自由人
『ところで私達の関係を言葉で表すとしたら、何になるのかしら?』
相変わらず暗い道を歩く。
お互いに名乗り合った後、彼女ー美樹さんが気になる場所があるという一方的な意見で一緒に行動することになった。
僕は彼女と共に行動することの方が良いと考えた。
いつまでもこんなところに一人でいたら本当に命が何個あっても足りない気がしたからだ。
正直なところ頭の中は混乱していた。
いきなり知らないところに来て一人で彷徨い、そして知らない人に出逢いその人と共に知らないところを今度は二人で彷徨う‥‥。
ーぎゅるるるるるるる~
うわっ‥‥とうとう鳴ってしまった。
ずっと気を張ってお腹なんか空いてないって我慢をしていたのに。
『人の話聞いてるの?』
『はっ!えっと、どんな関係って話でしたっけ?』
美樹さんにはお腹の音は聞こえてなかったらしい。
『そうよ』
『そ‥‥遭難した人同士‥‥?とか』
『なにそれ!!だったら非常食でも持って来てる訳!?』
『えっ!?いや‥‥』
『でしょ?』クスクス‥‥
『なにがおもしろいんですか』
なぜ笑われているのか、とにかく不快だ。
『お腹空いてるならお食事をしに行かないと身が持たないわよ?』
『聞こえてたのか‥‥』
『ほら、あそこに行きましょう!』
懐中電灯の光はある建物に向けられた。
もちろん、中は真っ暗で人の気配はしないものの、幽霊の類が出てきそうな雰囲気だ。
『まさか、入るんですか?』
『?そうよ、だってお腹空いたんでしょ?』
『だって‥‥』
『この懐中電灯も普通のお家から取ってきたものよ?どうせ誰もいないんだし、それにほら‥‥』
建物の入り口の上の方を照らして、『ここ、スーパーマーケットよ。食料品とかお菓子とかある‥‥知ってるでしょ?』
『よく入ろうとか思いますね‥‥。タダでさえ崩れてて危ないのに。』
『あははっ‥‥そういうこど‥‥いや、幸平君は自分の欲を抑えるのが好きなのかしら?私だったら絶対無理。』
本当バカにされてるみたいだ。
『ここに居る以上、常識なんて捨てた方がいいと思うわ。持つだけ無駄よ。
自分のクビを絞めるだけ。』
確かに‥‥そうかもしれないな
美樹さんの言う事に納得する自分がいた。
しばらく足下に目を落とし、覚悟を決めた。
右手に懐中電灯、背中にランドセル。
背中に汗を掻いているのは嫌でも分かった。
足下を照らし、先を照らし、天井を照らしながらゆっくりと進む。
ーパキパキ
床に散らばったガラスを踏んだ。
ところどころに商品が散らばっていたり、レジは凹んでいたり‥‥
照明は中途半端に天井からぶら下がっていたり、とにかく酷かった。
ーカサカサ
『なんだ!?』
『ゴキブリとかネズミでしょ。私達も似たようなものかもね。』
皮肉っぽいことを言うのが好きなのだろうか。
彼女の言動に反応してしまう。
ーミシッ
歩く度に床の軋む音が響く。
これでいいだろう。見た事のあるというか、知っているお菓子が何個かあった。
それを近くにあった買い物カゴに、すばやく入れた。
『よし、帰ろう』
手の汗を履いているズボンで拭いながら、自分に言い聞かせるように呟いた。
スーパーから出て間もなく気が抜けたように、その場に膝をついた。
カゴの中には自分の好きなお菓子ばかりが入っていた。
『これで万引き犯の共犯者になっちゃったわね、私』クスクス
罪悪感が雪のように心に積もっていた。
『そんな風に言わないで‥‥下さい』
『あー、また子供らしくなくなってる〜、気に病むことなんてないわ。だって超ラッキーじゃない!欲しいものがタダで手に入るのよ。もっと喜びなさいよ?』
『そういう問題じゃ‥‥』
どう説明すればいいのか分からなくなった。
すると彼女は静かにこう言った。
『ねえ、どうしてこの街には人がいないんだと思う?』
なぜ今そんな話をするのだろうか。彼女の考えてることがさっぱり分からない。
沈黙していると
『そういう風に考えること自体おかしかったら?そうね‥‥例えば、本来ここには誰もいないのがあたりまえで、そこに私達が居るとするならば、明らかにおかしいのは私達とされる‥‥。そして逆に誰かが居てあたりまえだという考えをこの街に抱いてる私達からしたら、誰もいないことの方がおかしいと必然的に考えてしまう。』
『‥‥?』
『客観的に見るとそういうことなんじゃない?‥‥ってことよ。』
『‥‥はあ‥‥』
『要するに、あれこれ考える必要はないのよ。善悪なんて結局他者が決めることよ』
彼女が身を翻すとふわりとワンピースのスカートが揺れた。
つづく
これからどうなることやら‥‥って感じです




