ロスト・セレナ―ヨーフェンの黙示録
蜜柑。箱庭国際社会インフェルナ異伝用の原稿です。
世界観の説明は省きますので、関係者以外の閲覧はお勧めしません。
荒野を歩く老人がいた。
粗末な服を着て杖を手にし、よろよろと進むその姿は、むしろ哀れと言うべきかもしれない。ただ、何か全てを達観したかのような独特な雰囲気が、周囲の風景から彼を浮き上がらせていたのである。
太陽が自らの天頂に達したとき、突然立ち止まった老人がいた。
人一人として存在しない大地に、彼は静かに手を地についた。数秒後、老人は再び立ち上がる。その手にはいつ取ったのか、蒼く淡く光る壮石が握られていた。
たった一人、目を瞑って立つ老人がいた。
そのまま幾日かが過ぎた。ある晴れた日のことである。太陽が再び天頂にたどり着いたとき、不意に老人を軸に巨大なつむじ風が現れた。その中心で、彼は静かに目を開けた。そして、手中の石を真上に放り上げたのである。
風にあおられて、石が惑いながら落下してくる。次の瞬間、杖が目にも止まらぬ速さで一閃した。
カツーンと小気味よい音を立て、石は西の空へと飛び立った。
老人がつぶやいた。「東じゃな」
ヴァレフォール暦16年、母なる星ヴァレフォールは、有史以来の大災厄に見舞われた。3つある衛星のうちの一つ「セレナ」が軌道を乱され地球上に落下したのである。