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金曜日1

「緑化委員なのにメインの仕事が雑草の草むしり、何か釈然としないものを感じます」


「ん? 人間が緑を増やすから緑化、なんだろ? つまりだ。俺達緑化委員にとっては花壇のお花が緑の全て。ちなみに雑草という種類の草は無いんだぞ。つまり自然に生えた草は全て雑草だと言う事だ。勝手に生えてきて邪魔で迷惑。だから我々緑化委員の手によって存在を抹消されるのはむしろ必然。雑草は我々緑化委員の敵、いいかね?」


「ひねくれた先輩らしい素晴らしいお言葉をありがとうございました。おかげで緑化委員のあり方と、この作業の有用性に気付くことが出来ました」

「うむ、わかればよろしい。それはそれとして、――まだ梅雨明けしてないのにどうしてこんなに晴れるんだよ……」

 雨が降ってれば、全体ミーティングだけで終わりだったのにな。



 金曜午後の二週に一回は委員会活動の日。

 今期は何故か緑化委員。

 校庭をゴミ袋と草刈り鎌、移植べらをもって俺と一緒にポニーテールを揺らしながら隣を歩く小柄な一年生は、これまた何故か緑化委員で部活の後輩、山伏のちっちゃい方こと鹿又かのまたこざくらである。

 

「花壇の班なんか、草むしりした上に秋用の種まきと水やりだからな。……ほぼ雑草、生えてないし、のんびり散歩してて良い雑草処理 (校庭A)班の方が気楽で良いじゃないか」

「実際は花壇班、このクソ暑いさなかにほぼ校舎の影から離れなくて済みますけどね。花壇 (C)班なんか水道も近いからホースも届くし、超楽ちんそうです……」


「どうせ校舎は南向きが基本なんだから、影っていってもたかが知れてるよ」

「そう言うポジティブな考え方は素直に尊敬しますよ? 真似するように努力してますけど、私。まだまだですねぇ」

「本当のところがそんな立派なわけないだろ。そうでも考えなきゃやってらんないって話。……あみだで決めるんじゃなきゃ、俺だって歩かなくて済む花壇班が良い」


 それでも雑草処理 (校庭A、B)班はまだマシな部類。雑草処理 (旧校舎)班は旧中学校舎周辺で軍手をはめて背の高い根の張った雑草と時間まで格闘、雑草処理 (外周)班なんか二時間かけてたった四人で学校のフェンスを半周。

 ……まぁまぁ、それに比べりゃ運が良い方なんだろうけど。


「そのあみだで知らない人とではなく、先輩と一緒の班になったんですもんね。雑談しながらお散歩で午後はお終い。……言われてみれば確かに悪くは無いですね!」

「くじ運で全て決まっちゃお先真っ暗だ。俺は自慢出来るくらいに悪いからな」

 俺のくじ運の悪さは、例えば月乃と隣同士の席を引き当てるくらい強力である。


「緑化委員で居る限りは、今回のように私の運をわけてあげますから心配御無用です」

 お前は知らない先輩とではなく俺と組みたいだけじゃないか!

 ならば俺と一緒の班だったら雑草処理 (外周)班でも文句は無いわけで。

 ……でもこいつ、そんなに人見知りするタイプだったかな?


 いずれにしろ鹿又の運は場所まで廻らないと言う事だ。そこを俺のくじ運で決めるとしたら……。

 残り半年、鹿又とセットで外周と旧校舎だけしか引かない気がしてきた。

「良いじゃ無いですか、一緒だったら旧校舎班でも。私が雑草、二人分引っこ抜きますよ。一応農家の娘なんで得意分野です。――でもなんでこのタイミングで草取りなんですか?」


「今度の日曜日、施設開放で近所の人達が来るから綺麗にしとかないとな。だから草毟り。――ほらそこ、いかにもな感じのヤツが生えてるぞ」

「花は可愛いのにオオイヌノフグリって若干品の無い名前なんですよね、これ。普通は夏には枯れちゃうのに、ここ、昼間は日陰だからかな? ――えーと、明日は強制退校日だし、じゃあ月乃先輩達、週末は練習無し、ですか?」


「土曜日は町民体育館のグラウンドで自主練なんだそうだ。日曜日は聞いてない。――ふーん、犬の“おいなりさん”、か。種の形が似てるかな。……物知りだなお前」

「そこの部分だけ取り上げて物知りとか言わないで下さい! なんかそう言う系統だけ詳しいみたいじゃないですか! もう、ホントやめて下さい!」

 顔を真っ赤にしてジタバタする鹿又。そう言えばトイレの話で大騒ぎするヤツだったよな。下ネタ全般にアウトなのか。ま、パートナーがこれでは草取りもままならないし、ちょっと助けてやるか。


「あー、でもさ。花とか詳しいのな鹿又。ちょっと意外だ」

「家が農家だし、自分の名前もお花ですから。人よりはちょっと詳しいかも知れませんが。――ところで先輩。旧高校校舎の幽霊退治を請け負ったそうですね?」

 助けてやったのに一番触られたくないところを攻撃してくるとは。なんてヤツだ!


「請け負ったわけじゃない、断る理由を探しに見に行っただけだ。……誰から聞いた?」

「部長です。――何故か珍しく先輩のサボりを黙認していたので、不審に思ってちょっとつついてみたところ、内緒の話として教えてくれました」

 ちょっと、な。……白鷺先輩も別に口が軽いわけじゃあないが、サボりを黙認しているという負い目がある。

 そこをこいつにこの調子でつつかれてはたまんないだろう。


「愛宕先輩のサボりを一番気にしてたのは、私でもふうちゃんでも無く部長ですからね」

「そう言う言われ方をされたら、白鷺先輩なら持たないな。――そこ、なんか生えてるぞ」

「あら、立派な大葉。これ、シソですよ? 畑以外で生えると雑草なんですもんね。……うわ、手がシソ臭っ。……袋、良いですか? ――愛宕先輩ならその手の話は、例え相手が部長だろうと「くだらねぇ」。って断りそうなもんだと思ってたんですけど」


「まぁな。でも今回は白鷺先輩も先代部長から頼まれてんだ。白鷺先輩もあの人の頼みは断れないし。だから白鷺先輩の顔を立てるのに一応見に行った、ってのがホントの所だ。だいたい、霊感も無いのにどうやって幽霊退治なんかするんだっつーの。――本当にシソの匂いだ。野生でも生えるんだな」

 校庭で取れるなら、スーパーで買わなくても良いんじゃ無いか? 意外と高いし。


「シソは普通にその辺で生えてますよ。赤シソだってたまに塀の脇とかに生えてますけど、意外すぎて気が付かないんですよねみんな。――あれ? 噂では霊感双子って」

「知ってたか……。頼むからやめてくれ」

「ですよね。……ゴーストバスターツインズの方がかっこいいです!」

「そこじゃねぇよっ!」


「愛宕先輩と喋ってると話があっちこっちにぽろぽろ零れて。……えーと、白鷺部長の前の部長って。……あぁ、合同練習の時、部長がお話ししてるトロンボーンの人ですか?」

「前にも言った気がするが俺のトロンボーンの師匠でもある。お前から見たら大師匠だな」


可憐かれんさん、って仰るんですよね? 名は体を表すを地で行くような人だなと思ってました。なんか優しくて美人で品があって、天使みたいですよね? あの人」

 ――事前の情報が何も無くともやはりそう見えるんだな。さすが我が天使長様。


「お前も遠慮しないで地で行ったらどうだ、花の小さい桜とか、そういう感じなんだろ? こざくらって。――あの娘は桜のように儚げで美しい。とか遠慮しないで言われろ」

 現状、身長以外は名が体を表していない。


「何とかコザクラって名前の花は、実はサクラソウの仲間なんでそんなに背が高くは成らないんです。夏になると一旦枯れて休眠しちゃうし。花は小さくて可愛いんですけどね」

「めんどくさがりで小さいのか。……もう既に名が体をあらわしていたんだな、ものを知らずに済まなかった」


「なんでそうなるんですか! 山の植物だから、だから夏は暑いからお休みするんです! ……山のお花畑の主役なんですよ! 小さい花が集まって可愛くて綺麗なんです、ホントなんですから。今度本を持ってきて見せてあげます!」

 鹿又は人差し指をピンと立ててこちらを振り返る。


「いや、待て待て。馬鹿にしたつもりは無かったんだ、気に触ったんなら悪かったよ」

「ユキワリコザクラの花言葉は、あなたを信じます。……愛宕先輩は馬鹿にしていないと、だから私は信じてあげます。まさに名は体を表す、です。――普段からネタにしていじって下さいとお願いしているのは私の方ですもんね。別に怒ってないです。本は今度持ってきますから見て下さい。ユキワリコザクラ、ホント可愛い花なんですよ」


 今度は手を後ろに組んで照れたように後ろを向く。まとめた髪の毛がぴょこぴょこ揺れる。結構高い位置でまとめたポニーテールの先は肩甲骨辺りまで届いている。

 籠ノ瀬程では無いにしろ、夏の太陽を跳ね返す綺麗な髪。ほどいたらかなり長いだろうな。


「あぁ、そん時は見せてくれ。で、――なんの話だっけ?」

 人差し指を立てて、くるん。と振り向く。しっぽは一瞬遅れて頭の後ろへと消える。


「天使なお姉様、可憐さんから幽霊退治を頼まれたところです。……断れそうですか?」

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