土曜日8
「違うんならそれで良いよ。そうで無くて、――レーザーで狙い付けるヤツあるだろ? アレってモデルガン、……じゃない、エアソフトガン、か。それ用のヤツってあるか?」
「それってレーザーサイトの事ね。普通にあるし、私も持っているけど使っていないわ」
「なんで?」
「前提条件として空気でBB弾を撃ち出す以上 外で30mも離れたらもうまともに当たらない、とこれを覚えておいて。R18規格の銃ならもっと射程は伸びるのでしょうけど」
「年齢制限とかあるんだ」
「一応ね。でも例え私の銃の射程が50mだったとして、当たり前だけどそれでも射程は1mでも長い方が良い。だから改造、みたいな話が出て来るのだけれどね。さっきの話の銃だってR18のガスガンを更に改造したものだったけど」
「遠くに飛ぶならパワーもあるか。ま、遠くから撃てれば有利だよな。それはわかる」
「そういう事。……で、本筋の話だけれど、基本的にレーザーサイトは屋内の近接戦闘なんかで真価を発揮するのよ。構えていきなり発砲出来るから。――本物の銃だったらそれこそ映画みたいに威嚇にも使えるでしょうけどね。わざと見えないところから照準してるのを見せつけた上で、お前はもうこの時点でお終いだ、諦めろ。って」
その使い方はスゴく南町的だと思う。口には出さないけど。さておきレーザーサイト。
「距離を取ったら使えないって事? レーザーが届かないとか?」
「それは無い。エアガンだったら射程よりレーザーサイトの方が有効距離は普通長いし、例えばレーザーサイトを更にスコープで覗けばかなり正確に狙えるし、修正も容易。ただ狙う相手は動かない的では無く、考えて動く人間なのよね」
「そりゃそうだろうけど」
「勿論、使用するには銃に取り付けなければいけないし電池も調整も必要で、その上単純に銃が重くなる。それは腕力も体力も無い私には取り回しだけでは無くて照準にも影響する大きなデメリットなのよ」
「結構重いのか、アレ」
「更にレーザーの光は基本見えないとは言え、ほこり、湿度、周りの照度。環境に寄っては隠れて狙いを付けているはずなのに、自分の出している光で居場所がバレてしまう事だってある」
これはわかる。昨日そのせいで頭で考えるより早く、廊下側に狙撃者が居る事に気が付いたんだから。
「発見されてしまえばそれこそたった30mしかないのだし。……それに」
「ん? まだなんかあるのか?」
「腰だめだろうが横向きだろうが直弾位置がほぼわかる、と言う事はレーザーサイトに頼れば射撃が下手になると言う事でもある。と言われてお兄ちゃんに使用を禁止されたの」
「……そう言う鬼軍曹みたいなキャラだっけ? おにいちゃん」
「目にレーザーが入ると危ない。とか言う理由でほとんどのサバゲー専用のフィールドで使用を禁止されているから。と言う事もあるんでしょ。……この辺には無いのだけれど」
……逆に言えば他の人間への影響を無視して、間違いなく的を射貫くために使うなら効率が良い。と言う事だ。
俺と利香子ちゃんの目と鼻の先でガラスのフタは弾け飛んだ。
狙撃者はそもそも基本的なルール自体を守るつもりが無い。
赤信号は止まる。エアガンは改造しない。レーザーも銃も人に向けない。当たり前の事だ。
「意外と陽太も拳銃とか好きな感じ。……なの、かしら?」
「……今度おにいちゃん帰ってきたら、俺も混ぜてくれるように頼んで」
「……っ、ラジャー! 了解! わかったわ、さっそく今晩電話するねっ!」
「おい、いきなりそんな電話かけたらおにいちゃんが良い迷惑だよ……」
南町め、内緒で楽しそうな事を……。
それは後に回して。――今の南町の話で、俗に言うモデルガン、もとい、エアガンか。その類でも十分危険だと言う事はよくわかった。
ただでさえ姿も能力の底も見えないファイアスタータに、十分な殺傷力を持った狙撃者。
悪い事もせずに人目を避けて、毎日放課後。ただひたすら準備室の机に座るだけの利香子ちゃんに、それらから身を守る手段があるわけが無い。皆無だ。
準備室に行くなと言うのも残酷な気がするが、要らない怪我をするより百倍マシ。
だから準備室への用事を先ずは無くしてもう一度頼むんだ。
もうこの部屋には来ないでくれと。
「……急がなくちゃ、いけないよな」
「え? ごめんね、なんか急ぎの用があったの? ……気付かないで付き合わせちゃって」
「は? ……あ、こっちこそごめん、ちょっと別の事考えてた。――別に今は忙しくない」
南町と話しているのに利香子ちゃんの事を考えてた、
まぁこれは別の事だろうな。――この後の予定とすればせいぜい、買ったマンガを読む事とにーちゃんの帰る時間によっては晩ご飯の準備はしなくちゃいけないかなぁ。くらいのものだ。
「ふーん。忙しくないなら良いのだけれど。……たまにのんびり散歩も悪くないね、なんて思っていたものだから、悪い事をしちゃったかなと思って」
「そういやなんか二年になってから、忙しい気がするよな。もうすぐ夏休み、早いよな」
「それはそうなのだけれど、でも私と一緒にしては悪いでしょうね。……陽太達は二人とも通学とか宿題とか以外にも、ここ最近部活とか、基本的なところから色々あるものね」
その他に人命救助の手伝いとか、学校の怪談が怪我しないように考えたりとか。
このところ自分には直接関係の無いところで忙しい気もするけども。
「つっきーは、今日も練習?」
「今頃は町民体育館の運動場じゃねーかな。今日は学校、追い出されちゃったからな」
「え? 学校の英雄なのに、なんで追い出されるの?」
「明日施設開放でその準備があるってさ」
「その辺住民の権利っつーものにはシビアなのね、県立だけに」
「いくら何でもそれは無しだろ。――1枚持って行きなさい」
「陽太の判定もシビアなのね……」
足が止まって肩を落とすほど自信有ったのか、それ……。
だから駄洒落キャラは辞めとけって、向いてないんだから。
「あ、そうだ南町。これからちょっと家に寄っていっても、良いか?」
「な、なに? 寄って……、も、勿論良いよ。――ちょっと部屋が片付いていないけれど」
――何かにつけて部屋を片付けようとするな。あれ以上、どう片付ける気だ!
「ともあれ南町、何も用事がないなら」
「用事はないけれどどうしたの? ……あ! M4A1を見たくなったの? そうなの?」
「えーとなんだ、うん。……見せてくれるなら、見たいかな」
「うんうんうん! 見るだけじゃつまんないよね、そうそうそう! 撃たせてあげるから寄っていって! 今、お兄ちゃんの部屋が武器庫兼練習場になってるから! だからっ!」
居ないとは言え、人の部屋、なんだと思ってるんだお前。
……そうか、要らない物は全部おにいちゃんの部屋に突っ込んであるんだな?
道理で部屋にモノが無いわけだ。
「いや、あの。……ありがとう。――あと、それとは別にちょっとお願いがあるんだけど」
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