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土曜日5

 119番の後、もう一本電話をかける。

『あい、黒石でしたぁ。――あ? ヨウが? 土曜日の、こっだ朝早ぐになんだずぅ』

 訛りが強い。寝ぼけてるな? もうお昼過ぎだよ、ランちゃん! ……だけど。

「良かった、繋がった! 寝てるトコ悪いけどお願いがあるんだ。大至急覆花山にボルボで来て欲しいんだよっ!」


 我が家には3台の車がある。にーちゃんのランサーエボリューション、ランちゃんのトゥデイ、そして父さんが乗っていた現状ユーザー不在のボルボ850エステート。

 ランサーは土曜日なので洗車の日、多分今、ガレージには無いはず。ランちゃんの車は軽でしかもボロ。


 そしてボルボを使う時には基本俺か月乃の承認が必要で、自分の用事ではランちゃんは絶対に使わない。逆に言えば俺が頼めばランちゃんはボルボで来てくれるはず。

 その電話のほんの数分の後、ランちゃんから着信。


『ヨウは南署の林谷クン、顔、わかんな? その辺話は付けたから、現地には彼に行ってもらう。さっき駐在所からサイレンが聞こえたから山本さんも向かってるはずだ。あたしも、もう出たから一〇分くれーで着く。事情聴取って程でもねーが自殺未遂だったら3人とも警察に話聞かれるから、一応そのつもりでいでけろ』

 だからにーちゃんでは無くランちゃんを呼んだんだ。多分警察が来ると思ったから。


『あと、もうひとっつ。まだ意識戻ってねーが? 頭だったら素人じゃなんにも出来ねー。むしろ救急車来るまでほのまんま、絶対動がすんでねーど? もしも意識が戻ったとしても、だ。いーな?



「……警察の方が。いらっしゃる、んですか? 先輩」

「大丈夫だ籠ノ瀬、来てくれるのは知り合いの刑事さんとウチの近所の駐在さんだし、話ったって見付けた時の様子を聞かれるくらいだよ。それにランちゃんも呼んだから、その辺は全然心配要らない」


「なんか愛宕先輩が助けに来てくれる気がしてました。もう、どうして良いかわけわかんなくなっちゃってて。――ホント助かりました……」

「偶々だ。なんとなく自転車で行けそうな道があったから入ってみただけだ」

 本当はお前の呼ぶ声が聞こえたんだけどな。


 俺達兄妹以外の能力者。

 それは意外でも何でも無い普通の存在。


「お前ら、来週辺り表彰されるんじゃ無いか? 毎日人命救助か、正義の味方だな」

「表彰も結構なんですが、あまり話が長引くと帰りの電車とバスが……。正義の味方がバスの料金箱で小銭崩してるのは見た事ないです。大概スゴいバイクとか飛行機とかですよ」


「正義の組織だったら、全員分のバスのカードくらい持ってるだろうから小銭の心配はしなくて良いんだろうさ」

「なんでみんなバス移動前提なんですかっ!」

「県内だったらJRも使えるだろ、変身は駅を出てからだ」

「そう言う経費削減!?」



「冗談はおいといて。……ランちゃんがボルボで来てくれるはずだから、家まで送ってくれって言っておくよ。お前らは足の心配はしなくて良い」

「え? いいんですか?」


 もう救急車とパトカーのサイレンが聞こえる。あと五分もしないで救急隊と警察の人達がここに来る。――鹿又の声が聞こえたお陰だ。

 俺達兄妹以外の能力者。鹿又も自分の能力にはきっと気付いていないが、月乃と同程度のかなり強力なトランスミッタだ。

 ……能力者は特別じゃ無い、自分で気付いているかどうかだけの違いであって、そこら中に普通に居る

 善道さんは過去視能力者パストコグニストだし、南町だって能力者検知能力ディティクションを持っている。そ

 その他にも俺達は月乃以外のトランスミッタと透視能力者、クレアボヤンサが居る事を知っている。


 ……ならばファイアリングを使う能力者だって普通に居ても不思議は無いし、それが中学生や高校生であってもおかしくは無い。

 ……ファイアスタータが生徒として県立に通っていようと、そこにおかしな部分は何も無いのだ。

 ――利香子ちゃんは、でも……。



「愛宕先輩。救急車のサイレン、止まりました……!」

「ん? 駐車場に着いたな。……やっと救急隊の人達が来る。大変だったな、二人とも」

「良かった……。これでこの人、助けてもらえるよ! やったね、ふうちゃん!」

「……うん。――もうちょっとですから、……あと少しだけ、がんばって下さい」




「……んでは。発見者の女子中学生二人は、黒石女史が現着次第引き渡し。その後引き続き、自分は現場確保と鑑識の支援に当だるごとで良いっすか? ――――はい了解。――はい、百ヶ日駐在1からも以上」

「山本さん、黒石でした。お疲れ様~」

 肩に付けた無線に話している山本さんに、小柄で金髪ジャージ姿で重そうなバッグを肩にかけた高校生くらいに見える女性が話しかける。

 良かった。警察だけで無くランちゃんも到着した……。

 


「……んだがらさ、その辺、ひづようねぇべ。っつー話なんだげんともよ。そう言う訳でオラ、鑑識居る内はうごがんねぇがらさ。……黒石ざん、わりげんともお願いすっからや」

「オレは南署まで運転するだげだじぇ。なぬも特別な事はすねずぅ」


 簡単に事情を説明する駐在の山本さんと、それをささっとメモをとりつつ聞くランちゃん。

 山本さんのネイティブ全開仙台弁に引きずられて、つい素が出たランちゃんの山形弁で何気なく会話が成立した。

 日本語の可能性を垣間見た気分だ。

 しかし山本さん、なぜ山形弁のヒアリングができる……。


 結局、救急車と野次馬が去った後。第一発見者である山伏候補生二人は、もう少し話が聞きたい。と言う警察の要請に応じて、いつも通りジャージ姿で重そうなカバンを肩にかけたランちゃんと一緒に南署まで同行する事になった。

「じゃ、ランちゃん。寝てたとこ悪いけどこいつら、宜しく」

「心配には及ばねーさ先輩。まもなく起きる時間だったしな。――あど、終わったらこのまま家まで送っていぐがらよ。んだからボルボだったんだべ?」


 一応上着だけはお出かけジャージだけど、ズボンは普段パジャマにしてるヤツだし襟元に見えるTシャツも昨日の夜見たのと同じ色。

 金色の髪は後ろで縛った上で帽子を被って寝癖を誤魔化してるんだな。スニーカーの下も靴下履いてないし。

 本当に文字通り起きてそのまま吹っ飛んできたらしい。


 実質パジャマでそのまま出歩いてるのと変わらないんだけど、普段通りにしか見えない。と言う事実は、呆れるを通り越してさすがはジャージ女。としか言い様が無い。

 そのランちゃんが後ろの席に鹿又と籠ノ瀬を乗せた赤いボルボのドアを閉める。

 赤いランプをしまった林谷さんの銀色の覆面パトカー。それが駐車場から出て行くのに続いて、ボルボも走り出す。


 で。駐車場には振り出しに戻る。といった感じで俺と自転車が取り残された。

 実際は背中に“鑑識”と大きく書かれたジャンパーを着た2人のお巡りさん達が乗ってきた、大きな白いワンボックスのパトカーと山本さんの小さな白と黒のパトカーがまだ居るんだけれど、さっきの現場に全員行ってしまっている。駐車場には結局俺一人。

「……今度こそ、帰るか」


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