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土曜日7

「なんで急にそんな事? ちなみに一般的にモデルガンなら弾の出ないヤツを指す言葉よ。BB弾撃つのはエアソフトガン、オリンピックとかで使うヤツはエアピストルとかエアガンと言うのだけれど。その辺の細かいところは今はどうでも良い事でしょうね。――ふむ。確かにお兄ちゃんの部屋にあるけれど。良く覚えていたわね」


「昨日さ、学校でBB弾拾ったんだよ。だから校内で撃ってるヤツが居るのかもって。だったら人に当たったらどのくらい痛いのかなって」

 どころか目と鼻の先を撃たれたんだけどな。


 南町は本人に自覚が無いだけでレシーバもディティクションも超強力、更に頭も勘も良い。だから変に嘘をつくとあっさりバレる可能性がある。

 利香子ちゃんの事がバレて困る事も無いんだけど、一応内緒にする約束だし。


「お利口さんの巣窟である県立でもそう言うヤツが居るのね、ちょっと意外。――多少距離があったところで当たれば痛いわよ? 当然だけど」

「痛いんだ」


 風が吹いても倒れそうなひ弱でか細い利香子ちゃんの事だ、

 それにさっき聞いた噂から推測するとあのペンダントとポシェット、緊急用の薬を持ち歩くくらいに病気は悪い。

 ――撃たれても良い、私はここに居る。と当人は啖呵切ったわけだけど。

 離れて当たっても痛いんだったら、もしも彼女に当たったらそれだけで致命傷になっちゃわないか? 

 実は言動のイメージに反して、そんな心配をされてもおかしくはない利香子ちゃんである。


 ただ、想像よりもパワーが無い。

 目に当たったりしたら大変だろうけど、それでも痛いくらいなのか。

 それではビーカーを割ったりは出来なさそうだ。――中高生がおもちゃ屋さんで買えるくらいなんだから、威力がないのは当たり前と言えば当たり前だけど。 

「それはまぁ。サバゲーなんて撃ち合って遊ぶのだし、それなりの装備は必要だけれど、そもそもは被弾前提なのだから危険な破壊力なんかあったら危な……。あ、そう言えば」


「なんだ?」

「見た事あった、危ないの」

「……危ないの?」





「私が小学生の頃、お兄ちゃんの先輩って人が改造したエアガンを見せに来た事があってね、部屋じゃパワーがわからない。と言って庭のテーブルの下に一斗缶を置いて、リビングの窓を開けてソファの辺りからそれを狙って撃ったのよ」


 アウトドア大好きお父さんの趣味の一環として、南町家の庭には結構立派な常設のテーブルがある。

 リビングのソファまでなら結構な距離がある。そして。――BB弾が散らからないように一斗缶を置いて射撃の練習をする、と言う話は聞いた事がある気がする。


「良く知ってるね、一斗缶に穴を開けて的を置いたりするのよね。動画で見た事あるけれど、そっちに凝っちゃってピタゴ○スイッチ的な工作をする人もいるんだけど。まぁ、知っての通りお兄ちゃんはそう言うの苦手な人だし、その時の的は直接、素の一斗缶だったけれど。……だからその日も、――あーあ、庭に跳ね返ったBB弾散らかして、日曜日に草むしりに出たお父さんから怒られるのに。とか、そんな事を思ってみていたのだけど」


 ――確かに、結果から行けばBB弾は庭に散らかって回収不能にはなった。けれどそれは、小学生の私が想像した散らかり方では無かった。そう言って南町は足を止める。


「そのオレンジの弾は一斗缶の表と裏、と言う表現で伝わるかしら。いずれ、いくら一斗缶が薄いとは言え、鉄板二枚を打ち抜いた上で庭石に当たってそこで粉々に砕けた」

「貫通? 一斗缶を……?」


 以前、ランちゃんが密輸拳銃と改造エアガンを同列に語っていた事を思い出す。

 同じ持つなら弾の入手も面倒くさいし、だったら改造エアガンで良いじゃ無いか。と。

 更に細かく思い返せば自分の命がかかった状態で、自分を狙う拳銃に文句を言っていたわけだが。その辺は置いといて。


 ランちゃんの見解においては、拳銃だろうが改造エアガンだろうが、自分を殺すというならどっちでも殺傷能力は十分だ。と言っていたのだ。

 改造エアガン、と言うからもう一つピンとこないけど、それは例えば破壊力が大きいのだったら同じ事じゃないか?

 それに鉄の弾を撃てるようにする改造もあるらしいし。


 それに破壊力と言うなら。例えば、一斗缶を突き抜けたBB弾がそれで威力を落とす事もなく、岩にぶつかって砕け散る程であれば。それはもうおもちゃではなく武器だろう。


「撃った本人も驚いていたのよね、本当は一枚貫通で一斗缶の中に弾が落ちる予定だったと言っていたけれど。……結局その銃は威力がありすぎるので、以降一度も使わずに解体したみたい。サバゲーで相手を撃ち殺しちゃ不味いよな、って」

「威力がありすぎて使えないというのもなんか変な話、だよな……」


「遠くに正確に飛ばしたいのであって、人に危害を加えたいわけではないと言う話よね。そもそも改造自体が法律に抵触するのだから、それが当然と言えば当然なのだけれども」

 準備室の強化ガラス製のビーカーを叩き割り、ガラスで出来たそれなりに重いアルコールランプのフタをあっさり弾き飛ばす程の威力。


「完全にイリーガルな話になるのだけれど、鉄の弾を撃ち出す改造もあるのよ?」

 それならビーカーを叩き割ってもおかしくない。

 つまり昨日。十分な殺傷能力を持つ、改造エアガンという名のあからさまな武器。

 それを構えた狙撃者が理科準備室の廊下側窓の向こう、曇りガラスの裏にいた、と言う事だ。


「アレは改造拳銃……。と言う事か」

「……ん? まぁそう言う言い方であってるのかもしれないわね。あの距離から一斗缶突き抜けるなら本物の拳銃と変わんないな、怖いな。とか思いながら見ていたの覚えてる」

 その銃が一斗缶を貫通して、強化ガラスを叩き割るというなら、それを一斗缶よりは柔らかいであろう人に向けたらどうなるか、ましてや病気を抱えた利香子ちゃんに。

 ――なんて、そんな事。考える必要も無い。


「でも南町。どうだろう、サバゲーとかエアガン自体は悪くないと思うんだけど」

「私もそう思う。ただお兄ちゃんが帰ってこないとチームに混ぜてもらえないからサバゲー、出来ないのだけれど。私のお友達は当然誰もやっていな、い。……し?」


 と、ここまで喋って普段、駄洒落を披露する時でさえおすまし顔であまり表情の変わらない南町が明らかに、しまった。と言う表情になってゆっくりとこちらを見る。


「……ん? ――え! えぇえ!? なに? お前もやってたの!?」

「う。……うん、そう。お兄ちゃんの高校の友達に、混ぜてもらって……その」

 そこまで言うと表面上はいつも調子に戻る。開きなおったってヤツだな、これは。――本当に良い性格してるよ、お前。


何時いつも言うのだけれど、私。性格は間違い無く良いわよ? ――私用のゴーグルと服、買えって言うからせっかく新調したのに、言った本人は東京に行っちゃったし。……私はね、狙撃手なのよ」

「スナイパー?」


「私、走るの遅いしね。場所がバレたらその時点で死亡確定だけど。……ちなみに愛銃はM4A1。狙撃手なのにカービン銃なのがイメージ的にアレだけど取り回しは良い。――うん? そうよ、女の子の部屋にはそぐわないからお兄ちゃんの部屋に置いてあるの」


 しかも銃に対しては、ランちゃんと話が合うくらいに知識あるっぽいし。――あ、お前。俺達が遊びに行く時はおにいちゃんの部屋に隠してたんだな?


「か、隠していたわけでは、ゆ、言うに事欠いて何を人聞きの悪い事を。それは誤解というものよ。……いいわ。内緒にする必要は初めから無いのだし、今度来たら見せてあげる」

「なぁ、エアガンに知識のありそうなトコでもう一個聞いて良いか?」


「な、なに? ……普段のイメージとなんかかけ離れてて話すのがかっこ悪いし、もしも陽太に引かれちゃったら誤魔化しようが無いから内緒にしておこう、なんてせせこましい事を考えていたわけでは絶対無いのよ? 本当の本当に違うんだから!」


 真っ赤になって視線を明後日の方向に送りながら、南町は力説する。

 ……せっかく内緒にしてたんなら、わざわざ自分で詳細をバラす事もあるまいに。

赤くなり損だろうよ。

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