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木曜日4

「白鷺先輩に田鶴先輩、そして常禅寺先輩かぁ。アンタは年上中心にモテるのな。ふうかちゃんのこと、言ってる場合じゃ無いよ、まったくもってけしからん」

「白鷺先輩に関してはそうなら非常に喜ばしい限り。我が天使様は天使長に昇格して完全に空の上。……今の常禅寺先輩に限って言えばからかわれただけじゃないか。さっきからの会話思いだして見ろ、一個も嬉しい要素がないだろうが?」


「嘘つき。少なくとも一個嬉しいとこあったろ? ――で、ようクン。何か感じたかしら?」

 なんか先輩のドアップの唇が印象に残っちゃってるし、間近で初めて嗅いだ大人の女性の匂いのせいで今もなんかドキドキして、……って、いや。そういう事では無く。

「その呼び方はやめろ、つっきーの。――やはり俺は何も感じなかったな」


「なんか親しげで嬉しかったのに、アンタにそう呼ばれるとなんかイラッとくる。――私も何も感じなかったな。さっきのは、気のせいだったのかなぁ」



 ふっ、とアンプリファイアの気配が消える。

 なんの打ち合わせもしていないが、先輩が出て行ったのとほぼ同時に二人とも能力をフルパワーでオンにしている。

 けれどやはり、月仍のアンプリファイヤ以外は何も感じなかった。

 俺もコントローラの発動をやめる。



「常禅寺先輩じゃ無い、別の誰かが居るかも知れない。気は抜くなよ?」

「わかってるけどさぁ。……さっきも言ったんだけど、話の通りだったらそもそも防御なんか出来なくない? どう対処して良いかわかんないよ!」


 ――まぁ、そうなんだけどな。……ファイヤリングでも、何か仕掛けをしてるでもどっちでも良いんだけど。いきなり顔を千度で狙われたとして、なんの予兆も無いならば。

 月仍の言う通り避けるどころが防ぐ事さえ出来ない。


「ところで月乃。常禅寺先輩、……どう思う?」

「細いのにおっぱいデカいし、なんかセクシー。みたいな? 高校も二年ともなるとやっぱり大人だよなぁ、その気になったらスゴいんだなぁって。にじみ出るエッチぃ感じが半端ないわぁ。ちょっとアレは真似出来ないな」



 そう言う感想は求めていない。……つうか、自分の分だけで十分だ。

 それに胸に関して言えばバランスを欠く程大きいわけではないにしろ、俺の知るもっとも魅力的な大きさを誇る白鷺先輩を明らかに凌駕して、ついさっきその部門で第1位になったところだ。

 ……だから。今聞きたいのはそう言う感想の詳細でも無く。



「そうじゃ無くて。――お前、先輩がファイアスタータだと思うか? それか、能力者で無くとも何かの仕掛けで火を付けた本人だと、そうみえたか?」

「その辺はどうだろう。当然わかってて言ってるんだろうけど、まとめるとさ。――常禅寺先輩は他の科学部の人とは仲悪いんだよね? 多分。そしてこの部屋でその人達がワイワイやってるのは気にくわない。とくれば。……それだけでも動機は十分、って言うか」


「せめて犯人だというのを否定出来る何かがあれば良いんだけどな。良い人かどうかはともかく、悪い人には思えないんだよ。俺には」

「それは同感。確かに良い人かはわかんないけど、悪い人じゃあ無さそうだよね」


 これはこれで本人が聞いたら怒りそうな言いぐさではあるけれど。

 ……でも、放火をするような悪い人には見えないと言う部分は月仍と完全に一致した。



 俺達はテレパスの双子。基本的には人の言葉で害のある人かどうかを判断する傾向があるし、その部分には多少の自信もある。

 そうで無ければテレパスなんてやってられない。

 少なくとも、常禅寺先輩は悪い人では無さそうだ。が、現状の結論。



「動機があるのが不味いんだよね。状況的に一番被害者になりそうな人なのにさぁ」

 明日も、多分来週だって毎日。

 放課後になったら常禅寺先輩はここに来て、一人で昼寝をするんだろう。

 もし先輩が犯人で無いのなら。真犯人から見れば格好の標的になる。


 そして科学部だけに限らず要らないものをみんな放り込んであるような準備室。

 自在に火を付けられ、しかも相手が寝ていると言うなら。

 最初に入り口を潰すのは造作も無い。


 そんな回りくどいことをしなくても、耐熱ガラスのビーカーを割り、鉄さえ融ける温度を操れるなら。棚だって机だって燃えるだろうし服ならもっと楽勝のはず。

 発想の時点でかなりヤバい気もするが、人体発火事件を起こす。

 これだって出来ない事では無い。


「意外と燃えそうなものいっぱいあるもんね、準備室(ここ)。やろうと思ったら一発で部屋全体燃やせるんじゃ無い? あのソファとかクッションなんか、燃やしやすそうじゃん?」

「そこで毎日昼寝してるって言い切っちゃう人が居るから心配なんだけどな」



 火災報知器が鳴ったところでここは学校、スーパーや映画館じゃ無い。

 スプリンクラーなんか当然あるわけ無い。

 一旦火が回れば燃える物だらけのこの部屋の中、火事に気付いたところで消防隊以外には、先輩を助けに来れる人はいない。



「何も無いですおしまい。のつもりだったんだけど、ちょっとなぁ。気配、感じちゃったしなぁ」

「わかんない、で押し通しても誰も文句は言わないだろうけど心配だよな、常禅寺先輩」


 片付けないといけない事は実はもう一つ。――その心配な常禅寺先輩の件について。

「なぁ陽太、幽霊部員云々は可憐先輩経由で聞いて貰えばすぐわかるにしてもさぁ」

「ん?」

 口から先に生まれたタイプの月仍が、意外にも何か言いにくそうにしている。


「もしも。もしも仮に、だよ? 常禅寺先輩が科学部の中で虐められてたりしたら……」

「……幽霊退治を邪魔しやがって、みたいな事になるんじゃ無いかって?」

「あり得なく無くない?」


 そもそもが人気の無い旧校舎、誰も来ない理科準備室に一人で閉じこもり、

 ――他の人達には内緒にしといてよね、私のこと。……お願い。

 そしてあれ程しつこく言うくらいだから他の部員と仲が悪いのはほぼ確定で良いんだろうけど、月仍の言うのも可能性としては無視出来ない。


「……先輩との約束通り、内緒にしとかないといけない。てことか」

「むぅ、なぁ陽太。この件さぁ、オチはどこに持ってけば良いの?」

 やらなきゃいけない事がとりとめなく広がったように見えるが、今回基本はシンプルだ。


「能力者絡みで無かった場合は俺達に出来る事は無いんだから、それがはっきりした時点で撤退だ。常禅寺先輩のことは心配だよ? けど、出来る事と出来ない事ってあるだろ」



 だいたい一番初めは何もしなくて良い。と言う条件で呼ばれたんだ。

 あまり突っ込みすぎて俺達の能力に気づかれても困るし、高等部の人間関係なんて俺達の手に余る話なのは考えるまでも無い。


「冷たい気もするけど、決着はその辺なのかなぁ、やっぱり」

「介入してくれるなと常禅寺先輩自身が言ってる以上、俺達に出来る事はハナから無いんだ。……放火の件が能力者の仕業でなかったらそこで終了、それ以上も以下も無いだろ?」

 あと一,二回。ここに来て気配を感じなければ終わり。


 この話は今日でお終い。そうする予定だったんだけど。

 定禅寺先輩のこともあるしなぁ。


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