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童貞 OR DIE  作者: 呂目呂
3/8

接吻 OR DIE

 アパートの狭い部屋。

 そのフローリングの床に、俺は女の子を押し倒している。

 ぎゅっと抱きしめた身体は肉感的で、信じられない程柔らかい。

 そして、あろうことか、彼女の唇が俺の唇に触れている。


 キスか。

 これが、キスなのか。


 俺は今、美少女を抱きしめ、キスをしているのだ。無論、初めてである。


 ファーストキス。


 そんな事が、俺の身の上に起こりうるとは。


 常人ならば、早ければ小学生の頃に仲の良い異性とちょっと冗談のようにしてみたり、中学生ともなれば幼馴染みやらクラスメート、部活の先輩、自分に密かな想いを抱いていた可愛い後輩なんかにその熱い胸の内を告白された後、晴れてカップルとして放課後の教室や夜の公園で人目をはばかり、照れながらそれを行ない、遅くとも高校生の時分には経験するという、初キス。


 歯がぶつかりあったり唇がずれてしまったりして、しかしそれも良い思い出になったりするんだとか。


 俺はそのような恩恵にあずかる事無く、アイドルのポスターにむちゅっと唇を押し付けるのがせいぜいであったのだが、それをカウントしてよければ俺のファーストキスは中二で決して遅くはないけれどそれはともかく、今、26年間生きてきて初めて俺は、女の子の唇を味わっている。



 ネージュの身体はカチンコチンに固まり、目は丸く見開いていた。


 なんだか反応が初々しい。

 ひょっとしたら、ネージュも初めてなのか?

 否、それは無いな。悪魔だし。

 淫魔サキュバスとか言ってたか。エロ専門の悪魔ってことだろう。

 これまでに様々な男達と、キスは当然としてセックスも数多くこなしてきたと推察するのが妥当だ。

 可愛らしい清純そうな見かけによらず、エロエロなのか。淫乱か。痴女か。ベッドでは乱れまくるのか。疼く身体を持て余して自分で慰めるも満足出来ずに夜な夜な人間の男を漁っているというのか。

 処女でないのならちょっと残念だけど、それはそれで興奮してきた。

 


 彼女の吐息の香りが、甘ったるく濃厚なものに変わっていた。

 口から思い切り吸い込むと、脳へ直接芳香が広がっていくみたいに、しびれるような喜悦を感じる。

 夢中で唇を押し付けていた俺は、うっとりとした気分で顔を離した。

 彼女が棒の様に硬直したまま動かないので、少し心配になったのだが——


「ネージュ……?」

「ふっ……がっ……」

 あまり芳しくない返事が返った。

 ……泣いてる?

 紅潮した顔は涙に濡れて、ぐしゃぐしゃに歪んでいた。

 あれ?

 いや、セックスさせてくれるって、言ったよね。違うの?

 当然、キスしたっていいんだよね?

「……えぐっ……」

 嗚咽。

 ……なんで、マジ泣きしてんの?


「うあ……ふえっ……う、う、ふえぇええぇえええ~~~!!!」

 爆発したように泣き声をあげた。幼い子供のように。

 うわ、ちょっと待て、騒ぐな、通報される。捕まる。

 警察官なんか来たらどう説明すればいいんだよ。

 この娘は悪魔なんです。ちょっと、召還しちゃいました、か?逮捕どころか、病院送りになって面白い病名を付けられる。


「む、むぐぐっ」

 思わず、後ろに回って口を塞いでしまった。ジタバタするから押さえようとしたら羽交い締めみたいになってるし。

 色々とマズい絵面だ。



 ネージュがセックスさせてくれると言ったのは俺の勘違いだったのかもしれず、とりあえず彼女が落ち着くのを待ちたい。

 でも折角なので、泣き叫ぶ美少女の口を塞いで後ろから抱きすくめているという現状を精一杯楽しもうと思う。


 今、実行可能なエロスとは。

 オッパイを揉んだりこれ以上唇を求めるのは無謀だ。あくまで合意の上で事を成すべきである。

 それならば。

 俺は彼女の首筋に顔を寄せ、噎せ返る様なその香りを胸に吸い込んだ。

 ほあああああ。

 いい匂いだ。甘ったるくてほのかに酸っぱくてほわっと優しい感じの芳香を思い切り味わう。

 彼女が泣いているせいもあるのか、はたまた薄い服越しに伝わって来る熱い体温に起因するのか立ち上る芳醇な香気は湿り気を帯びてねっとりと肌に絡み纏わり付くようだ。


 もう、すべてがどうでもよくなってきた。


 これで充分だ。可愛い女の子とキスして、抱きついて匂いを嗅いで。

 首筋にスンスンスンスンと鼻を擦り付けて、鼻腔に女の子の身体から発せられる粒子を送り込む。

 この子の身体の一部だったものが俺の中に取り込まれていくわけで、そう考えるとすげえ興奮してきてリビドーが溢れて止まらなくてやばいもっと芳香を、細胞を、素粒子を、この俺の粘膜に。

 つるつるの肌と、柔らかな後れ毛の感触。作り物みたいに奇麗な耳。その後ろに鼻を埋め、より強い香りを堪能する。

 至福である。

 他になにを望むというのだろう。


 セックスだ。


 危ない。俺はセックスをしなければ。セックスをして、死ななければならないのだった。

「――うっ――ひっ、……ひっく……――」

 暴れるのをやめた悪魔っ娘は、俺の腕の中にスッポリと収まって力無く嗚咽するだけになっていた。

 身体が細かく震えるのが伝わって来る。

 なんか、悪いことをしてしまったのだろうか。

 そうだよな、会ったばっかりの女の子に抱きついてキスして羽交い締めしながら口を塞いで首筋とか耳の後ろに鼻をくっつけて匂いを嗅いだりしたら、ダメだよな。

 そりゃあ泣いちゃうか。申し訳無いことをした。


 ……でも、悪魔なんだよな、この娘。エロ専門の。

 自分から、エッチをするとかなんとか言い出したんだし。

 俺は途方に暮れながら天井を眺め、彼女が落ち着くのをもうしばらく待とうと思った。

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