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第一話:兆し

日本にはかつて、人と妖が共に生きている時代があった。

今より千二百年以上も昔。

平安とよばれる時代の事である。

当時、昼の太陽の下を人が歩き、夜を妖が闊歩する。

人々は夜になれば、家と入り、外を歩く妖に恐怖したが、それは同時に、人の手の及ばない領域への畏敬の念でもあった。

しかし人は光を、それまでのロウソクの火などとは比べ物にならない光を手に入れる。電気と呼ばれるそれは、瞬く間に、無造作に、闇を喰らいつぶしていった。そして彼らは誤解をする。妖は消え、夜を手に入れた、と。だがそれは大きな間違いだ。妖は消えてなどいない。今もひっそりと確実に、闇に息づいているのだ。人が喰らいきれない、わずかな、漆黒の闇の中に。


12年前。世界統合研究所、通称

「W.S.I」は心霊、妖などの非科学的存在を認める論文を発表した。それは、世界を駆け巡り、衝撃と混乱をまき散らし、各地で世界的権威であり、全ての学問の頂点である

「W.S.I」に対する非難を起こしたが、論文は一分の隙も無い理論に基づいており、誰も覆す事が出来なかった。皮肉な事に、今までの未解決事件、事故もその論文に基づけば解決してしまい、それは、霊・妖による霊害がある事の証明となり、世界の国々そして、世界は変わりゆく。わずか百年単位でしかなかった、人による勘違いの夜の支配は終わりを告げた。


首都。10年前ならば、昼と見まがうばかりのネオンで飾られていたであろう中心都市は完全に夜と同化していた。降るような星空であったが、今日は新月。わずかな星明かりが首都を照らしてはいるが、闇は深かった。そんな首都の一画に仄かな明かりの灯った屋敷があった。高層ビルの建ち並ぶ中にある平安時代頃の木造建築。似つかわしくないなどという言葉では足りない程場違いな平屋造りの建物は人々に陰陽寮とよばれていた。その名が示すとおり、平安時代より江戸時代まで絶える事のなかった陰陽師と呼ばれる者たちが集まる場所である。敷地はかなりの広さを誇り、一役所として扱われるには充分な広さであった。

その陰陽寮の一画で星を見上げている青年がいた。漆黒の髪と黒曜石のような透き通った色の眼がかつてはみる事の出来なかった広大な星空を見上げている。

青年の名は鳴神 星斗(なるかみ せいと)。妖怪の存在があかるみにでた頃より激増した、妖怪による犯罪行為を抑制するため創設された特殊部隊

「ONI」のメンバーである。本人は陰陽師と言い張っているが、そもそも陰陽師は妖怪退治を専門とするわけではなく、机仕事が主な役職を占めるので、本当かどうかは微妙な所だ。

つっ、と鳴神の瞳が動いた。鳴神の目に映った一筋の流星。星を読み、吉凶をうらなう陰陽師の直感になにか引っ掛かったらしい。そのまま自分の机に向かった。

「鳴神、どうかしたのかい?」

隣りの机の白髪をたらした、まだ18.19歳くらいの少年が鳴神に話しかけてきた。

「・・・だが、見た目に騙されてはいけない。こいつは500歳を軽く超える妖怪だ。」

「なにを言ってるんだい?」500歳を超える妖怪は少年の顔で首をかしげた。名は保寿ほうじゅ

「いや、ちょっと星がさ。大した事はないとおもうんだけどな。一応、見ておこうと思って。」

「ふ〜ん?でも、占いは誰かに任せた方がよくないかな?キミ、直感は頼りになるけど、占いは当てになら無いからな〜」

ケラケラと笑う保寿になめるなよ、と口の中で毒づくと六壬式占りくじんちょくせんと向き直る。六壬式占は陰陽師が吉凶を占う道具で、得られた結果を様々な資料と直感によって判断する。しかし、六壬式占は訳の分からない結果を示した。

「やな感じだな。“殺意あれど殺意なし”“目的あれど目的無し”?ナゾナゾか?」

頭を捻っていると、保寿が近付いて来た。

「どうしたの?やっぱり無理だったのかい?」

「町によくないモンがやってきたらしいんだが、なんなのかさっぱり分からん。」

「ふんふん。“殺意あれど殺意なし”“目的あれど目的無し”ねぇ・・・。確かに訳が分からないね。どうするの?他の誰かにやってもらうかい?」

鳴神はしばらく考えこんでいたが、ふっ、と立ち上がると手の人差し指と中指を立て、己の額に当て、なにやら呟き始める。その姿を見て保寿は首をかしげた。

「暗視の術・・・。今から外行くのかな?」

「百聞は一見にしかず、だからな。一応占いは誰かに頼んどくけど、町に近付いているみたいだから、様子みとく。」

「おもしろそうだから、僕も行こうかな。」

「来るか?いるかいないのかも怪しいんだぜ?」

「散歩にはちょうどいいでしょ。気晴らしだよ。」

「なら、行くか。」

そして二人は、夜に支配された首都へと向かった。



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