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第一話 兆し

でってぃう! とりあえずここまで!

一応すぐに続き書き始めるつもりですー。

……血迷ったかな。

 ある村の出入り口、明確な門や見張り台などは建てられていないが、それでもここが村の出入りに利用されている場所である事はひと目でわかる。

 そこに立つのは男女二組の大人と大人と子供の境目にいる長く豊かな金色の髪を持つ女性が一人。

 そして、村の出口、つまり街道側に立っている大人達を大きく輝く瞳で見つめる男の子が一人。

 その光景を見るにそれは誰かを見送る為の場面であることは明らかで、キラキラした瞳をそのままに男の子が黒髪の男女に向かって手を大きく振っている。

 それを微笑ましく見ている金色の髪を持つ大人の男女と、一人の女性も黒髪の男女へ向けて小さく手を振っている。

 彼らの表情は、ちょっと散歩へ出かけてくる友人を見送る。ただそれだけの表情に見える。

 そして、見送られる側の男女の表情にも気負いというものは存在しない。


 その光景を見ている能なしと呼ばれた彼――コウキは思い出す。


「あぁ……この光景か」


 無感動に呟いたその声を自身で聞いた彼は、思い出す。

 その後に起こった事まで鮮明に思い出す。

 そしてその時に思った事も感情も思い出す。

 どれだけ強くても、どれだけ素晴らしい能力が持っていても、誰かが絶対に死なないなんて、そんな夢物語は何処にもない。

 ただただその時は虚しさと悲しさ、表現の仕方が浮かばない程に感情が入り乱れ、ただ涙を流すだけの存在が出来上がった。


 あの時こうしていれば……誰しもそう思う事はある。

 コウキにとって今見ているこの場面がその時であり、もうどうしようもなく過ぎ去ってしまった過去の記憶でもある事は、コウキ自身がよくわかっていた。


 だからこの後どうなるか、それは彼自身がよく知っている。

 手を振る男の子に向かって、何かを思い出したように黒髪の男性が振り返り、女性に向かって数回言葉を投げかけた後に少年の元へ駆け寄る。

 雑草と砂利を踏みしめる力強い足音が少年の目の前で止まり、金属と革で構成され、年季の入った戦闘用のブーツがぎゅぎゅっとしなり、鍛え上げられているであろう肉体を少年の目の前で沈み込ませる。

 少年と同じ目線の高さまで自身の瞳を持ってきた黒髪の男性は、その鋭い黒の瞳を愛情を込めた笑みの形に歪ませ、男性的な薄い唇を開く。


『父さんと母さんはちょっと人に呼ばれたから行ってくるけど、すぐ帰ってくるからな?』

『うん! わかってる! きのうもきいたもん!』

『ハハッ! そうだったな! じゃあ、それまでいい子にしててくれよ?』

『わかってるー』

『じゃあ約束だぞ、父さんが帰ってきたら……』


「『父さんが帰ってきたら父さんの刀をやる』……まぁ、その刀もどこに行ったのか、もうさっぱりわかんねぇけどな……」


 見えていた映像が霞の如く消え去り、続きの台詞を聞けなかったが、その台詞を聞いていた子供――コウキは一字一句違えず覚えているのだ。

 父と母は自由活動を主とする独立傭兵で、スオウ出身だったらしい。

 互いに違う所で自由に活動できる傭兵として自身の出身村を出て、有名になり始めた頃に出会い、共に数々の仕事をこなし、その名が広く知れ渡った時、引退し王都ローデンハルトの近くにひっそりあるこの村に腰を落ち着けたと聞いていた。

 そしてこの時出て行ったのは、傭兵時代の知り合いに呼ばれたからだと言う話だ。

 この時が両親を見た最期の時で、後は人伝に伝わった話しか聞いていないが、遺品としていくつかの品が届けられていた。

 その中に父と母が使っていた武器は無かったものの、二人が常に指に通していた指輪、互いの名前を刻んだ結婚指輪を受け取っていた。

 指輪は間違いなく本人達の物で、同時に受け取っていた傭兵必須のポーチから、コウキの名前が刻まれたブレスレットも出てきては、認めるしかなくなっていた。

 ブレスレットも何かの魔法が掛けられた品であり、魔法道具であった事から非常に価値のあるもので、それを巡って村にいる一部の者達の雰囲気が怪しくなったが、それでもこれだけはとコウキは脆弱な身ながら絶対に手放す事はなく、今でもしっかりと身につけている。

 今になってもそのブレスレットがどう言う魔法具なのか、それは未だに分かってはいない――。




 そしてコウキは己の体が揺さぶられている事を知覚し、意識が浮き上がる感覚を自覚する。

 完全に意識が目覚めたコウキの感覚がまず動いたのは聴覚、身体能力向上が見られないコウキの普通の聴覚が捉えたのは、耳元で声を上げる焦ったような女性の声。

 身体能力の向上がなくとも聞き取らない事が難しい程に大きく、焦った色の声だ。


「コー!? コー!? ちょっと、大丈夫!? ねぇ!」


 本当にこれ以上ない程に焦った声でコウキの名前を呼ぶ女性の声の持ち主が誰か……。

 しかしそんな事より、じゃりじゃりと先程から体を揺さぶられる事によって生じる体とその下にある川原の石の感触が不快なのだろう、コウキの形の整った眉は更に顰められる。

 取り戻した意識と共に、薄く瞼を開くと、まず飛び込んでくるのは綺麗な白色の肌と輝かんばかりの豊かな金色だ。

 とにかく心配そうに空色の大きな瞳がくるくると忙しそうに動き回り、男と比べると小さく、しなやかで細長く綺麗な手がコウキの体を撫で回す。

 無論、その手つきは体に異常がないか確かめているだけであり、とても優しいものだ。

 コウキの表情の変化を見つつ、一つ一つ丁寧に、優しく、しかし迅速に確かめていくが、コウキの表情に変化等は殆ど無く、あるとすればうっすらと瞳を開き、鋭い黒の瞳が覗いている事。

 そして、一度開かれた瞳が陽光によって眩しそうに細められると同時に、薄い唇が開かれ、低めの男性の声が紡ぎだされる。


「大丈夫だっつの……起きてるから上からどいてくれ」

「へっ!? あ、あぁ、ごめん!」


 今まで眠っていたコウキの瞳が開き、鋭い瞳を向けられながら声を掛けられた事に驚いたのか、金色の美しい髪が目を引く美女はコウキを覗き込んでいた上半身を少し慌てた様に起こす。

 金髪の美女が上半身を下げ、コウキの傍に座り込んだ事を確認し、コウキ自身も上体を勢いよく起こす。

 石と石をぶつけ合わせながら川原の上に胡座をかいて座り込む姿は、奇妙なほど違和感がなく、この場所で座り込む姿はそれが自然な姿なのだろうと他人に思わせるには十分。


 自らが意識を失う前には、全身に軽い出血を伴う擦り傷や切り傷が存在し、側頭部は軽度ながらも出血を起こす怪我を負っていた。

 それらを確かめる様に、右手で左腕を触り、左手で右腕を触り、最後に確かに切れて出血していた側頭部を触るが、その全ての箇所にはもう傷など跡形もない。

 肌には出血をしていたと言う痕跡すらなくなり、そこにはいつもと同じく古傷が残っている自分自身の肌が存在するだけである。

 精々出血していたと言う痕跡があるとすれば、麻色の生地で出来た服に付着するいくつかの小さな血痕のみであり、それがなければコウキが先程まで怪我をしていた事にさえ誰も気がつかないだろう。


 心配そうにコウキを見つめる空色の瞳に気がつくと、コウキはその鋭い瞳を女性に向ける。

 長い耳をぴくぴくと心配そうに揺らしながら、コウキを見つめる金色の髪を持った美女が、森の間を流れる川原で座り込む絵は非常に美しいと感じられる。

 しかし、コウキにとってその絵は見慣れたものであり、今更気後れする事等何もない。


「ありがとな、ミーシャ。助かったわ」


 自らの怪我が何故治っているか等、考えるまでもなく、その原因へ向けてコウキは躊躇いもなく礼を言う。

 素直に礼を言うコウキの言葉と様子に、ミーシャと呼ばれた美女は嬉しそうに長い耳をぴこぴこと揺らしながらも、その表情は必死に平常を保ち、視線をつぃっとコウキから反らしてみせる。


「い、いいわよそんな事、い、今更だし……」


 空色の綺麗な瞳が右へと動き、座り込んで掴める様になった黒のローブの裾を落ち着き無く握っては離し握っては離しをただひたすらに繰り返す彼女は、間違いなく照れているのだと思われる。

 しかし、その時には既にコウキの視線はもう自らの体に向かっており、表面的な部分だけでなく、関節や体の内部におかしな所はないかを確かめるようにして右腕をぐるぐると回している。

 万が一片腕にでも異常が発生すれば、コウキとしては見逃す事が出来ない不調である。

 無論それは、足だろうが腕だろうが結局見逃す事は出来ないのだが……。


 結局おかしな所は見つからなかったのか、全身の力を抜いて胡座をかいた膝に右腕の肘を置き、掌を開き頬杖を突く。

 そして視線は自然とミーシャと呼ばれたエルフの美女へと向かう。

 正確にはミーシャの着ている黒のローブに集中している。

 彼女が今着ているローブは、ローデンハルトの魔法騎士団に所属する者だけが着られるローブであり、ローブの合わせ目に存在する首元の留め金も兼ねているブローチに、ローデンハルトの魔法騎士団所属を表す月と太陽が描かれた紋章が刻まれている。

 よくよく見ると、装飾が極端に少なく、無駄な布地も無い事から、軽鎧を装備するための配慮もされている実戦的なローブなのだろう。

 ミーシャが今どう言った地位にいる人物なのか正確に把握しているコウキの鋭く黒い瞳は、真っ直ぐにミーシャを見据えており、その瞳にはハッキリと疑問の色が浮かんでいる。


「んで? 魔法騎士団に行ってるお前が何で今ここにいるんだ?」

「何でって……その、一応、長期休暇だから、その……コーに、ぁいに……」

「何だって?」

「その! 長期休暇だからパパとママに会いに来たのよ! それで久しぶりだから、コーの顔でも見よっかなーと思ったらパパとママ、何か微妙な顔して居ないっていうし!」

「あー、なるほどな……もうそんな時期か」


 なるほどな……と静かに腕を組み、何かを思案するように眉根を寄せ、考え込む様に言葉を切る。

 両親が亡くなってから、コウキはミーシャの家で暮らしており、ミーシャの両親もコウキの両親と仲が良かったのでそれを快く了承してくれていた。

 しかし、それも三年前に非常に心を痛めているようで苦渋の決断を滲ませた表情を浮かべたミーシャの両親はコウキに別居を勧めて来た。

 幸いコウキが元々両親と住んでいた家はそのまま残っているし、時折家に帰って掃除等をしていた為、特に使えないと言う事はなく、別居にあたっての問題は特になかった。

 コウキ自身はその事実に対して特に何とも思っていない。

 寧ろ成人年齢まで自分という子供を置いてくれていたのだ。感謝こそすれ恨む事は出来ない。子供の養育に関する費用というのは、王族であれ貴族であれ平民であれ、とにかく金が掛かる。

 そんな存在を、態々成人まで置いておいてくれたのだ。成人したから家を出ていき一人で暮らしていく輩等、この世界に腐る程いる。

 コウキとしては、そう言う意図もあり、特に何とも思っていないのだが、ミーシャの両親はそう思ってはいないようで、十六を迎えてもダストに目覚めないコウキを置いておくとどうなるか、それを考えてしまったのだろう。

 狭い村の中であり、そういう話のネタになる様な情報はすぐに伝達する。

 そう言う理由もあり、厄介払いの意図もあったのだろう。コウキとしては仕方ない事だと思ってはいるが、その事をミーシャに話してしまうと非常にまずい。


 ミーシャというエルフの女性は、明るい性格で厳しさも優しさも持ち合わせている人格者だ。

 しかし、少々正義感の強すぎるきらいがある。

 無論、悪い事は許せないという精神は素晴らしいものであるし、それを否定する要素は何処にもない、が、こう言った事は目に見えないだけで無数に存在する。

 それこそ小さい村単位での集まりだと、存在しない方がおかしいと思える程には確実に存在する。

 そんな事にいちいち気を裂くようでは神経をすり減らし、潰れる未来しか待っていない。

 結局無くならない物には目を瞑れ……とまでは言わないが、心の中で憤りを感じつつも、表面上は受け流すくらいでなければやってはいけないのだ。

 恐らくミーシャの両親が思っていた意図まで素直に話してしまえば、ミーシャは己の両親を責めるだろう。それは非常によろしくない。


「あー、何だ。一応俺も成人したわけだ。ダストは目覚めてないけどな、だからまぁ、元の家に戻ったってだけだ」

「そっかぁ、そうよねー……コーも今年で十九かぁ」

「ミーシャ何歳だっけか?」

「普通何の躊躇もなく女性に年を聞く?」


 空色の大きな瞳をジトッと半眼にし、コウキを見据えてくるが、特に気を悪くしている雰囲気はない為、コウキとしてもその瞳を見据え返してやる。

 続きを促すように軽く目配せすると、ミーシャは拗ねた様に片頬をふくらませて反応してみせる。


「もー、コーは相変わらずからかい甲斐がないなぁ……八十三歳ね」

「なら俺とそう変わらないよな、成人してからそんなに経ってねぇし」

「でも人族って凄いわよねぇ……十六でダストに目覚めたら寿命って倍以上になるんでしょ?」

「確か正確には四百歳位まで伸びるらしいな、ユニークダストだったり、ダストの内容が身体強化系に類するものだった場合もっと伸びる可能性はあるらしいけどな」

「なのに出生率は変わらないのよ? もーおかしいよね、私から言わせれば人族の方がよっぽど能力高いわよ」


 様々な人種が入り乱れるこの世界では、平気で千歳を越える種族が数多いる。

 しかし、そういう種族に限って出生率が極端に低い傾向がある。

 そこを行くと元々の平均寿命が低い人族の出生率は他の人種と比べて、圧倒的なまでに高く、ダストに目覚めて以降もそれは変わらない。

 お陰で、人族の有名なダスト能力者の傭兵や騎士等はかなりの大家族が多いのが実情である。

 それを含めてみて、よほどエルフより人族の方が凄いと、形の整った美しい金色の眉根を寄せて難しい表情を浮かべるミーシャに、コウキとしては苦笑を返すしかない。


「まぁ、俺はこのままいけば五十歳位にはポックリ逝くがな」

「そういう冗談はやめて、私はまだコーがもうダストに目覚めないなんて思ってない」


 軽く笑みを浮かべてコウキが投げ込んだ台詞に対して、ミーシャの硬い声がコウキの言葉を静かに怒る。

 ミーシャの予想以上に硬く低い声に、コウキは思わず瞳をミーシャへと移す。

 そこには先程まで冗談を言い合っていたミーシャの姿はなく、感情の昂ぶりによってか、ふわりと金色の髪を浮かべ、ミーシャの魔力の色である紫色の魔力が薄く立ち上っていた。


 立ち上っては消えていく魔力の粒子は、空気中の魔素と同質化し、世界の一部へと還っていく。

 そして何処かの魔族が魔素を吸収し、自らの糧とし、魔素を取り込んだ魔族が魔力の結晶体を作り出し、違った形で人族やその他の種族に還っていく。

 姿形は違えど、魔素の循環とはそういう物である。と言う自らが身につけた知識がコウキの頭の中を過ぎる。

 小さいながらも自らが実際にその循環の始まりを見ていると思うと、コウキは何故か感慨深い物を覚えた。


「そーだな、わりぃ」

「ホントよ? 私が諦めてないのにコーが諦めちゃ意味ないのよ? 私はその、これからもコーと……」

「あぁ、俺もさっさと幼馴染にオサラバしたい訳じゃねぇしな」

「そー言う事じゃないんだけど……わかってない?」

「はぁ? 何言ってんだ?」

「いやだから……はぁ……もういいわよ」


 少し目を見開きつつ、あからさまに首を傾げてみせるコウキのその仕草は、本当に何も分かっては居ない時のそれである事を、長い付き合いであるミーシャは理解している。

 そんなコウキの反応を見たミーシャは、結局諦めた様に溜息と共に、横長の耳を落ち込んだ様に下げてしまう。

 心なしか肩も一緒に下がっているように見えるのは決して気のせいではない。


「さってと……」


 がらがらと川原の石ころを蹴散らしつつ、立ち上がったコウキは衣服についた砂を軽く払い落とし、ミーシャへ向けて手を差し伸べる。


「そろそろ行こうぜ、休暇なんだろ?」

「あ……えぇ」


 何の気負いもなく差し伸べられた手を、少し見据え、どこか嬉しそうにその手を握り、花が開いたような笑みを浮かべる彼女は、間違いなく可憐と言う言葉が似合う美女である。

 ミーシャが握ったその手は彼女の体を力強く引き上げ、勢いよく彼女の体を立ち上がらせる。

 無論、魔法騎士団に所属するエリートが、ダストに目覚めていない人族の男性の脆弱な力で勢いがつき過ぎて転倒する事等ある訳もなく、危なげなく体を安定させる。

 しかし、ダストに目覚めていない、種族としての違い、そんな事を度外視してみた時に、ミーシャの胸が高鳴ったのは事実でもある。

 ごつごつとして、明らかに剣を握っているであろう掌のタコや、硬質化した掌の厚い皮、女性にはない単純な筋力では言い表せない男性的な力の入れ方。

 それら全てがミーシャという女性を喜ばせるには十分な事であった。


「じゃ、行くか」

「そうね……ふー、落ち着け私……」

「何か言ったか?」

「な、何でも!」


 ミーシャがきちんと立ち上がった事を確認し、いつもの様に気の抜けた歩き方でありながら、危うさを感じさせない足取りで、コウキはさっさと歩き出す。

 しかし、コウキが歩き出してもすぐには追わず、一呼吸置いてから自らの豊かな胸元に、コウキの手を握った方の手を当て、ゆっくりと息を整える。

 その様は正に乙女と言う他ないが、コウキにそれが理解出来るはずもなく、振り返って疑問をぶつけてくるコウキに問題ないと返すミーシャは、軽い足取りでコウキの背中を追う。

 後には途切れる事のない川の流れの音と、森の木々が鳴らす囁きだけがその場に残った。




 コウキの住んでいる村であり、ミーシャの実家にある村は、名をトトリと言う。

 比較的王都の近くに存在する村であり、場所としては国の中央付近に存在する。

 特筆して特産と呼べるものはなく、傭兵ギルドに張り出されるほど報酬のいい仕事はこの辺りにはない。

 つまりは、ただ体を休めて通過点の様に通り過ぎるだけのただの村であると言える。

 無論、獣や魔獣、モンスターが出ないわけではないが、この辺りに居るのはダストに目覚めた者ならば、訓練を積んでいなくとも容易に相手取れる存在ばかり。

 先程コウキ達がいた場所は村の西側に存在する森であり、あの川はそう言った存在が出てくる境界線のような物で、それより奥に入れば容易に見つけられる程度には存在している。

 故に、あの川の奥には海側に繋がる街道が存在していて、海を渡りたいならば強引に森を真っ直ぐ突っ切るのも一つの手ではある。

 しかし、それを行う者がいないのは、結局そこに息づく存在が怖いのではなく、森という存在が怖いのだ。

 整備されていない森と言う物は、多かれ少なかれ進む方向を自然と狂わせる物がある。

 自然の魔力と言う物が怖い、そして少し迂回すれば西側へ向けての街道が切り開かれている。故に誰も好んで真っ直ぐ森の奥へ進む事はない。

 だが、境界線までならば、地元の人間にしてみれば玄関の入口へ行くような物であり、明確に戦闘力を持たないコウキでも容易に入り戻ってこれる所でもある。


 そして、コウキ達の村であるトトリは特に代わり映えもしない普通の村だ。

 普通に木造の家が立ち並び、普通に人が耕した畑があり、普通に人が水を汲む井戸がある。

 近くに危険な存在が居たりだとか、盗賊が出たりだとか、そう言う話は一切ない普通の村だった。

 辺鄙ではあるが、比較的近くに存在する王都の恩恵を受けて、治安は悪くないし、モンスターの掃討も定期的に魔法騎士団や自由活動を主とする独立傭兵達によって行われている。

 王都の城下町の様に整備された地面ではないが、平坦で砂利と雑草が入り乱れる普通の村道が敷かれており、歩きやすくもなく歩きづらくもない。

 村の様子だけ見ても中身を見ても普通の村だった。


「さっきから目立ってんな……そのローブ脱がないのか」

「えっ!? 今ここで脱ぐの!? この下って下着も同然なのよ!?」

「下に服着ろスカポンタン」


 先程からそんな普通の村に歩いてはおかしいとさえ言える程の地位にいる人物が、コウキの隣を歩いており、変わんないわねー、等と呑気に声を上げつつ楽しそうに歩いているのだ。

 そしてそれが目を引くほどの美しい女性のエルフなのだから、当然目立たないわけがない。


 狭い村ではあるが、ミーシャがこの村を出て行ったのは三年前、コウキがダストに目覚めなかった事を本人以上に残念に思いつつ、泣く泣く出て行ったのだ。

 そして交友関係は殆どコウキと一緒だったので、周りが思春期に到達した頃には、ミーシャは魔法騎士団の試験へ向けて、部屋で勉強したり、人知れず訓練を積んでいた。

 コウキがダストに目覚めるであろう年齢に到達する少し前に、ダストに目覚めていたミーシャは勉強と訓練で中々に人前に姿を現さず、出立の日になってようやくミーシャの美しさを自覚する者も多くいた。

 つまり、今コウキ達の年頃やその少し下の男性は、丁度成人を迎えた頃にある。

 この村でミーシャが目立たない訳がなかった。


「す、スカポンタン……何言われたかよくわかんないけど、すごい悪口を言われた気がするわ……」

「いやまぁ、俺も適当に出てきた言葉を繋ぎ合わせただけなんだが、予想以上な悪口じゃないかと思った」

「じゃあ言うのやめなさいよ!」

「いや、こう、ポロっとな」

「なぁにがポロっとよ! 反省する気ないじゃない!」


 後頭部をポリポリと軽く掻きながら、悪びれた様子のないコウキに、ミーシャの目元がひくひくと引きつったように動き、コウキを責め立てている。

 しかし、当然コウキにとっては痛くも痒くもないようで、相変わらず悪びれた様子はない。

 それ所か、歩きつつその鋭い黒の瞳を動かし、右隣で自分の隣を自らと同じようにじゃりじゃりと足音を鳴らしながら歩くミーシャを横目で見据える。


「大体態々村の中まで魔法騎士団のローブ着てくるお前が悪い」

「こ、これは急いでたから!」

「急ぐような事あんのか? こんな村の中で?」

「いや、まぁ、そのぉ……」


 問い詰めるようなコウキの視線に耐え切れないのか、ミーシャの空色の瞳がコウキが居るのとは反対方向へつぃっと泳いでいく。

 心なしか頬が薄く染まっているような気がするが、それも陽光や彼女の肌の白さと相まって余り目立つ事はなく気のせいで済ませられる程度だ。

 何処か慌てた様子のミーシャに、コウキは、まぁいいか……と軽く声を上げ、視線を前方へと戻す。

 その様子に、ミーシャは少しばかりホッと胸を撫で下ろしていたが、当然コウキはそれを見ていない。


「お前目立つんだよなぁ……美人だからな」

「えっ!? 私美人!?」

「えっ? 違うのか、俺は美人だと思ってるけどよ」

「そ、そっか、コーがね、そ、そう、へへっ、えっへっへ……」


 ぼんやりと投げられたコウキの台詞に、これ以上ない程に驚きの声と表情を披露した後に、だらしない程の笑みを垂れ流すミーシャも、やはり美人ではある。

 だらしない笑みも、美人が浮かべるならば魅力的なものになるのは世の常だ。

 大きく魅力的な空色の目元が嬉しそうに下がっていたり、感情を表すように横長の耳が垂れ下がっていたり、小さめの口元が喜色を表すように歪んでいたりするのも、絵になるのはミーシャが整った容姿を持っているからだ。

 エルフの連なる人物は、殆ど例外なく美形ではあるが、ミーシャはその中でも特に容姿は整っている方ではある。

 無論、上には上がいるのも世の常だが、少なくとも辺鄙な村には似つかわしくない程の美女である事は確かだ。


「つーか、結局さっきのも元はお前目的の奴が絡んできただけだしなぁ」

「えっへへ……って、アレ私が原因なの!? そうじゃなく、コーを殴ってた奴、アレって確かへストのおっさんの所のクソガキよね、今夜血祭りに上げてくるわ」

「やめとけ、お前が言うと洒落にならん」


 ボロボロになったコウキの姿を思い出したのか、ミーシャの瞳に少々危険な色が宿るが、間髪入れずにコウキ自身がそれに待ったを掛ける。

 実際に冗談だったとしても、コウキが苦笑を浮かべつつ言った様に、ミーシャが言うと洒落になってはいない。

 何せローデンハルトと言うこの国では、魔法騎士団が唯一の軍事力でありながらも、それだけで何とかなって来ている。

 それはつまり、ローデンハルトの魔法騎士団が途方もない程に優秀であると言う他ならず、魔法騎士団支給のローブを現在身に纏っているミーシャも、それは例外ではない。

 下っ端だろうが、役名持ちだろうが、魔法騎士団に所属するものは例外なく高い実力を備えている。

 そんな存在が村の一般人を血祭りに上げる、等と言うのだ。

 全く持って洒落になってはいないし、実際に実行してしまえば、今夜を待たずしてへストのおっさんの所のクソガキとやらは血祭りに上げられるだろう。


 コウキからの待ったを掛けられ、小さく舌打ちを打つミーシャだが、もうその視線は変わらない村の中へと向けられている。

 子供の頃によく通ったパン屋に、夜の食堂で食事をした宿屋、村の者達や旅人や傭兵達で賑わう村の酒場。

 その全てがミーシャが出て行く前とほぼ同じであり、違うのは店主やその息子、娘が少し年を経た事と、それからミーシャに向けられる視線、コウキに向けられる視線。

 それだけだ――。


「ねぇ……」

「あ?」

「私コーと歩くまで、変わらない村だなぁって思ってたのよ……でも、変わっちゃったわね……」

「……仕方ねぇさ」


 変わらない変わらないとはしゃいでいたミーシャだったが、森から村へと入り、村の中をくるくると歩き回っている内に冷静な目線で村の様子を見てしまったのだろう。

 彼女の空色の瞳には、哀しさや切なさ、寂しさを宿す瞳の色が浮かんでいる。

 緩やかな風で靡く黒のローブや豊かで輝く金色の長い髪と同じ様に、空色の大きな瞳がゆらゆらと揺れて村の人達を見つめている。

 その表情に浮かぶ感情は、他人には全てを理解する事は出来ないが、変わらない村で何が変わってしまったのか、それを理解してしまったと察するには容易だ。


 ミーシャに向けられる羨望の眼差し、そして、コウキに向けられる異端の者を見る忌避すら抱いている視線。

 到底同じ村で暮らす者に向けられる視線ではない。

 その事に気がついてしまった。


「でもまぁ、案外冷静で俺としては安心した所だ」

「何それ、私そこまで子供じゃないつもりよ?」

「別に子供かどうかじゃなくて、性格的にって事だな」

「私、そこまで短絡的じゃ……」


 苦笑と共に言葉を投げるコウキに、少しばかり立腹なのか、反論しようと口を開くミーシャの視線の端から、子供達が駆け寄ってくる姿が見える。

 普通の村に住む普通の子供の服装など、大体似たようなもので、コウキと同じく男の子は麻色の長袖長丈のシャツとズボン、女の子はスカートになっている位でさしたる違いはない。

 こう言った村に住む女の子のお洒落は、服装ではなく髪型で決まる。


 駆け寄ってきた子供達は、ミーシャではなくまずコウキへと群がる。

 女の子三人に男の子二人の子供組は、元気に駆け寄り、ほぼ全員でコウキの体へと突撃する勢いで群がっていく。

 その全てを問題なく受け止め、コウキは苦笑を浮かべてみせる。

 赤髪で短髪の気が強そうな男の子がまず顔を上げて、それに続いて他の子たちも一様にコウキを見つめている。


「どした、お前ら」

「コウキにーちゃん! あのおねーちゃんまほーきしだんの人?」

「あぁ、そうだすげー強いらしいぞ?」

「すげー! コウキ兄ちゃんよりも強い?」


 まずミーシャの事が気になるのだろう、赤髪で短髪の気の強そうな男の子と、さらりと流れる青髪の活発そうな男の子がコウキへ向けて質問を投げかけ、苦笑はそのままにコウキは答えてみせる。


「おー、俺なんざ直ぐに叩きのめされるくらいつえーぞ?」


 鋭い黒の瞳に笑みを浮かべ、しゃがんで子供達に向かってそう答えるコウキに、男の子達の視線は、すげー! と言う大きな感嘆の声と共にミーシャへと向かう。

 ダストに目覚めていない子供達からすれば、気を使わずに遊んでくれる数少ない大人の一人がコウキと言う男性だけ、故に慕われるのが当然。

 無論、ダストに目覚め、身体能力が向上してしまったとしても、自らの体を上手く操れる訓練を積めば、問題なく子供達に合わせる事が出来るのだが、普通の村の人間がその様な特殊な訓練を黙々とこなせる訳もない。


 男の子達は未だコウキの元から離れないものの、既に体をコウキから離し、視線はミーシャへと向けられている。

 その好奇と羨望を含んだ無邪気に自らを見上げてくる眼差しに、ミーシャは少し落ち着きなさそうに体をよじるが、その視線は子供達にきちんと向かっている。

 無論、未だに女の子達にまとわりつかれているコウキにも。


「コウキおにーちゃん、あの女の人にまけちゃうのー?」

「あはは! かっこわるーい」

「おー、まぁ、俺は弱いからなー、カッコ悪いかもなー」

「そ、そんなことないもん! おにーちゃんかっこいいもん! よわくてもアタシがまもってあげるもん!」

「そーか、んじゃ、その時になって俺が弱かったら頼むわ」


 活発そうに声を上げる茶色の髪をポニーテールにした女の子と、深い青色の髪をストンと背中へ真っ直ぐに下ろした女の子がコウキを笑うが、コウキは動じた様子はなく、ただ笑みを浮かべてゆったりと相手をする。

 そんな三人の女の子の中で、長く輝く金色の髪を持ち、両サイドのもみあげを長く三つ編みにした髪型の女の子は、必死に声を上げて二人の意見に反論。

 少し耳が長く尖った女の子の頭に手を置き、わしゃわしゃと撫で付けるコウキはやはり笑みを浮かべていて、撫でられている女の子は頬を少し染めて、嬉しそうに笑顔をコウキへと向けている。


(またエルフ……何なのよコーってば、エルフには異常に好かれるフェロモンでも出てるのかしら……)


 明らかにコウキに対して憧れと羨望、そして好意を抱いているであろう女の子がエルフである事に、自然と少し納得がいかない表情を浮かべるミーシャだが、その意識もコウキから引っペがされる事になる。

 ミーシャが少し視線を下に向ければ、先程までコウキの傍にいた男の子達が、ミーシャの下まで近寄り、きらきらと無邪気な眼差しで見上げていた。


「な、何かしら?」

「おねーちゃんコウキにーちゃんよりつよいってほんと?」

「そうね……わからないけど、逆に聞くわね? コー……コウキって強いの?」

「コウキ兄ちゃんはすごいんだよ! 力だって強いし! すごく速く動くし! 刀だって使うんだよ!」


 言動から察するに、赤髪の子よりも、青髪の子の方が少し年上らしく、言葉に揺れが少なく達者だ。

 子供達の言動を信じるならば、コウキと言う男性は強いらしい、コウキの両親を知っているミーシャからすれば、コウキが刀を使う事に何の違和感もない。

 しかし、何時から刀を握るようになったのか、それをミーシャは知らないし、掌が剣ダコで一杯になっていた事も知らなかった。

 こうして子供達から聞く事によって、少しばかり見えていなかったコウキが少し見えたと、ミーシャ自身はそう思う。


「コウキは遊んでくれるの?」


 自らもコウキがやっているのと同じように、子供たちの前にしゃがみこみ、笑顔を浮かべて聞いてみる。

 それに対しての子供たちの返答は、これ以上ない程に嬉しそうな笑顔だった。


「なんかいつもやってる、しゅーぎょー? のときにあそんでくれる!」

「しゅぎょうにもいきぬきはひつようだってコウキ兄ちゃんいつも言ってるから!」

「そう……コウキは優しい?」

「おこったらこわいけどやさしい!」


 ダストに目覚めている訳でもないのに、訓練を積み、修行をしているらしい。

 しかも子供達の言動を聞くに、どうやら毎日欠かさずやっているようで、その合間に遊んであげていると言う話だ。

 そして、厳しくも優しい。

 子供達がまず女性であるミーシャではなく、成人を過ぎている男性であるコウキへとまず最初に駆け寄った理由がはっきりと提示された。

 ミーシャの視線は子供達を捉えつつも、女の子達の猛攻に苦笑を浮かべながらも対応しているコウキへと向けられていた。




 少し村の開けた場所で子供達と遊んで、子供達が帰路についたのを見送った時には、既に日は傾いており、辺りは赤い光に包まれていた。

 王都では鳴り響く時間を告げる鐘が、この村までは届かない。

 時間という概念を鐘によって強要される王都とは違って、こう言った村ではその束縛が殆どない。

 全ては周りの変化と自らの感覚が全てなのだ。


 その感覚を久々に思い出したミーシャは、両手を組み、ぐっと伸びをする様に頭上に掲げ、そのまま背筋を弓なりに反らす。

 豊かな胸元が黒のローブと銀のブローチを後ろから押し上げ、強調される形になるが、辺りにはコウキくらいしかいない為、特に気にする必用などない。

 件のコウキも、辺りを見渡し、もうこんな時間か……等と気の抜けた表情で小さく呟いている。


「じゃ、そろそろ帰りましょっか」

「そうだな」


 伸びをする為に組み合わせた両手をそのまま後ろへ持っていき、丁度お尻の部分に持っていったままコウキへと向き直り、声を掛ける。

 短く返答を寄越すコウキは、その言葉通りに村の中に通る村道へと足を向け、ミーシャの家がある方へと足を向ける。

 実際の話、コウキとミーシャの家は同じ方向にあり、村の北側にあるもう一つの出入り口の付近。

 その近くに二人の家はある。

 隣同士、と言えるほど近くはないが、ミーシャの家が村の表道に沿う形で存在しているのに対して、そこから少し奥に入り込むような形で存在しているのがコウキの家であり、作りとしてはコウキの家の方が裏庭も存在し少しばかり広い。


 雑草と砂利を踏みしめる音と共に歩き出したコウキの背中を追い、軽い足取りでミーシャもその隣へと並ぶ。

 そして意味あり気ににやにやと笑みを浮かべて、少し上に存在するコウキの顔へ向けて視線を送る。

 無論、その事に気がつかないコウキではなく、横目で見下ろす様にして鋭い瞳がミーシャを射抜いている。


「何だ?」

「べぇっつに~? コウキは随分子供達に優しいのね?」

「子供は嫌いじゃないしな、自然と優しくなるのも仕方ねぇだろ」

「私にはあんなに優しかった事なんてなかったわよねー」

「今更あんな態度が取れるか」


 にべもないコウキの言葉に、それもそっか! と何処か嬉しそうに笑みを浮かべるミーシャ。

 同時に何処か安心した様子もあるミーシャの雰囲気に、コウキは軽く首を傾げるが、足を止める事はせず、雑草と砂利を踏みしめる一定のリズムはそのまま、足取りは真っ直ぐミーシャの家がある方向へと向かっている。

 何処か嬉しそうで安心したような雰囲気のまま軽い足取りでコウキの横を歩くミーシャから視線を外せば、静かに時間が流れる村の様子がコウキの視線に入ってくる。

 辺りは赤い光から徐々に薄暗い光景へと移り変わっている。

 その時間が進むたびに、どんどんと視界から村の人間が居なくなってくる。

 当然、完全にいなくなるわけではなく、仕事終わりに一杯飲みに行く成人を迎えた者達や、村に着いて体を休める為に宿屋へ向かう傭兵。

 宿屋ではなく、真っ先に酒場へと足を向ける傭兵達、少ないとは言え、そう言った者達は辺りが暗くなっても上機嫌で村の中を歩いている。


 コウキとしても、森で食料や薪を拾ってきた後は、酒場で一杯引っ掛けたりするものだが、現在は隣を歩く存在がいるので自粛している。

 チラリと酒場の横を通り過ぎる時に、コウキの視線が動き、酒場へ入っていく傭兵を一人密かに見送るが、すぐさま視線は前へと向けられる。

 酒場を通り過ぎれば、ミーシャの家はすぐ近くにある。


「お酒、飲みたかった?」

「ま、今日ぐらいは大人しく帰っておくさ」

「そっ、私を置いてお酒飲みに行ったらどうしてくれようかと思ってたけど、問題なかったわね」

「そんな命知らずになった覚えはねぇな」


 冗談と軽口、そしてコウキが苦笑を浮かべている間に、既にミーシャの家は目の前。

 そこでコウキの足は、家と家が作る隙間のような細道へと進路を変える。


「ここまでくればすぐそこだし、俺はこのまま家に帰るぞ」

「んー、それは別にいいんだけど、パパとママに会っていかないの?」

「……まぁ、別にいいか」

「じゃ、行きましょ!」


 軽く考え込むようなコウキだったが、別段問題はないと返す言葉と同時に、ミーシャは躊躇なくコウキのゴツゴツとした手を取り、軽い足取りで自身の家へと足を向ける。

 急かすように手を引かれるコウキの足は、当然直ぐにミーシャの家の前へと到達する。


 ミーシャの実家に当たるこの家は、何処にでもある普通の村の家……よりは少しいい家ではある。

 村の表道を見渡せる様に付けられた、玄関の横に設置されている窓に、二階建てで上の階にある部屋らしき場所にも窓が設置されている。

 しかし、特筆するべき所は窓にガラスが使われている所と、二階建てという所で、それ以外は特筆する所がなく、普通の村にある木造一軒家と言っていい。

 簡素な木造の玄関扉を、ミーシャは何の躊躇もなく、キッと引き開ける。


「パパーママー! ただいまー」


 帰還の声を上げるミーシャに対して、家の中から、若い男女と思わしきおかえりの声が聞こえる。

 少し後に、パタパタと軽い足音と共に姿を現したのは、ミーシャと同じ金色の髪に横長の耳を持った女性。

 ミーシャとは違い、肩に掛かる程度で切られてはいるが、その顔立ちはミーシャと通じる所があり、スタイルはスレンダー型だが均整がとれ、バランスのいいスタイルは異性を惹きつけるには十分。

 麻色ではなく、茶色の落ち着いた色の長袖シャツに、丈長の黒のスカートの上から、白のエプロンを装着している。

 人族の感覚で言うならば二十代前半から半ば程の美しい女性が、間違いなくミーシャの母親であり、その事をコウキも承知していた。


 しかし、何も今更ミーシャの母親が若過ぎる事に緊張したわけでも驚いたわけでもなく、視線を向けながら小さく頭を下げるだけ。

 ミーシャの母親も、ただミーシャが帰ってきただけで、それを出迎えようと思ったのだろう。

 何の準備も出来ていなかった所にコウキが居た事により、少しばかりの驚きの後、バツが悪そうにコウキの視線を受け止める。


「ご無沙汰してます。サーシャさん」

「え、えぇ……いらっしゃいコウキくん、久しぶりね……」


 何処か他人行儀で、バツの悪そうな表情の母を見て、ミーシャは首を傾げるが、そのまま鈍感な女性でいるには、ミーシャは聡明すぎた。

 すぐさま表情を硬くすると、コウキの手を引き、自らの父が居るであろうリビングへと足を向ける。

 重く荒い足取りは、板張りの床を必要以上に軋ませるが、今のミーシャにとってそんな事は些細な事なのだろう。

 コウキは手を引かれつつも、片手で頭を抱えており、面倒臭気に眉根を寄せている。

 母親の横を無造作に通り抜けるミーシャに、サーシャが慌てた様にミーシャの前へと回り込む。

 その表情は明らかに焦ったようなもので、その様子を見れば、ミーシャに何か知られたくない事があると言っているも同然だった。

 更に視線が厳しくなるミーシャは、最早サーシャを睨みつけていると言っていい。

 自然、ミーシャから出てくる言葉も声音も、予想以上にぶっきらぼうで硬い声。


「ママ、そこどいて、パパに会って確かめるの」

「ぱ、パパは今忙しいから、ね?」

「そんな事知らないわ……いいから、そこどいて」


 チラチラとコウキに視線を送りつつも、ミーシャを宥めようと必死なサーシャだが、コウキはその様子を見て首を横へ静かに振る。

 ダストに目覚めていないコウキでは、ミーシャの手を振り解く事は出来ないし、今のミーシャは感情が高ぶって、少し制御が甘くなっている。

 その証拠に、握られているコウキの手が軋みを上げている。


 ミーシャの前に立ちふさがり、それでも必死に押し止めようとしているサーシャの様子に、ミーシャは焦れてきたのか、金色の髪からゆらりと紫色の魔力光が靄のように立ち上る。

 魔力の靄と共に、ふわりとミーシャの金色が美しい髪が浮かび上がるが、それは全く持って優しげなものではなく、ただの危険兆候である事をコウキは既に知っている。

 魔法行使に関わるダストを持っているミーシャにとって、魔力とは操るものなのだが、その辺りの制御がまだミーシャは甘いらしく、急激な感情の昂ぶりによって、膨大とさえ言える魔力が溢れ出すのだ。

 つまりこれは、ミーシャの感情が魔力の制御を甘くさせるほどに昂ぶっているという事。


「ミーシャ、落ち着け、それ以上はまずい」

「……わかったわよ、ママ、もう一度言うわ、そこ、どいて」


 剣呑な空色の瞳を向け、態々区切って言葉を紡ぐが、サーシャはミーシャの前から体を退く事をしない……いや、出来ないと言った方が正しい。

 開いた手足はガクガクと震え、やがてそれに耐え切れなくなったのか、廊下にぺたりと座り込んでしまう。

 口元からかちかちと小さく歯を鳴らす音が聞こえる。

 恐怖に支配されたサーシャには目もくれず、ミーシャはそのままコウキの手を引き、座り込むサーシャの横をするりと抜けていく。


 いくら同じエルフで、大きな魔力を持ち耐性があると言っても、ただダストに目覚め、魔法が使えるだけのサーシャと、魔法騎士団で活躍できる才を持ったミーシャでは、あまりに格が違いすぎた。

 研ぎ澄まされた魔力と、圧倒的な魔力差にあてられたのがわかる。

 実力差がありすぎて、体がミーシャの前から動く事をやめてしまったのだろう。


 ローデンハルトの魔法騎士団と言えば、所属するだけで超一流と呼ばれてもおかしくない集団の集まりである事は、既に世界に知られている。

 一人一人の能力が高い事もそうだが、集団としての戦闘も難なくこなし、何よりも単体で魔法も武術も一流以上にこなせるセンスがあって初めて、魔法騎士団の末席に加わる事が出来る。

 遠近両方のエキスパートでなければ、魔法騎士団に所属する事は許されない。

 そんな所にいるミーシャと、普通のエルフであるサーシャには、圧倒的なまでに違いがありすぎたのだ。


 荒い足音を立てながら歩いているミーシャを後ろから見やりつつ、コウキはその魔力の迸りを目で追う。

 体内に渦巻く魔力が循環し、空色の瞳とコウキを握っている手を中心にぐるぐると循環している。

 そこでコウキは、はたと首を傾げる。


(何で魔力の流れなんざ見えてんだ?)


 外へと溢れ出し、持ち主の色が付いた魔力を視覚として捉える事は可能だが、他人の体内に存在する魔力まで見通せる者など聞いた事もない。

 肩を怒らせ、足音荒く歩くミーシャに手を引かれつつ、呑気に首を傾げるコウキと言う絵面は非常にシュールではあるが、コウキ本人としては至って真面目なのだ。


 そうこうしている内に、ミーシャの体がリビングの入口を通り抜ける。

 そしてそこには、木製のテーブルとセットになった椅子に腰掛け、ゆったりと構えている金髪の美男子が存在した。

 切れ長の深い青の瞳に、すっと筋の通った鼻、座ってはいるがそのシルエットを見るに長身であるのは疑いようもない。

 全体的に細身の体のラインは、長身にも拘わらず細すぎるとは思えない絶妙なバランスを保っている。

 その美男子はミーシャを見てにっこりと笑みを浮かべる。


「やぁ、ミーシャ、さっき魔力を感じたけど、穏やかじゃないね?」

「パパ……」

「……そういう事か」


 魔力の迸りとその余波を受けてなお、ミーシャの父親――グランエンは穏やかな笑みを崩さず、ゆっくりとミーシャの後ろで言葉なくただ首を傾げるコウキへと視線を向ける。

 そして納得したように静かに頷き納得するような姿勢を見せている。

 しかし、ミーシャにとってその態度は良くないものだったらしく、呻くように父親を呼びつつも、その瞳の色はますます剣呑な光を帯びていく。


 きしきしと木造の家屋のいたる所が震えているのは、ミーシャの魔力が今正に振動しており、その呼応によって軋みを上げているのだとコウキは理解できる。

 何故ならその様子が見えているからだ。

 コウキが視線を巡らせてみれば、納得したように頷き、穏やかな雰囲気を崩す事がないまでも、コウキに視線を合わせようとしないグランエンの魔力は、ミーシャの魔力の流れに逆らわないようにして魔力を人感させている事がわかる。

 流れに逆らおうと反発するからその差を顕著に感じてしまう、ならば敢えて目の前に存在する激流に身を任せてしまえば、後は流されるだけで済む。

 大きな力の前では下手に逆らわない方がいい。

 その事をグランエンを見たコウキは理解し、一人小さく頷き納得する。


「パパ……コーの事だけど、どういうつもり? なんでパパ達まで村の皆と同じようになってるのよ……」

「……わかってほしいとは言わないし、私達もこれが最善だとは思ってない。でもね、人は流れには逆らえないんだよ」


 実際グランエン自体、コウキに言い渡した世話の放棄を納得してはいないのだろう、眉根を寄せつつ険しい表情を浮かべながら、仕方ないと言い切るグランエンの言葉に嘘はない。

 だが、自らが行った事も正しく理解していることの表れが、コウキと視線を合わせない事、ただそれだけだ。

 勿論、ミーシャがそれで矛を収めるかどうかは別の問題だ。


「でも、逆らわなければならない時だってあるわよ、逆らわなければ守れないものがあるじゃない……親友だった人達の子供でしょ? どうしてそうやって簡単に放り出す事が出来るの?」

「彼ももう成人している。こんな事は言いたくはないが、成人するまで家に置いておくだけでも最大限の情けだと私は思う」

「私は絶対にそれで納得しない」

「ミーシャ、誰もが君のように力を持っているわけではないんだ」


 静かにミーシャを見据えてそう言ったグランエンの言葉は、まさに正鵠を射抜いている。

 これ以上なく正しい言葉、これ以上なく正しい意見だ。

 確かにグランエン達から見てみれば、いくら親友の息子とは言え、所詮は他人の子供。

 自らの子供ですら独り立ちしているのに、他人の息子が独り立ち出来る力がないからと面倒を見るお人好しが何処にいるのか。

 ミーシャの魔力が満ちている木造リビングで、コウキは小さく頷く。


 視線を交わし合うミーシャとグランエンを尻目に、コウキは何度か頷くと、自らの存在を主張する為に、つま先で木造の床を軽く叩いてみせる。

 年季の入った重い音に、ミーシャとグランエンの視線は自然とコウキへと集まる事になる。

 それに対してコウキは特に何も気負っていないいつもの表情、いつもの鋭い瞳でミーシャとグランエンを見返し、静かに口を開く。


「グランエンさんの言う通りだ。誰もがお前の様に誰かを守る力を持ってるわけじゃねぇ」

「でも……」

「それに、お前に会った時も俺は言った。成人したから出て行っただけだって、あれはまぎれもなく本心だ。気にする事じゃねーよ」

「コウキくん……」


 肩を竦めて軽く言い放つコウキのあっけない態度に、自然とミーシャの肩から力が抜けていく。

 ミーシャから力が抜けた事により、部屋中に満ちていたミーシャの魔力が魔素へと同化し、それをきっかけにしてグランエンの体に入っていた力が抜け、背もたれに体を預けるようにして深く沈み込む。

 しかし、その瞳は少しばかり後悔の色が残っている。

 お人好しと言われても仕方がない人物なのだろう、グランエンと言う人物は、実際狭いコミュニティの中で、コウキという存在は災厄しかもたらさない。

 そんな存在を家から出て行けと言った所で何処がおかしいのか……。


 まるで他人事の様に首を傾げるコウキの耳に、微かな足音が聞こえる。

 そしてリビングの入口から、壁に手をついて歩いてきたのであろうサーシャの姿がリビングへと現れる。

 ミーシャの魔力が霧散し、動けるようになったはいいものの、まだ完全には体がはっきり動かないのだろう。

 その姿を見て、今度はミーシャの方がバツが悪そうに顔を背けるが、それはコウキの視線によって阻まれ、視線の移動でミーシャに合図。

 コウキの言いたい事をハッキリと理解したミーシャは、肩を竦めて、わかったわよ……と小さくつぶやき、サーシャへと駆け寄る。

 ごめんね、ママ……と小さく謝った声がコウキの耳に届き、サーシャが密かに笑顔を浮かべた所で、コウキの視線はグランエンへ向けられる。


「コウキくん、私は……」

「別におかしい事なんてないと思います。どちらかと言えば俺がおかしいのか、異端児を置いておいてもいい事ないですからね」

「……」

「それにほら、子供が親から自立するなんて普通の事だと思いますしね」

「そう、か……それも、そうだね……」


 グランエンから視線を外し、後頭部を軽くポリポリと掻きながら少し言い淀むように紡がれたコウキの言葉に、グランエンはやっと柔らかく笑みを浮かべ、コウキの言葉を受け止めた。

 そして、ミーシャがサーシャを支えながら歩く様を見て、ようやく体がまともに動くようになったのか、音もなく立ち上がり、ミーシャと共にサーシャを支え、自分が座っていた隣の席に体を落ち着けさせる。

 サーシャが深い息を吐くと同時に、気が抜けたのか、グランエンとミーシャに向けて柔らかく笑顔を向けている。

 その様子を見届け、コウキはもう一度リビングの中へと視線を巡らせる。


 特に何の変哲もない木造のリビングに、玄関横に設置してあった窓が見える、その窓の丁度下には木製のテーブルが置かれ、テーブルを挟むようにして二脚ずつ椅子が置かれている。

 サーシャが腰掛けているのはその内の一脚で、隣にはグランエンが座ってサーシャの様子を見ている。笑みを浮かべて見ている事からそれほど心配はしていないと察する事が出来る。

 テーブルから更に奥へと視線を走らせると、いくつかの魔法道具が置かれた台所が目に入る。

 コウキ自身、何度もそこで手伝っていたからわかるが、水場はそこにはなく、水に関しての仕事をするならば外に置いてある瓶の水を使うしかない。

 水場が一緒になっている台所等、よほど地位の高い人物ぐらいしか使う機会はない。

 台所の作業台に置かれているのは、木製の食器が数点と、出来上がった料理が盛り付けられた大皿に、中身がまだ入っているであろう木製の丸み帯びた調理器具。

 異界の言葉ではボウルと言うらしいそれは、今ではどこの家庭でも使われているものの一つだ。

 台所付近に存在している食器棚は、数点あるがそのどれもが木製の棚と間違われてもおかしくないものばかりで、スオウにあるらしい扉付きの食器棚等、高級品すぎて買えないのが普通である。

 視線をリビングの入口に向けて、そこからわずかに見える階段を見やる。

 奥に見える階段を上り、廊下を歩くと三つの扉が並んでおり、一番奥の扉――外から窓が見えていた部屋――がミーシャの部屋であったと記憶にある。

 真ん中の扉がコウキが暮らしていた部屋で、その隣の階段から程近い部屋が、グランエンとサーシャの寝室だった。

 ミーシャの部屋は当然木製の家具で揃えられ――。


「コウキくん?」

「あ? はい」


 ミーシャの家の間取りを思い出しつつ、魔力の残滓が残っていないか確かめていた所に、突然女性からの声が掛かる。

 当然、コウキをコウキくんと柔らかく呼ぶ女性など、ミーシャの母親であり、昔コウキの世話をしてくれていたサーシャしかありえない。

 そちらへと視線を向けてみれば、少し陰りがあるが、それでも昔と同じ笑顔で笑いかけてくるサーシャが、コウキを真っ直ぐに見ていた。


「よかったら、ご飯食べて行って?」

「気持ちは嬉しいですけど……」

「いいじゃないか、ここで返したらまた私達がミーシャに怒られてしまうよ」

「パパッ!」


 断りの言葉を言い切る前に、グランエンからの冗談交じりの言葉で、それは封殺される。

 事が落ち着いてからは自らの行いを少しは反省したらしく、先程の自分を思い出した事と相まってミーシャはグランエンに強い口調でそれ以上は言わせないと言う様に短い呼び掛けで静止を促す。

 無論、ミーシャの魔力に動じた様子を見せなかったグランエンが、今更そんな娘に怯む事はなく、軽く笑い飛ばして娘をからかっている。

 ここで強く断るのは簡単だ。

 しかし、それによる後々の事を考えると、ここがいい落とし所なのかもしれない。

 結局そう結論づけたコウキが肩を竦めた事により、コウキがミーシャ達と晩御飯を共にすると言う流れになるのは当然の事だった。


「あ、そだ。この際だからついでに質問させてもらえるか」

「何よ?」

「何かな?」

「何かしら?」


 ふと思い出したようなコウキの質問を前提とした言葉に、三人は三様の答えを見せる。

 息が合っていすぎて多少怖い部分があるが、コウキとしては何年も見てきた経験があるので、今更驚く事ではない。

 くるりと鋭い瞳を三人へと向け、その質問を口にするのに何の戸惑いもなかったが、聞かされた三人の様子はそう簡単に受け流せない事実を聞いたように、動きを止めてしまう程の物だった。


「人の中にある魔力の流れが見えたんだが、これって普通見えるもんなのか?」

「え?」

「は?」

「えぇっと……」


 放り投げられた質問に対して、三人は咄嗟に答えを返せる程の余裕は消え去っており、その中で普通にしている事が出来たのは、質問を投げかけた当人のみ。

 この後、静かな夜の村に、ミーシャ達の驚きを多分に含んだ叫び声が木霊するのは、言うまでもなかった――。

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