想い記憶に刻んで#3
川の字に並び両手を引かれやって来た町長宅、手をそっと離しいつものようにおとなしく待つよう優しく諭す。
扉の前に作られた階段に足を掛けアノッカーを握った時だった、ドアノブが回り扉が開く、思わず後ろに下がり出て来る人物に道を譲ろうとすると。
「では我々はこれで――っと、あれ、君らは確か」
「どうした? あぁ確か――招集の時に居た新人の二人組だ!」
一体何が起きているのか、事態を理解しようとするが頭の中で整理する間もなく、二人組に連れられとある喫茶店にやって来た。
白いカップにコーヒーが注がれ湯気が躍っている、茫然とする二人を他所にフェオとスティンクはお茶菓子として出されたビスケットを頬張る。
「美味しいですこれがビスケットですか、白いブロック状のこれは何ですか?」
「コーヒーに入れるお砂糖だよ! フィンはね苦いのが苦手だからこれをいっぱい入れるの!」
「仕方ないじゃない――だって苦いんだもん」
口籠らせ体を小さくしキャスケットを深く被る、その隣ではカラトが話し込んでいた。
「ここの柱樹なら問題ない、健康状態も良好だったしな――それよりもお前等聞いたぜアールヴでの戦い、大したもんだよ」
「でも多くの人が」
「だが君らが命を張ってあの街を守ったのも事実、もっと胸を張れ青年!」
肩を何度も強く叩かれカラトの体は揺れる、カップを手に取り一口啜ると二人は立ち上がり。
「さてそろそろ行くぜ、お前等はゆっくりしてくといいさ」
「そうだな、殆ど休めてないだろ?この街にいる間位休んでおきな」
「でもそんな、悪いですよ」
カラトの首に腕を回し頭を鷲掴みにするとグシャグシャにされる。
「遠慮するなって、本来ならお前等じゃなくて俺達が行かなきゃならなかったんだ、その埋め合わせも兼ねて――な」
◇◇◇
街から出て行く二人を見送り今後の話をし始める、折角の申し出を受ける事にした一行はまず宿屋に向かう、二部屋借り荷物を置き宿屋前の通りに集まると。
「俺は本屋に行こうかな、読みたい物もあるし――フィン達はどうするんだ」
「んー、特に考えてないかな、フェオはどこか行きたい所ある?」
「では、あそこに行きたいです」
指を差したその先には列を成した人だかり、更にそこから視線を伸ばすと古びた一軒の家屋を改装したお化け屋敷、フィンの表情は固まる。
「ほぉ、なかなか面白そうな物を選ぶな、じゃあなフィン後は頼んだ」
「ちょ、ちょっと待って! まだ行くなんて一言も!」
時すでに遅し、カラトは反対側へと歩き出していた、そしてコートの袖を引かれ早く行きたいとせがむフェオ。
「早く行きましょう、恐怖体験と看板が出ています、また新しい自分を発見できそうです」
足取り軽くフィンを引っ張り列の最後尾に並ぶ。
待っている間他の客の会話を聞いていた、どうやらこの家屋は取り壊す予定らしい、しかしただ壊すだけでは勿体ないと期間限定でお化け屋敷に改装したのだとか。
「ね、ねぇフェオお姉ちゃんあそこのクレープ食べたいなぁ、ここじゃなくてあっちに行かない?」
「まだ順番までは余裕があるので買って来て頂いて構いません、その間ここはフェオが並んでおきます」
「そうね、じゃ――買って来ます」
逃げられなかった、スティンクもケタケタ笑いながら。
「フェオはどうしても入りたいみたいだね! 頑張れお姉ちゃん!」
「うるさいなぁ! もうなんでよりによってお化け屋敷なのよぉ」
◇◇◇
並び始めて十数分、徐々に自分達の番が近付いてくる、折角買ったクレープを頬張るが全くと言っていいほど味がしない、口はへの字に曲がり余裕が無くなっている。
「いよいよフェオ達の番です、恐怖体験――一体どんなものが」
「そうだねー、どんなものだろうねー」
心ここにあらず、フィンは覚悟を決めた、そして何も考えず何も見ずただ歩き続けようと。
入り口に立ちドアノブに手を伸ばした時、中から悲鳴が聞こえて来た。
手が小刻みに震え冷や汗が止まらない、だが隣にいるフェオは目を輝かせ早く入りたそうにしている。
「い、今ならまだ引き返せるよ?もっと美味しい物もあるしそっちに行こ?」
「早く入りましょう、この感じ悪くないです」
口から魂が抜けかける、この状況下で楽しんでいるフェオとスティンク、ドングリ。
今すぐここから逃げたいフィンだが一向に進まないその手を握られ。
「では出発です、どんと来いです」
「いけいけゴーゴー!」
「あはははは、今日寝れないかも」
一行を呑み込んだ家屋はすぐさま入り口を閉じる、中は蝋燭のか細い灯りと、演出の為に辺り一面に貼られた蜘蛛の巣、壊れかけの椅子や肖像画。
「おー」と相槌を打ちフェオ達は楽しそうである、宙を進み壊れかけの椅子を触りながら。
「あはは! ボロボロの椅子だー!」
「この食器、わざわざこの形に作ったのでしょうか、手が込んでいます」
「さっさとゴールするよー、寄り道せず真っ直ぐゴールするよー」
「せっかくの恐怖体験です、もっと味あわねば――あれは何ですか?」
薄明りの中奥を指差したフェオ、一行は目を細め正体を探る。
足音が聞こえる衣擦れの音と一緒に白い影も視界に入った、息を飲むフィン。
するとピタリと音が止んだ、フェオは気になり進もうとするが動けない、不思議に思ったフェオは振り返る、涙目になりながらフェオを抱きしめるフィン。
「お姉ちゃん、これでは先に進めません」
「だってだって急に静かになったんだもん! 怖いよぉ!」
「では後ろにいる方なら怖くないのですか?」
「後ろにいる方?」
恐る恐る振り返ると、顔が焼けただれた女性が数歩後ろに佇んでいる、口を金魚のように動かし。
「いやああああぁぁぁぁぁぁ!」
叫び声が響き渡る。
全力で屋敷内を駆け抜けるフィン、道中何度もお化け屋敷のキャストに驚かされながらも遂に光が差し込む出口に到達した。
地面にへたり込み肩で息をしながら。
「も、もう大丈夫、なかなか怖かったね――あれ、フェオ?スティンク?」
◇◇◇
見つめ合うゾンビの恰好をした男性とフェオ、ゾンビ役の男性は声を上げ驚かそうとするがまるで無反応だ、石を相手にしているようで心が折れかける。
すると先程まで無反応だったフェオが口を開く。
「こういう場合フェオはどうすればいいのでしょう」
困惑する男性は。
「え?えっと、と、とりあえずきゃーとか悲鳴を上げたらどうかな?」
「なるほど、きゃーこんな感じでいいのでしょうか?」
「そ、そうだね、もっと感情を込めれば完璧だけど、君には関係なさそうだね、全然ビビってないし」
「これが恐怖ですか、不思議な感覚です、ありがとうございました」
「い、いえ、どういたしまして」
「スティンクさん、ドングリ様、行きますよ」
フェオがゾンビの男性と会話している間、後方では揺れる食器棚や宙を彷徨う幽霊に見立てた衣服で遊んでいたスティンクとドングリ。
「怖い物は無いのかあの子達は」キャスト達は突如として現れた、全く動じない少女達の登場に戦慄していた。
◇◇◇
サンドイッチを一口含むと食べカスが口の周りに残る、それをハンカチで丁寧に拭き取るフィン、小さくなった体は色々不便そうだ。
「すいません、距離感を掴むのが難しくて、本来であればもっと綺麗に食べられるのですが」
「気にしないで、はい出来上がり」
「楽しかったねお化け屋敷! もう一回行きたいなぁ!」
「行かない方がいいと思うよ、従業員の人達泣いてたし」
「でもお姉ちゃんは早いです、あっという間にゴールしてました、もっと改善が必要のようです」
「いや別にそういうつもりじゃなかったんだけど」
コップに注がれたオレンジジュースを一気に飲み干し、飾り付けのパセリをも平らげたフェオ、満足気に息を吐き出すとまたフィンのコートを引っ張る。
またどこかで騒ぐ気なのだろうか、そう考えていると意外な答えが返って来た。
「そろそろ帰りましょう、カラトさんも戻ってきているかもしれません」
「うん、そうしよっか、スティンクドングリ帰るよ」
日は沈み掛け夕焼けに染まりつつある空の下を誰かと一緒に帰る、フェオにはそれが堪らなく嬉しかった。




