみせる。

 高級品、と言う形容が果たして合っているかどうかは置いても、裏板も天板と同じくらいに分厚い。


「電動ドリル持ってきたじゃん、ドリルで穴開けて細いノコギリギコギコでは?」

「写真が何処にあるかわからない。途中で引っ掛かってるかも知れないし、ドリルとかノコギリで傷つけちゃったりしたら不味いだろ」

「作った行為自体がキモいとか、そう言うのは別にして。大事な写真なんだろうしねぇ」


 ……あのぉ、友達にキモいって言わないでやってもらえますか? 月乃さん。 


「トンカチと、それからマイナスのドライバー持ってきてるから……、あぁ、それそれ。それくれ、それ。――これで隙間を作るから、そしたらすかさずバールの頭、突っ込め」


 無理矢理ドライバーの頭を壁と机の隙間にたたき込み、動かなくなったところでこじる。

 ……ドライバーの棒の部分がしなる、こんなになるの見た事無い。

 どんだけしっかり取り付けてあるんだよ。それとも重いだけ?


「……せっ! よぉし、ドライバー外して良いよ。……てこの原理でこじるんだよな? せーのっ、くおぉ! ぬうぅ! ――うそ? 全然動かない!」

「体重かけて馬鹿力で一気に引っ張れ」

「何回でも言うぞ? 私のは、かしこぢからだっ! せぇのっ! ――ぐぬぅう…………! ぷはぁ……、ダメだぁ。力は有っても体重は無いや、女の子だから」


「最後がわかんねえな。――手伝う、どこ持てば良い?」

「上の方。――わかんなくないじゃん、そのまんまの意味なんだけど」

「知るか! ――じゃぁ俺、上な。そのまま倒れてくるんだから頭、気をつけろよ?」

「足下大丈夫? 机に乗っちゃった方が、…………うん。その方が良いと思う。 良い? んじゃ、思い切っていくぞぉ、――いっせーのっ、……せっ!!」


 メキメキ、と言うかバキバキ、と言うか。

 とにかくそんな、いかにも木製のモノを壊すような音がして。ちょっとだけその机はズレた。

「こんだけ苦労して、これだけ? ……うわっと! バール、重っ!」

 隙間から外れたバールを捕まえると、月乃は一旦机を離れて床に置く。

 俺は机の上から出来た隙間に顔をくっつけ、懐中電灯で中を照らす。


「見える?」

「……あった、あれだ」

「まだ手は入んないだろ。でもこれでてこかけたら、今度は壁が壊れそうな気がするぞ」

 バールの当たった部分の壁はバールの形に凹んでいる。

「……俺達なら、これで十分。だろ? 見えてんだからさ」


 懐中電灯に照らされて、隙間の中。ラミネートフィルムが光を跳ね返している。

 距離、最大で約70cm。


「テレキネシスか。……んじゃ、性懲りも無くスタンピードやるんだな」

「お前に言われたくない。……レベル1で良いし、それ以上はやらない」


 プリメインスタンピードで底上げしないと到底動くわけもないが、一方レベル1でもスタンピードがかかれば間違いなく楽勝で拾える距離だ。

 通常版アンプリファイヤでは絶対足りないけれど、レベル1の1/3有れば事足りる。いつも通りにこの辺については説明のしようが無いけど、感覚でわかる。


「鼻血吹くなよ」

「言ってろ! お前こそ、ぶっ倒れても良いようにヘルメット被るか?」

 冗談事ではなく命に係わる話ではあるんだけれど、一回増幅、レベル1なら何度かやった事もあるし、そこまで危険な事もないだろう。


「陽太、写真取ったらそこですぐやめるからね。――ほい、コントローラ持ち上げるぞ」

「来た来た。――んじゃ、行くぞ」 


 隙間の中、光を跳ね返す薄い板はカタカタ動くと唐突に上に跳ね上がり、そのまま隙間の上で構えた俺の右手にピタッと収まる。 

「捕まえた? んじゃ、――はい、終了。……どう? 写真」


 おなじみの覆花山の登り口。看板の前、ポケットに片手を入れて隣の女性を見やる少年と、恥ずかしげにやや伏せた視線をカメラに送る、線の細くて胸の大きいセミロングの少女。

 その写真の何処にもわざとらしい部分は見付ける事が出来ないし、感じない。わざとらしいとすれば今時、写真の隅に赤いデジタルな字で日付が一緒に焼き込んである事くらい。

「…………。合成写真って。嘘だろ、これ」


「みして」

 月乃は写真を受け取ると、じっ。と見入る。――むぅ、と唸りながら口をへの字にしてひたいに縦じわを寄せて写真を食い入るように見ている。

 合成の証拠を見付けてやる、とかそういうモチベーションなのかも知れない。

 ……いや。でも、本人はあまり他人に見せたがってないようだしあんまりじっくりと見るのも。




「……本当に写真、見付けてくれたんだ。二人とも」

 いきなり後ろから声がかかって、ぎょっとしながら振り向く。

 銀のペンダント。肩から細い革紐で吊られたポーチを腰にぶら下げ、背の高いセミロング、高等部女子の制服。またしても気配を感じさせる事なく利香子ちゃんが、そこに居た。


「ようクン、つっきーの。おはようちゃーん」

「あれ? 利香子ちゃん。どうやって入ってきて……」

「おはようございます、利香子ちゃん。……で、良かったんですよね」

 固い声で月乃が答える。

 テレパシーなんか無くてもわかる、この声は完全に怒ってる。


「もう全然。先輩なんて要らないからね、つっきーの。――それで、写真を……」

「お断りします! 最低限、質問には答えてもらいますから。……その答えに私と陽太が納得出来なかった場合、職員室に持って行って、先生達に顛末を全て説明します!」

 写真から顔を上げた月乃は、しかし利香子ちゃんにきっぱりと言い切った。

 ――でも、職員室ってなんの話だ?


「――つっきーの、あの……」

「おい、月乃。いったいどうして……」

「どうしてじゃない、しっかりしろ陽太! 写真見たろ? 何一つ普通のトコがない! 人物も、背景も。おかしいトコだらけじゃないか、この写真」


 ――見付けたヤツを混乱させようとしてるだろ、これ! 悪意が有るとしか思えない! 月乃はそう言うと写真をこちらに突き出す。


「おかしいとこって……」

 ――本人には知らんぷりしようとか、そう言うのは優しいって言わないんだよ、全く。

「私が気が付いたトコ全部挙げれば良いのね?」

 そう言うと月乃は写真を持ち直す。



「一番最初、制服。なんで先高の服なの。5年前から峰ヶ先なんだよ? ――それから」


 あまりに写真が自然でおかしく見えなかったが、写真の二人は半袖ワイシャツに青いネクタイをゆるく締め、ズボン、スカートは共にチェック柄。

 写真に写る女性、利香子ちゃんはその上にSのマークのついた黄色のチョッキ。

 昨日柴田から聞いたじゃ無いか。

 これは5年前に統廃合で峰ヶ先中等高等学校になったから今はもう無い、りかこさんの着ているのと同じ、先岡高校の夏服だ。

 

「あと、分かり易いとこだったら日付、8年も前になってる。それと後ろの看板がボロくなってないし、字も薄くなってない。登り口もあんまり丸太が腐ったから、私ら中学になる前には初めの5,6段、コンクリの棒になってただろ。それにその横、今は入り口だけは手すりついてるし」


 写真の背景とつい昨日見た景色。その部分はあからさまに食い違う。

「月乃。それは、つまり」


「陽太も一番最初から言ってたろ? 幽霊騒ぎで一番得するのは誰かって。……工事業者の人達に発見させて幽霊騒動大きくして工事を中止させるつもりだったんだけど、――ヤバい、やっぱこれヤリ過ぎ。とか思って私らに回収させた、って線だってあるんだよ?」


 理科室に誰も来ない、そして工事までも中止になってしまえば……。

 調査と言っても2,3日、しかもせいぜい中学生のネットワークの中での話。

 それでも。――現状、得をするのは利香子ちゃんしか居ない。

 初めて会った日から今まで、一貫してそこは変わらない。


「友達なんだから、むしろ悪い事してるならキチンと本人に言わなくちゃ。言えないような関係だったらそんなの、友達って言わないっ! ……改めて。――利香子ちゃん。キチンと納得出来るような説明、してくれますよね?」



 写真を持って月乃が利香子ちゃんに詰め寄る。

 俺は極力、自然に見えるように苦心しながらその間に割り込むと、そのまま部屋の真ん中の実験テーブルへと足を進める。


「俺も説明は、して欲しいな。状況によっては悪戯と言うには悪質なわけだし」

 椅子を一つ引き出してその反対側へ廻り込む。月乃もその動きに従って俺の隣の椅子を引っ張り出して座る。利香子ちゃんもおずおずと、と言った感じで椅子に腰掛ける。


「私には理科室から人払いしたいだけにも思えるんだけど、だったらなんでこんな回りくどい事しなくちゃいけないのか。……そこがぜんっぜんわかんない」



「つっきーの、あのね、私別に……。ううん。良い。とにかく写真、説明するね。――写真。……私がいじったのは男の子と日付だけ、後は本物。男の子は別の写真データから切り取ってきたモノ。日付は写真の合成が終わった日、ベースにした写真はホントは日付の3日前に自分で三脚立てて撮った。作った理由は一昨日ようクンに言った通り、写真の男の子……、先輩とのツーショット写真が欲しかったから」



「え? ちょっと待って。利香子ちゃん本人と背景も混ぜないと。それに日付、月乃が言う通り8年前だよ? だったら写ってるのお姉さん、とか……?」

「4つ上のお姉ちゃんは居るよ。でもその写真に写っている女の子は、私」


「なんで利香子ちゃんがそうまでして話を大きくしたいのか、“理科室のりかこさん”になりたいのか、私にはわかんないよっ! ――キチンと……」

「りかこさんの話は私も聞いた事あるけど……。別に大きくしようとかは思ってないよ、つっきーの。それにわざわざなりたいわけでもなく……」


 多分この場合は、相手の話を遮っちゃダメな気がする。――じゃあ何よ! といきり立つ月乃を押さえつつ話をつなぐ。

「月乃、まぁ落ち着けよ。――利香子ちゃん?」


「二人共ごめんなさい、仲良し兄妹きょうだいなのに私のせいでケンカなんかしないで」

「別に喧嘩はしてない。ただ私は利香子ちゃんの話がおかしいでしょ? って言ってるの!」


「だから落ち着けっての。……それじゃ喋りたくても喋れないよ」

 そう言って利香子ちゃんの方を見る。

 目があって。利香子ちゃんはその目を閉じてからゆっくり開くと俺に頷く。

「うん。もう、……良いや」

 ちょっと待った! 

 ……良いって、なにが!?

もしよろしければ、感想欄でも活動報告のコメントでも構いません。

ほんの数行で構わないので感想を頂けたら、とても嬉しいです。

評価やブクマを頂けると言うなら、もちろんすごく嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ