第二話:始まりへの合図
「ねぇ鳴神、僕はいつも思うんだけど、キミはなんで陰陽師を名乗るんだい?」
夜の首都の見回りを始めて一時間弱。保寿がふと、そんなことを聞いた。
「どういう意味だよ。」
若干憮然として聞き返すが、保寿の疑問はもっともだった。
「陰陽師なら刀はまだしも銃やらナイフやらワイヤーやら仕込んだりしないでしょ。格闘だってできるようだけど、そもそも陰陽師って基本文系だから、格闘とも縁が無いだろうし。妖怪に銃とかはきかないし、そんな発想しないでしょ。キミは術だって使えるし、霊力に至っては神様レベル。銃とか使うなら退魔師とか、もっとそっちの方がはまり役じゃない?」
保寿の指摘通り、鳴神の服装は完全に戦闘に特化したものだ。高い防弾・防刃性を誇るコート、右の大腿部と左の後ろの腰に取り付けた銃、腰に備えた一振りの日本刀。その他様々な装備が仕込まれていた。なにかのアクション映画のような姿をした鳴神の姿だった。
「保寿、それは思い込みだ。この銃の弾には符を混ぜ込んで退魔の力をもたしているし、この刀は地球上の万物を斬る力をもってる。妖退治には都合がいいだろ。」
「だからこそだよ。名前ばっかで薄給な陰陽師より、独立して退魔師になった方がよっぽど儲るよ。」
保寿の言葉を受け、鳴神は沈黙した。しかし、ほどなくして寂しげな微笑で口を開いた。
「・・・陰陽師なら、事前に起きることが察知できるじゃないか。」
「ふぅん?」
保寿の目がおもしろそうにきらめいた。
「なにか深い訳でもありそうだね?・・・ふふ、人間は天命が短いくせに、トラブルに会う数は多いねぇ。大小関わらず、数えきれないほどのトラブルを起こし起こされ、巻き込み巻き込まれる。その辺は何百年生きても敵わないな。いや、だからこそかな?一生懸命なんだね、人間は。どんなに小さい事にも。だから一緒にいておもしろいんだけどね。」
500年の時を生きる保寿がこちら側にいるのは、単なる暇潰しだ。人間を裏切る事も傷つけることも、気にしない。ただ、面白い。彼にとってみれば人間がくだらない事であがく様は何にもまして笑いをさそうのだ。
「とんでもねぇ加虐趣味だよ、お前は。それでも、お前が笑っていても、誰が笑っていても、俺たちはくだらない事であがかなきゃいけないんだけどな。」
「ふふ、存分にあがいたらいいじゃない。達観した気になって、うんざりだのなんだの呟いて、自分で動かない奴みてると腹がたつしね。何ごとにも一生懸命なのは美徳だよ。」
と、飄々とうそぶく保寿。
ふいににこにことほほ笑んでいた保寿とそれをジト目で見ていた鳴神が唐突に振り向いた。
「保寿、妖気だ。」
「鳴神、悲鳴だ。」
二人は重なるように声を発し、互いの声を聞くなりその方向へと走り始めた。