表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編

割烹 ~割烹着の女の子とメイド服の女の子が百合っ百合するお話~

 さる旧家の庭、黒髪の少女が割烹着姿で、ホウキを手に庭掃除にと勤しんでいた。

 秋の和風庭園、散りゆく紅葉。飛び石の上に落ちた葉を、あえて全て掃き捨てはせず、程よく残して。

 晩秋の情緒を目で楽しめるようにとの、この屋敷の女主人のこだわりである。


 正直、掃除をする身としては少々面倒だが。

 幼い頃から家族同然に育った、姉とも慕う主人の言いつけを、彼女は忠実に守っている。


「……ふぅ」


 額の汗を拭い、一息ついていると。


「oh、美沙緒(みさお)! お掃除は終わりデースカ?」


「もう、まだですよ。邪魔しないでくださいませんか?」


 片言の日本語で抱き付いてくる金髪の少女。その身体に纏う衣装は、洋風のメイド服。

 自分より幾分背の低い、幼い顔を胸から引き剥がして。

 割烹着の少女……美沙緒はため息をつく。


「マルリィ、貴女こそお掃除は終わりましたの? お姉さまから、居間の掃除を仰せつかったはずですよ?」


「ノー、マルリィお仕事飽きマーシタ! 美沙緒と遊びたいデース♪」


 懲りずに抱き付いて、頬を寄せてくるメイド服の少女、マルリィ。


「もう、お姉さまが貴女を引き取ったのは、遊ばせるためではないですのに……」


 17歳の美沙緒と13歳のマルリィ。頭一つ分ほど身長の低いマルリィの金の髪を、仕方なしに撫でてあげる。


「えへへー、マルリィ遊び盛りデス! お仕事より、大好きな美沙緒と一緒がいいデース」


「……困った子ですわ」


 天涯孤独な身の上だったマルリィを、美沙緒の「お姉さま」……この屋敷の女主人が引き取ったのは一週間ほど前。


(正直、お姉さまと二人きりが良いですのに……)


 美沙緒にしてみれば、マルリィは邪魔な闖入者。しかも、主人が彼女を引き取った理由が、「だって、可愛いじゃないか、金髪幼女」だというのも腹立たしい。

 彼女のメイド服だって、似合いそうだからと主人が用意した、特注品なのだ。


 私には、そんなの買ってくれたこともないのに。


「……ええ、どうせ私は典型的な日本人ですわ。割烹着しか似合わない地味娘ですわ」


「マルリィ、美沙緒はとても可愛い思いマース! 大和ナデーシコ!」


 舌足らずな片言で、天真爛漫な笑顔を向けるマルリィ。

 八重歯を覗かせた、その愛くるしい笑顔に。


「あ、貴女に褒められても嬉しくありません!」


 言葉とは裏腹に、美沙緒の頬は紅葉より赤く染まる。照れ隠しで自慢の黒髪をいじりながら、声が上擦るのを誤魔化す。


「でもその服も素敵デスけど。美沙緒はメイドの服似合う思いマスヨ? マルリィ、美沙緒のメイド姿、すごく、すごく見たいデース♪」


「結構です!」


 どうせ、貴女ほど可愛くはなれませんから。

 嫉妬を胸に押し隠し、美沙緒は掃除を再開しようとするが、


「oh、では裸になりマショウ♪」


「……なんでそうなるんですか?」


 呆れ顔で睨んでやりながら、ホウキを片付けに掛かる。

 落ち葉を踏みながら歩く美沙緒、その後ろからカルガモの子供のように、ぴょこぴょこ付きまとうマルリィ。遊んで、遊んでと割烹着の裾を引っ張る。


「もう、どうして私に、そんな構うのですか」


 こちらは、お姉さまとの間に割り込む邪魔者と思ってるのに。

 そんな美沙緒の内心も知らず。マルリィはにこっと笑って。


「だって、美沙緒はマルリィの憧れデス♪ 大和ナデシコ、素敵ネ!」


 無邪気に、腕に抱き付きながら。


「大好きデス、お姉さま♪」


「わ、私が、お姉さま……!?」


 考えてもなかった言葉に。


 ……きゅん。

 心臓が跳ねた。


 ああ、そうか。それなら分かる。美沙緒が主を慕うのと、マルリィが美沙緒を慕うのと。

 同じ感情だというなら、どんなに付きまとわれても、怒れるはずがない。


「……私を、お姉さまだと思うなら」


 少し屈み込んで、マルリィと視線を同じ高さに合わせ。


「お姉さまの言うことは、ちゃんと聞いてくださいね?」


 金色の髪の下。マルリィの幼い額に。


 ……ちゅっ。

 軽く口づけ。


「良い子にしてたら、続きをしてあげます」


「……」


 驚いた様子で言葉を失うマルリィ。その瞳が、星のように輝いて。


「ハイ、マルリィ良い子にシマース! だから次はマウストゥマウスお願いデス、お姉さま♪」


「も、もう! 外人さんはこれだから! はしたないですよ!?」


 仲睦まじく、屋敷へと戻っていく二人。

 その後ろで、燃え上がる恋の色のように。真っ赤な紅葉が墜ちていった。

 

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ