とある休日-3-
予告よりだいぶ遅くなりましたが、どうぞ読んでやって下さい。
「ちょっと離れた場所にも貼って来ますから、死にたくなければ其処から動かないで下さいね」
男が不安げな顔で頷くのを見て少年は安心させるためか、優しい微笑みを見せ、直ぐに行動に移った。
護衛者の姿が見えなくなると男は妙な不安に駆られた。この場に一人で置いていかれたのではないのかと・・・・・・。
居ても立っても居られず、立ち上がり少年の後を追おうかと考えるが、少年の消えた方向も分からなければ、今から追いかけて追いつける気もしなかった。
途方に暮れ、その場に立ち尽くしていると暫くして少年は戻ってきた。
「遅いじゃねぇか。何やってたんだよ!」
「五分離れていただけじゃないですか」
男の苦情など歯牙にもかけず、少年は平然としたものである。
「さて、大分休みましたから、もう走れますよね?」
「バカ言うな。もう少し休ませろ」
「命の危機が其処まで迫っているというのに、危機感無いなぁ」
そう零した少年の声にこそ危機感は感じられなかった。
「じゃあ、あと三分だけですよ」
少年の言いに、男は短いと文句を垂れながら再び腰を下ろした。
話す事もないので無言のまま時が過ぎるのを待ち、そろそろ時間かと腕時計を見たときだった。
「なぁ」
「これ以上は延長しませんよ」
「そうじゃねーよ」
なら何なのだと問うような視線を向けると、男は落ち着き無く辺りを見渡し、震えるような声で言った。
「静かじゃねーか?」
言われ、耳を澄ませてみる。山に居れば必ず聞こえるはずの虫や動物の声は全く聞こえず、怖いほどの静けさだった。
「そうですね」
「あのガキ、戦ってんだよな?」
「そのはずですけど」
「本当に戦ってんのか?」
「はい?」
男の言葉の意味が分からず、イフは眉根を寄せる。
「お前、さっき言っただろ。あのガキなら魔物から逃げられるって」
「僕だっておじさんが居なければ逃げられますよ」
暗に男の所為で命の危険に晒されていると訴えるが、男は視線を少年から外し、意図的にその訴えを無視した。
「旗色が悪くなって逃げたんじゃないのか?」
「はい?」
「いくら金を貰っていても、命あっての物種だ。適わないと知って逃げたんじゃねーのかよ」
男が何を言っているのか漸く理解した少年は納得顔で頷き、
「それは有り得ないです」
キッパリはっきりと断言した。
「オズは表情が乏しいため分かり辛いですが、かなり熱い男なんですよ。そんな彼がおじさんは兎も角僕を置いて逃げる訳がありません」
「どうだかな」
「何が言いたんいですか?」
「人間は簡単に裏切るもんだぜ」
「何事にも例外はあります。僕とオズのようにね」
子供特有の夢見がちな発言をあざ笑うように男は見下げる。
「だといいな」
「何なんですかさっきから態度悪いですよ」
イフが睨みつけると男は慌てて謝罪した。
「悪い悪い。ついな。大人になると汚いものばかり見るからよ」
気まずい空気を払拭する為に男は笑って見せるがイフの表情から苛立ちを消す事はできなかった。
「そっ・・・・・・れにしてもお前の友達中々追いつかねーな。大丈夫か?」
「確かに遅いですね。ちょっと見てこようかな」
「バカ言うな。金払っているんだからお前は俺の護衛に徹しろよ」
「うーん」
腕組みし、面倒だと少年が思い悩んでいると突如爆音が鳴り響いた。
男は情けない悲鳴を上げガタガタと振るえ、少年は緊急事態を想像し表情を無くす。
「おじさんはここに居て下さい。直ぐに戻りますから」
今にも走り出そうとする小さな背中にしがみ付く。
「待て! 俺を一人にするな!」
「魔物除けの札を貼りましたからここにいれば大丈夫ですから!」
「そんなの効くかどうか分からないって言ってたじゃねーか! それに今更行っても意味ねぇて!」
「行って見なければ分からないでしょう!」
最悪の事態を想像しているのか、感情的に叫ぶ少年に男は低い声で答える。
「分かるんだよ」
背中から胸にかけて重く鋭い衝撃を感じ、少年は何が起こったのか確認しようと視線を下ろす。
見ると灰色に輝く刃が胸から生えていた。
「何で・・・・・・」
少年は何が起こったのか理解できぬまま、絶望に染まった目を男に向ける。
男はただ笑っていた。
血を噴出しその場に倒れ、血の海に沈みながらも必死に友の名を呼び続ける哀れな子供を笑いながら見下ろしていた。
実は3話目(の後半部分)だけがデーターが残っていませんでした。
随分前に書いた話ですので、必死に海馬から内容を取り寄せ書きました。
そんな訳でUPが遅くなりました。
4と5話は続けてUPしますのでどうぞ読んでやって下さい。