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土曜日1

 土曜日。

 以前鹿又が納得いかないと言っていた午前授業の日。

 但し、今日は明日の準備のためいつもより一時間少ない三時間しか授業は無く、十二時三十分までには完全下校するようにお達しが出ている。

 

 今は三時間目に入ったところだが、前半二十分ほど静かに自習をしているように。と言い残して担当教師は何処かに行ってしまった。

 だから、約半分の生徒が建前として教科書やノートを手に自分の席を離れている。


 隣の机ではなにやら月乃と柴田が話し込んでいる。経験則から言ってこういう雰囲気の時のこいつ等には触らない方が良い。そして俺の机の前にももう一人。

「なぁ、陽太。こないだの約束、……その。お前の後輩、あー、籠ノ瀬さんの話だが」

「気が早いな、フィル。今日は学食休みだからおごってくれるなら月曜日だな」


「成功報酬だと言ったはずだ! ……そうでは無く、何かプランがあると言っていたが何をするつもりだ?」

「たいした事は。単純に籠ノ瀬と話が出来れば良いんだろ?」

 他人完全排除のマンツーマンでは無く、真逆の方向だけどな。

 これは今のところ黙っておこう。

 一年生女子人脈の元締めである鹿又を動かせば、意外と簡単に事は成りそうではあるし、相手が鹿又だけに俺の頼みを断ったりはしないはず。


「まぁそうだ。自分だけじゃ無いとわかれば楽になる筈なんだ、俺がそうだったから」

 籠ノ瀬を助けたい、それがこいつの重要事項。

 好きとか嫌いはあんまり関係ない、のかな。いずれ今日は何も聞こえない。

 そこまで入れ込んで話しているわけでも無いか。


「その籠ノ瀬なんだが、昨日表彰ものの活躍をしたらしいんだ。聞きたいか?」

「当然だぜ。俺に聞かない選択肢があるわけ無いっ!」

「顔を近づけるな、鬱陶しい! ――月乃、ちょっと良いか?」

「うん? ……なーに?」 


 そこから昨日の話をフィルにも話してもらう。当然俺も知っているわけだがこういう話は当事者が直接語るのが良いのだ。

 ……無責任な第三者が色々語った末が“ゴーストバスターツインズ”だったりするし。


「緊急時となれば何とかなるのか……。それなら良かった」

「フィルは意外と過保護だなぁ。何か庇護したくなるタイプの娘ではあるんだけど」

「ひよりちゃん、ああ見えてふうかちゃんは基本的にしっかりしてる娘なんだよ?」

 ……本当に安堵の表情のフィル。多分アレだな、好き嫌いとか抜きにしてその部分だけは本当にお母さんのように心配している。


「ね、結局、幽霊退治受けたんだって? 今もその話してたんだけどぉ」

「元部長のお願いじゃ、むげに断れないよ……」

「初恋の先輩なんでしょ?」


「お、おまえは……、あのな、も、物事全てに恋愛感情を絡めるんじゃないよ!」

 あまりのショックで声がひっくり返っちゃったよ。

 ……今まで絶対に誰にもバレてない、知られてないと思ってた、誰にも言われた事の無かった事を直接言われて本気でビビった。



 去年、そう言う感情がゼロだったか。と問われれば口を濁さざるをえないのだ。

 どんな恐怖体験があろうとも、我が天使長様が素敵で美人なお姉様である事実は、これは一切揺るがない。

 ……こいつはこの手の話については勘がさえまくるからな。


「優しくて天使みたいな人なのは事実だけど、とても尊敬している先輩なんだ。部長だったし、演奏もすんげー巧かったし、俺に楽器を教えてくれた師匠だしな。――けどまぁ、俺達そもそも霊感なんか無いしさ。幽霊退治なんか無理だから結果的には断るんだけど」



「ふーん、なんか両方言い訳がましいの。ま、いっか。――あのさ。陽和ね、陽太達の話を聞いて、高等部の先輩から旧校舎の理科室の件、ちょっと情報集めてきたんだけどさ」

 ここで柴田の声のトーンがぐっと下がる。


「高等部では有名らしいよ。理科室の、りか子さん」

 指先でくるくる回していたシャーペンを落としそうになって慌てて空中でキャッチ。

 月乃はと見れば口をぽかんと開けている。……季節的に虫が入るぞ。

 ノコギリクワガタとかとかカミキリムシとか入ったら怪我するから口、閉めとけ。

 ノー。

 のジェスチャを目にした月乃が慌てて口を両手でふさいで、口もぱくん。と閉じる。

 ……順番逆だろ! お前はからくり貯金箱かっ!


『陽太! ひよりちゃんになんか突っ込め、乗っかるから!』

 口を閉じてから喋るな、鬱陶しい。

 しかし、内容的には月乃が正論。こういう時は思いきって普通に突っ込むべきだろう。

 建前上俺達は何も知らない。現状の設定としては、高等部の先輩方から多少話を聞いてきた柴田の方が詳しいくらいのものなんだから。

 そう、俺達は何も知らない。ならば。


「なんだよ、柴田。そのひねりの無いネーミングは!」

「そ、そうだよ。トイレの花子さん安っぽくしたみたいでなんか、し、失礼じゃない!?」

 乗っかりゃ良いってもんでもないだろうよ。だいたいが。誰に失礼なんだ? 花子さんか?

 ……但し柴田には効果があったようで。


「なんでこういう時だけ二人で息を合わせて突っ込んでくるの!? ネーミングは陽和じゃ無いもの、聞いただけだもの、そう言う話なんだもの! そこは聞き流してよ!!」

 こっちのダメージも巧くいなせた。

 ……利香子ちゃんは直接関係なさそうだけど、さて。


「まぁいいや。で、りか子さんがなんだって?」 

「だから名前付けたの陽和じゃ無いんだってばっ。もう! ……フィル、閑話休題。って言うんだっけこういう時。――うーんと、去年まで高校旧棟の理科準備室、先高時代から伝統的にロボットのプログラム室みたいに使ってた。……って知ってる?」

「ロボット? 県立でロボット作ってんのか?」


「あれ、フィルは知らない? 高等部の科学部、東北大会でも毎回良いトコまで行くんだよ。県立峰ヶ先中高って言えば全国区でも結構有名らしくて、な? 陽太」

 な? じゃねぇだろうが、偉そうに。お前も一昨日、南町に聞くまで知らなかったじゃ無いか。

 一応、――あぁ。と生返事をしておく。……でも、先高時代から?

  じゃあ、あの無造作に置いてあった、型遅れという言葉も生ぬるいパソコンは実際にプログラムに使ってたヤツなのか。


「多少は聞いてる。……プログラム室兼サボり部屋、だったんだろ?」

「二人とも知ってるなら話が早いや。――あのね。今から七年くらい前、プログラム担当の女の子があの部屋で一人で“残業”してたんだって」

「なんの話だ? 七年前なら峰中と合併して峰ヶ先になる前、まだ先岡高校だろ?」

「幽霊話には過去編がお約束なのだ。様式美ってヤツだね。――でね……」


 中身はともかく美少女ではある柴田がちょっと声を潜める。

 こう言う話をさせたら必要以上に雰囲気でるなぁ、コイツ。


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