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金曜日2

「……なんでお前が気にするんだ?」

「一段落するまで部長公認でサボり放題じゃないですか! それに、不審火が出ていると聞きました。その、言っちゃあなんですが、愛宕先輩は巻き込まれるタイプなので……」

 端から見てそう言うタイプだったのか、俺。……これは心配して、くれてるんだよな?


「すっぱり断るつもりだったんだけど、ちょっと気になっちゃうことがあってな」

「ホラ、もう巻き込まれてますよ、ホントに。……どうせ女の子絡みなんでしょうけど」

 なんでわかった! ……でも女の子じゃないぞ、常禅寺先輩は女の人、だ。


「まぁいいです。いくら愛宕先輩でも、いえ。愛宕先輩だからこそ、部長やお師匠様の頼みをむげには断わったりするわけが無いでしょうから。……それで話を斜めに聞いた私からちょっと質問があるんですけど」


「部活で会った時でも良いんじゃ無いか?」

「なるほど、今日もお休みなんですね。なら尚のこと今聞きます。――放火魔はなんで理科準備室にこだわってるか目星はつきました? 先輩が気になってるのは実は女の子では無くその辺ではないかと思うんですが、違いますか?」

「何が言いたいんだ?」


「学校の見取り図で行くと、高校旧校舎はどんずまり。つまり誰かにバレた場合に逃げられないんですよ」

 まぁ、確かにそうだな。

「しかも高校側旧校舎の中庭は用務員さんが草刈りをしているから全体が見渡せるし、木も生えてない。校舎裏は工事中で通行止め。と言う事は丸見えで、かつ逃げ隠れが一切出来ません」

 そこは俺も気になってるところではある。……よく調べたな。


「……人気のないところでなんかしたいとそう言うなら、中学旧校舎の方が良いと思うんです。火を付けたいなら木造校舎は、まさにうってつけです」


 意外にも本の虫であり、作家の肩書きを持つランちゃんのファンでもあり、最近は推理小説にハマっている鹿又。

 どうやら不審火は幽霊でも自然発火でも無く、放火魔の仕業である。ととらえて居るらしい。


「お前もなんか考えてくれるのか?」

「いつも言ってます、愛宕先輩がサボると教えて貰えなくて私が困るんです! それにいつだって愛宕先輩の隣に居て、愛宕先輩の役に立つ、愛宕先輩とは不可分な後輩。と周り中に思ってもらえる有能な私でありたいんです。……ですが現状、足を引っ張るばっかりでなんの役に立っていない。と、その部分には多少なりとも自信があります」


 あのさ、……最後の部分、人差し指を立てて力説する事でも無いだろうに。

「そこは自信を持たずにしょんぼりするとかしろよ……」



 校舎の構成は昨日、宿題の後で俺も月乃と航空写真で確認している。

 高校旧校舎は新校舎の裏側に当たるので新校舎と、当初科学部が望遠レンズでの撮影を狙ったくらいだから部室棟、この二つの建物からなら見通せる。


 そして目の前に新校舎はあるのだが、なんに使うつもりなのか旧校舎の前は広めに中庭風にしてあるので日も入るし見晴らしも良い。

 つまり見方を逆にすれば鹿又の言う通り、隠れ場所はないと言う事でもある。

 何かの仕掛けをしている姿は丸見え。

 仮に。ファイアスタータが見るだけで照準できるとしても結果は同じ。理科準備室をのぞき込む不審者だ。


 そして鹿又の言う通り、校舎の裏側は本来、砂利さえ敷いていない草ボウボウの細い空き地にフェンス。なのだが現状は工事用の仮囲いで通行止め。

 その空き地は本校舎裏口の職員駐車場に繋がるのだが、現在は校舎の端が辛うじて仮囲いに入っていない程度。


 何とか逃げたと仮定しても、足下は駐車場まで手入れがされていない草とドロ。

 そこに居た痕跡はバッチリ残り、その先は砕石を敷いた職員駐車場。

 そこで泥まみれの姿を誰かに見られたら、それこそあからさまにおかしいと思われる。


 それに当初は望遠カメラを設置してたくらいだ、不審者についてはその時周囲を確認してるだろうし、ならば校舎裏だって警戒するのは当たり前。

 この梅雨の時期に砂利さえ敷いていない以上、足跡や工作の痕跡は消しようが無い。


 南町では無いがその辺は仮にも県立峰ヶ先中高の科学部である。

 我が天使長様の言いぐさはおいても、一度は調べようと思った以上何もしていない。なんて事は無いはずだ。

 彼らが姿や足跡をまるで確認出来ない、と言うのはいくら何でもあり得ない。


 ついでに旧校舎の廊下は施錠と工事でほぼ行き場が無い。

 昨日にーちゃんも言っていたが、イタズラする時の心構えとしての逃走ルート。

 その大事な逃げ道の確保は、だから現状ほぼ不可能と言って良い。



「それに、不審火を出すためには何か仕込まなくちゃいけないわけで。その方法が思い浮かばないんですよ。中庭でおっきい虫めがねを構えてたらそれこそ不審者だし」

「太陽の角度も焦点距離もあるぞ? それだと虫めがね以外にも色々と必要になる」

「時限発火装置的なもの、では説明出来ませんか?」


「昨日見た限り、そういったものの痕跡は室内も中庭も。一切なかったな」

 だからこそ、俺と月乃は能力者がかかわっているのだと思っている。



 しかし、仮にファイアスタータが不審火の原因だとして、能力の有効射程がわからない。

 と言う問題は残るのだが、それでも自分たちを基準に考えれば百mを超えて月乃がテレパシーを飛ばすならいわゆる長文は苦しいし、意図的に裏トランスミッタを飛ばせるのはせいぜい数十m。

 能力の種類は違えど、見通し距離を超えて鉄をねじ曲げる温度を操作するなんて事も出来るわけが無い。

 と、そこは言い切ってしまっても大きな間違いは無いだろう。


 確かに先月、透視能力者クレアボヤンサは望遠鏡で能力の有効距離を水増ししていたが、今回それをやれば否応なしに目立つ。

 望遠鏡を設置出来るのは、下校時刻までひっきりなしに誰かが通る高等部新校舎の廊下と。そして、下校時刻直前まで間違い無く誰かがいるだろう運動部の部室棟だ。

 仮に双眼鏡やオペラグラスで代用したとして、そんな変わった行動を取る生徒が目撃されていたなら、それこそ、実績も何も無い中等部の“ゴーストバスターツインズ”なんかに話が回ってくるわけが無い。



「そう言う一人で黙々と考えるような、パズルとか謎解きみたいの。愛宕先輩、好きですよね。トリック系の推理小説好きだし。――だから霊感も無いのに引き受けちゃったのかなって。若しくは部長と可憐さんがダブルで迫ってきて怖い、とか?」


 ……少なくともお前の推理はさえてるよ、後半。ほぼ正解だ。

 白鷺先輩に限って言えば別に怖くは無いがな。むしろこれについては不憫ふびんにさえ思って居るのだけれど。

「あの二人が迫って来るなら男子的には嬉しい、むしろ逆にボーナスステージだ。他の男子にフクロにされるよ、マジで。――だから、引き受けたわけじゃ無いんだってば」


「でも、……ホント、場所にこだわってる理由ってなんなんですかね? 見つかっただけで間違いなくバレるから一発で捕まるのに。他の部屋では不審火は無いんですよね?」



 準備室だけで火が出る。

 ……確かにそうだ。人気が無いことに限って言えば三階建ての高校旧校舎全て、おしなべて人の気配なんてものは無い。

 たまに工事業者のおじさん達が近所を出入りしてるので、理科準備室に限っていえばかえって人通りがある。と言って良いほど。



「そう、準備室だけだ。幽霊なんか関係ないただの不審火かも知れないし。……昨日色々調べてさ。自然発火の可能性もあるから、断る前にそこだけもう一度、見ておきたいんだ」

「また始まりましたよ、もう……。愛宕先輩は要らないところで真面目なんだから」



 南町の説を採れば、自然発火でもそれなりに説明が付きそうだからな。

 断る口実としても、その部分は強化しておきたいところではある。

 それでもボールペン。明らかに頭の金属部分を“狙い撃ち”されたのは間違いないし、依然としてその部分の説明は付かないけれど。


 本当は常禅寺先輩を説得する。と言うのが一番現場に行きたい理由なのだが、それは誰にも話さないと言う約束がある。

 説明するわけには行かない。



「月乃先輩とセットでご指名だから、私が首を突っ込むわけにも行かないんでしょうけど。だから生意気かも知れませんがあえて言いますよ?――自然発火でも原因がわかんなきゃ勿論危ないですけど。でも、もし放火魔が犯人だった場合。……犯人を目撃しちゃってそれがバレたら、ただでは済まない可能性あるんですよ? ホントに理解出来てます?」



 ……かつて犯罪に巻き込まれた鹿又は、だから本気で俺のことを心配してくれている。

 それは改めて聞かなくたってよくわかる。

「……わかってるよ」

「本当にわかってます? 私はホンキで命が危ないかも、って言ってるわけですよ!?」



 要らない心配を後輩にかけるような、そんな先輩であってはいけない。

 俺みたいなヤツを先輩と呼んで慕ってくれるのだから、せめてこいつと籠ノ瀬の前でくらいは立派な先輩で居なくちゃいけないだろう。

 とは常々思うところではある。



「だから行くのは今日を最後にしようと思うんだ。明日の土曜日は部活無しだから、来週は普通に部活に出る予定。あとで白鷺先輩にあったら言っといてくれ。ところで。――なぁ、鹿又。あそこに生えてるヤツ、なーんか見たことあるんだがお前、どう思う?」


「なんで私がぶちょ、……? ――えーと、あの葉っぱ、ですよね。確かに家の畑でもよく見かける感じで、……って、ちょっと先輩っ! これ、細いけど間違いなく大根ですよ! なんで校庭の連絡通路に生えてるんですかっ!」

「俺に聞かれても、なぁ」



 この辺は、今は校庭とは言え元畑だったわけだし、今だって周りは田んぼと畑。種がなんかの拍子に飛んでくれば生えてきても不思議は無いんだろうけど。

「愛宕先輩、あの。……これ、抜いちゃうの。なんかためらっちゃうんですけど」


「これだって勝手に生えて来てんだから雑草に含めて良いんだろうけど。――そうだな、写真撮って一応先生にお伺い立てようか……」


 既に鹿又は何気なく携帯を取りだして電源を入れている。

 校庭一周するとスーパーや八百屋に行かなくても食生活、何とかなるのかもな……。


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