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日曜日1

「月乃。こっちのが軽いから、お前持ってくれ」

「出る時から思ってたんだけどさ、竿しまうヤツでしょ、それ。ディバックはなんかわかるんだけど、竿袋は何? 釣り竿持ってきたの?」


 ここに来てやっと目が覚めてきたんだろうな。

 ジャージを着て自転車漕いで学校まで来るのは、月乃なら寝ながら半自動で出来る。


「長さがあって見た目もアレだし、むき出しじゃ持ち運べないから。――釣り竿は持ってこない。意外と簡単に折れるんだよアレ、高いしさ。折ったらにーちゃんに怒られる」

「ふむ。……見た目よりは軽いけど。何? このずっしり感」


 胸に校章と峰ヶ先中高/中等部の縫い取りの他、背中にデカデカと

 MINEGASAKI J&S HighSchool JuniorHigh Division

 とデザイン文字でプリントされた中等部の学校指定ジャージを着た二人組。

 良く似た顔をしたその二人は、駐輪場で自転車を止めると荷物を背負いなおす。


 自宅を「施設開放を手伝ってくる」と言って何事も無く出発した俺達は校門前で「草野球の応援でーす」と言ってこれまた事も無く校内に潜り込んだ。

 してみると竿袋はバットケースか何かだと思われたのかも知れないが。



 何しろ外部の人間がかなりの数来ているので、校門前に立った教師陣も細かいチェックはしていない。

 野球場が2面取れるだだっ広い校庭全域と、バレーボールの公式会場に使える程バカでかいのが自慢の新屋内体育館。

 両方を全面的に解放すれば当然こうなる。


 野球とテニスと卓球、午後からはフットサル、バスケの他、草サッカーの公式試合もやるのだそうで。

 そんなの、来場者仕切るだけでとんでもない事になるのは何もしなくてもわかる。

 県民の権利、ね。大人は何考えてんだか、よくわかんないな。


「愛宕、今日は校庭と新屋体以外は校舎の中には入らんねぇがらな?」

 そしてジャージやスエットを着た生徒も結構な数来ていたので、知った顔の生徒ならほぼスルーしているのが実際。

 だから、校門前でそう言われただけで通る事が出来た。



「何故俺の顔を知ってるんだろう、あの体育教師」

「あんまり成績が非道いから覚えられてるんじゃ無いの?」

「保健体育は筆記も実技も可も不可も無しの筈なんだけどなぁ」



 後で判明したのだが、実際にの体育教師が顔と名前を覚えていたのは月乃の方。

 男子サッカー部の顧問であれば、まぁ月乃の顔くらい知っていてもおかしく無いとは思うけど。

 単に中等部二年の愛宕 (女) と同じ顔した双子の片割れである所の愛宕 (男)。

 と言う覚えられ方だったらしい。

 わかったらわかったでなにかしら面白くない話ではある。


 とにかく荷物を背負った不審な双子は、人目を忍んで本校舎の裏。

 職員駐車場に廻る。

「先生達の車しか無いね」

「施設解放で来た人達は東の空き地に止めてるからだろ。駐車場に止めきれるわけ無いし」


 もっとも、ここに大挙して押し寄せられても身動きが取れずに不味いわけだが。

 駐車場の隅の方。工事関係者駐車場。と看板が掲げられた部分には当然車は一台もない。


「良かった。……工事は休みだよな、当然」

 そこから校舎裏へと入り込んですぐ。白い鉄板のと白い鉄のドア。

「この扉が開くの? 語呂合わせを見破ったカギってこれ?」

「うん」


 もっとも。語呂合わせに気付いたのは俺だけでは無くて狙撃者も、なんだけど。

 白いドアを開け、隙間から腕を出してダイヤル錠を内側からもう一度かけ直し、相変わらず施錠されていない校舎の入り口をくぐり高校旧校舎へと入る。



「なぁ陽太。この記号、なんだ?」

「多分コンクリ直すんじゃないか? よく見るとマークとか番号、ひび割れしたトコとか剥がれちゃったトコに書いてあるようだし」

「そう思うと、意外とひび割れだらけなんだね。崩れてきたり、しないもん? これ」

「多分中等部の旧校舎の方がもっと危ないだろ。あっちなんか木造だし」


 床がきしむ、だけでは済まずにたまに抜ける。

 ――二階で踏み抜いた日には落ちはしないけれど本当にビビるぜ、とは実際に二階で床を踏み抜いたフィルの話。

 先日も事情に疎い可哀想な一年生男子が旧校舎の餌食になったばかりじゃないか。

 早く壊せば良いのに。


 その点、この校舎なら多少ひびは入っていようが、コンクリートを調べて、その結果マーキングだらけになってるはずで。

 だったら、検査をした上で立ち入り禁止になってないんだから、極端な大地震でも来ない限りは安全。……つまり壊さないでまだ使う気なんだな、この校舎。



「そんなもんなのかな。――その扉の向こう、廊下でしょ? ……土足だけど良いの?」

「大丈夫じゃないかな。靴の裏、綺麗だし」

 土足厳禁の張り紙を見た月乃に答える。それに、どうせ近いうちにドアの先だって床も天井も剥がすんだし気にしなくても良いだろうよ。


「なーんか罪悪感を否めないなぁ」

 校舎の中の仮設ドア。鉄のこすれる音と共に開いた先には理科準備室。


 人の気配はほぼ無い休日の教室。たまに金属バットの甲高い音が聞こえる。

「休みの日の学校って、なーんか、気持ち悪い。普段は校舎の何処かに人が居るの前提に思ってるからかな」


「カーテン開けるなよ、外からバレると困るから電気も付けるな。それと廊下のカギもキチンと閉めておけよ? 廊下のガラスもだ」

「おっけー。結局閉めとく事にしたの?」

「うん」



 色々考えた末、入り口も施錠する事にした。

 外の入り口は施錠し直したわけだし、その時点で普通は誰も入っては来れないだろうけど、なにしろ狙撃者に関して言えば持っている武器が強力だ。


 用心に越した事は無い。ファイヤスタータに関しては逆に避難用として扉、開けておいた方が良いんだけど。

 あちらを立てれば、ってヤツだ。



「今日は利香子ちゃん、来てないよね?」

「通常ルートでは校舎の中には入れないからな」


 休みの学校という条件なら理科室以外の扉は全て施錠している。

 カギの事がなくたってドアを開ける事の出来ない彼女は、きっとここまではたどり着けない。

 だって教室の引き戸さえ開けられないのだ。


 校舎全ての扉が閉まって居る以上、昇降口の鉄の引き戸を開けられるわけがないし、新旧校舎をつなぐ渡り廊下の重たい鉄の扉も、やはり閉まっている。

 彼女は今日、この校舎には入れない。



「机のついてる棚ってアレだろ? しっかしこうしてみるとやたらにデカいな……」

「……そう、その為に色々持ってきたんだ。壊しても良いって言ってたしな」

 もっとも「壊して良い」って言ってたの、学校側では無くて利香子ちゃんだけど。


 ハンマー、ノコギリ、なんか細いノコギリ、ペンチ、充電式ドリル、懐中電灯、ドライバープラス、マイナスに大きなカッターナイフ……。ディバッグから中身を取り出す。

 うちの物置になんでこんなのが置いてあるんだろうと言うモノも多々あるんだけど。

 ――父さん、大学で教授やってたんだよな? 大工さんとかでは無かったよな?


「まぁ、にーちゃんも大概だけど工具大好きだったもんね、父さん。工具だけは無駄に一杯あるんだよ、うちの物置……。チカのお父さんとはアウトドアとか日曜大工繋がりだし」

「それはそれとして、――強引に動かすなら、それが多分一番使い出が良さそうなんだよ」


「ん? あぁ、この袋か。……ホントに何持ってきたの、これ?」

 月乃が竿袋から中に入っていた鉄の棒を取り出す。


「おぉ! バールのようなものだ!」

「アホ。それがバールだ」


 ニュースなんかでは良くバールのようなもの、って言うけどな。

 鉄の棒、と言うとかえってイメージし辛いとかそういう感じなんだろうか。

 いずれこれはバール、だ。


「これさえあれば玄関のドアからATMまでなんでも壊せるね!」

「何するつもりだ、お前っ!」

 ……って、バール本来の用途は俺も良くわからないんだけど。

 形は技術の時間に使う釘抜きをデカくした感じだし、5寸釘とか長い釘抜くときに使うんだろうか。

 一番使えそう、かつ、何故我が家に置いてあったのか一番わからない道具だ。


 

 さてさっさとやって帰ろう。

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