魔女が住まう樹#2
街から少し外れた柱樹の根元、遠方から見えた歪な形はこれだったのかと確信する、柱樹全体に巻き付いた蔓、それが樹を覆い隠す様に伸ばし、本来の姿が分からない程に。
「これは―、随分と成長したもんだな」
「うん、寄生植物の一種だね、ここまで成長してるのは初めて見たよ」
複雑に絡まった蔦や蔓は幾重にも重なり、宛ら何本もの木が重なり成長した様な姿だ、最早それは蔦とは言えない程の太さ。
視線を横に向ければ僅かな隙間から零れ落ちる水、それは如雨露から流れ出るような物のように力無く、地面に触れた途端吸収され消えていく、本来ならこの根元に近ければ近いほど豊かになるのだがどうやら栄養を全てこの植物に横取りされているようだ。
他にも枯れかかった草木や作物、水の流れもほぼ無いに等しい為乾いた土の匂いが充満している、やせ細った樹街―この表現が一番相応しいか。
「とにかく上に登ってみよう、魔女がいて、そいつが原因なら何とかしないと」
至る所に出来た隙間は引っ掛けるのに丁度いい、更には休めそうな程に出っ張った蔓も見える、これなら何ら問題なく登れるだろう。
「魔女ってやっぱり怖いのかな―もしかして僕達食べられるんじゃ」
「そんな訳ないだろ、あれはあくまで子供達がイメージしやすいように作っただけだ―多分」
「おいら不安になってきた、ねぇ戻ろうよ」
スティンクの言い分も最もだ、魔女が住んでいるとされる場所に近付くにつれ一行の手が遅くなっていくのが分かる、フィンも頭の中で想像をどんどん膨らませていく。
大きく尖った鼻、黒一色の外套に先が折れた大きな帽子、巨大な竈には得体のしれない物が詰め込まれ煮込まれる、そしてきっと自分達もそれに放り投げられるのだ。
「や、やっぱり明日にしない? 今日は魔女もきっと寝てるよ、うん絶対寝てる」
「何言ってんだよ、もうそこだぞ? ここまで来て引き返せるかよ―何かあったら俺が何とかしてやるから」
カラトに励まされながら重い腕を振り上げ登っていく。
やがて一行はあの老人に指された場所、魔女が住むとされる場所に辿り着く、目の前にあるのは変わった所の無い木製の扉、息を飲みそっとノブを掴むが。
「カラトやっぱり明日にしようよ、嫌な感じがするし」
「入って少し話をするだけだ―話が通じればだけどな、二人は少し下がってるんだ」
数歩後ろに下がり心配の面持ちで背中を見詰める、目を閉じ大きく息を吐き出すと小さく頷きノブを回す。
「―どうしたの?」
「いやこれなんだが―開かないんだよ、押しても引いてもビクともしないぞこれ」
体を揺らしながら何度もノブを引いては押しを繰り返す、だが扉は微動だにしない、手に力を込め何度も挑むが結果は同じだった、体力だけを無駄に消耗したカラトを見たフィンは口を塞ぎ。
「もしかして、一番力のあるライルを弱らせて一気に捕まえようとしてるんじゃ」
「おいらも捕まるの? やだやだ! おいら帰る!」
後ろで騒いでいる二人に対し冷静に扉を眺める、すると扉の右上に赤い印があるのが見えた、顔を近付けるとどうやらそれはスイッチのようだ。
「なんだこれ、スイッチ? こんなもんがどうして」
恐る恐る腕を伸ばしそれを押し込むすると扉から。
「音声認識を開始します、繰り返します音声認識を開始します―」
「おわぁ! 扉が喋ったぞ!」
「うわあぁん! やっぱり魔女はいたんだ! 僕達食べられるんだぁ!」
「帰る! おいら帰る!」
扉の前で大声で騒ぐ一行、それに拍車を掛けるように。
「君達は誰だ? 何か用かね?」
不意に声を掛けられゆっくりと振り向くとそこには髪の長い女性が立ちこちらに話しかけている、更に混乱するフィンとスティンク。
「お、おいら骨と皮しかないよ! 食べても美味しくないよ!」
「ぼ、僕もそんなに太ってないし、美味しくないです!」
「落ち着けお前等! あ、あんたが魔女か?」
「魔女? あぁ―そういう扱いになっているのか」
クスクス笑いながら扉に近付き。
「私だ、帰ったぞ」
「音声認識完了、おかえりなさい」
先程まで微動だにしなかった扉がすんなりと開いた、それを見ていたフィンとスティンクは涙目になりながら動向を伺っている、入ったら最後もう日の光を見る事は出来ない―そんな考えが過る。
「さて立ち話もなんだ、入り給え―何食べたりはしないさ」
口角の端で笑いながら中へと入って行く女性、振り向き一行を見ながら。
「私はクレール、ヴァナヘイムの科学者だ」




