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野垂れ死ぬよりマシだろう  作者: まぎうす
プロローグ
3/69

プロローグ3

「話がずれてしまいましたね。で、世界の創造のためにあなたをお呼びした理由ですが、多元宇宙論はご存知ですね?」


(ここで多元宇宙論が出てくるということは、量子力学の多世界解釈か。本来の多世界解釈は、全ての可能性世界が重なり合って常に存在しているというものだが、これは可能性分岐ごとに新たに世界が発生するという、よく誤解されている方のモデルだろうか)


「とすると、自分は一つの世界に投げ入れられる小石というわけですか?」


「その通りです。あなたという小石を世界に投げ入れた瞬間、小石が投げ入れられない今までの世界の他に、小石が投げ入れられた新しい並行世界が創造されるわけです」


「質問ですが、その形の多世界解釈が正しいなら、今この瞬間にも無数の世界が創造されているのではありませんか?」


 そう、祐一がこの質問をした世界、しなかった世界、質問内容が違う世界など、一瞬ごとに無数の世界が分岐しているはずだ。


「いいえ、基本的な構造としては本来の多世界解釈に近いので、個人のあらゆる行動も含めてその世界の可能性全てが常に重なり合いつつ存在しています。しかし、今回のようにその世界の外から干渉されることは世界自体の可能性の中に含まれていないので、結果として『あなたが存在する』という可能性世界が新たに創造されることになるわけです。まあ、言ってしまえば私の力を使うことによる特例ですね」


 本来の多世界解釈が基本的に正しいということは、個人の自由意思が存在しているということだ。神の存在を知った時に頭をよぎった「人間は神の操り人形ではないか」という疑念が払拭されたことに祐一は安堵した。


「さて、話の続きですが、目的は並行世界の創造ですから極端な話あなたが移動した瞬間に死亡したとしても問題はありません。ただ、諸人の救済も兼ねていますのであちらで生活できるだけの力を差し上げる必要があります。で、どのような力をご希望でしょうか?」


 このままだと異世界に行っても知識も能力もなく野垂れ死にしかねないので、力をもらえるのはありがたい。ただ、もらう力を決めるにはどのような世界に行くのか知る必要がある。


「確認なんですが、転生とかではなくこの姿のまま行くんですよね。あと、行き先はどんな世界ですか?」


「失礼、そちらのご案内が先でしたね。まず、転生ではなく世界間転移なので、今のままの肉体で移動することになります。ただし、服装や所持品はあちらの世界で通常使われているものに変更させていただきます。それから移動先の世界ですが、簡単に言ってしまえば剣と魔法の世界です。魔物のたぐいもいますね。まあ中世ヨーロッパに近い世界なんですが、神託や魔法があるので公衆衛生などの文化レベルはそれなりに高いですよ」


 彼はいかにもなファンタジー世界に心躍らせつつも、一つ気になる点を確認した。


「神様としては元の世界と似たようなところに送ったほうが、わざわざ力を与えたりしなくて済むんじゃないですか?」


「あー、気付いちゃいましたか」


 男はばつの悪そうな顔で頭をかいている。どうやらなにか言いづらいことでもあるようだ。


「ええ、そこなんですが、先ほど言った通り私って創造神じゃないですか。あまりに力が大きすぎて、少し身動きしただけで世界が二つ三つ潰れてしまうんですよ。おかげで出来ることといったら、世界の創造に関することと既に出来上がっている世界を覗いてみることだけなんです」


 巨大な力を持つことの不便さに微妙に同情したが、今の言葉からすると、剣と魔法の世界を見るのが神様の好みということのようだ。


「最近の趣味なんです。ただ、前に作った世界をただ見ていてもそれほど大きな変化はないので、今回のように並行世界を作って、そこが元の世界からどう変化するかを見るのが楽しみなんです」


 つまりは試薬のようなものか。世界に投与して効能や副作用を確かめるわけだ。祐一としては不快な部分もあるが、なにしろ相手は神様、見ようと思えば風呂でもトイレでも心の中すべてでも見ることができる存在だ。他の人間だって同じように見られているんだから、とそこは気にしないことにして、力をもらってこれからの人生を有意義にできることを幸運と思うべきだろう。


「すみません、そう思っていただけると助かります」


 男は申し訳なさそうな顔で頭を下げている。一瞬その威厳のなさに本当に最高神なのかという疑いが頭をもたげるが、こんなことを考えてまたドラゴンにでもなられたら困る。今度こそ漏らしかねないと祐一はあわててその疑いを頭からはねのけた。最高神ともあろう方がわざわざこんな姿になってまで自分に頭を下げてくださるんだ、感謝してもし足りない。


「いえ、こちらこそこれほどのご配慮をいただけるなんて本当にありがたいです。実際ホームレスになる瀬戸際だったわけですから、どうか頭をお上げになってください」


「ありがとうございます。では、差し上げる力についてですが、申し訳ありませんが無制限にというわけには行きません。ある程度の制限をつけさせていただきます」


 先ほど大きすぎる力の弊害を知ったばかりだ、それは当然のことだろう。最高神と同じ力を無制限に分け与えたりしたら、どんな悪影響が出るかわかったものではない。だが、わざわざ念を押すということは以前に何かトラブルでもあったのだろうか?


「はぁ、よくわかりましたね。以前は可能な限りの要望を聞いていたんですが、いろいろと問題がありまして」


「というと?」


「最強の武器と鎧、それから最高レベルの魔力と身体強化が欲しいといわれて与えたら、『俺は神殺しになる!』と言っていきなり襲いかかって来ました」


「それはまた、アホですね……」


「ええ、すぐに元の状態に戻したうえで前の世界に帰しましたよ。一応その後も見てましたが、ホームレスになって最後には風邪をこじらせて死んでましたね」


 このまま元の世界に戻ったら自分も同じことになりかねない、言動に注意しなければと祐一は改めて気を引き締めた。


「もう一つ大きなトラブルになったのが、先ほどお話しした神の怒りに触れて天変地異が起きた世界です。元々その世界の人間には他種族を蔑視する傾向がわずかにあったのですが、本人の希望通り最高レベルの強化をした者を転移させたところ、最初に会ったのが特に他種族蔑視の強い神官でした。彼はその口車に乗せられるがままに勇者を自称すると他種族の虐殺を始めました」


「あの、正直信じられないんですが。それって現代の日本人とかじゃないですよね、あるいは精神に異常があったとか」


「いえ、あなたと同じ時代の日本人ですよ。ここで話した時も特に異常はありませんでした。ただ、あちらへ行ってからのことをゲームだと思い込んでいたようですね。天変地異が起きたあと神官に裏切られて、神の怒りを鎮めるための生贄にされましたが、最後まで『なんでログアウトできないんだ、GMはどこだ!』と叫んでいました」


「そういうことですか、話していただいてありがとうございます。下手をすると自分も同じような現実逃避をしていたかもしれません。気を付けるようにします」


「どういたしまして、お役にたったようでなによりです。では力についてですが、まずは転移する方みなさんに差し上げているのが自分のステータスとスキルを見る力です」


「ステータスとスキル? なんだかRPGみたいですね」


ご意見やご感想、誤字の指摘などお待ちしています。

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