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プロローグ

また連載増やして何するつもりだ私……。

いえ、いい機会だと思ったものだからつい……。

 近くに大きな都市が存在するが、それとは関係なくその周辺に存在している村の一つ、その西側に存在する森の入口と言ってもいい川原に胡座をかいて座り込み、ただじっと流れる水の動きを目で追う男の姿。

 少年と言うには少し大人っぽさを感じ、青年と言うには少し子供っぽい。

 そんな年頃の男だ。


 安っぽい生地で作られた麻色の長袖長丈の上下に覆われた肉体は、細身であるがその全貌はハッキリとしない。

 少なくとも膝の上に置かれ、ぶらぶらと揺れている掌はゴツゴツとしており、何かを長時間握って出来たであろうタコがいくつも見受けられる。

 さらりと流れる……とまではいかないが艶のある黒髪、じっと川の流れを追う黒の瞳は鋭く、目つきが悪いと言われるであろう。

 子供らしさが抜け、シャープになりつつある輪郭に、引き締まった口元、高めでしっかりと形の整った鼻、その全てが彼を男性だと断言できるパーツであり、整った顔立ちだと言われてもおかしくないパーツでもある。

 絶世のとまではいかないまでも、人を寄せ付けそうにない雰囲気と相まって鋭い魅力が彼にはあった。


「お、いたぜ!」

「こんな所にいたのか、能なし」

「やる事ないから川原とか、暇人かよ」

「こっちは忙しくて仕方ないってのによ」


 鋭い魅力を感じる彼が川原に座り込んでいる姿を見て、ドカドカと彼に近づいてくる複数の乱暴な足音は、彼の細めで形の整った眉を少し動かすには十分だった。

 乱暴な足取りに、個人を貶す感情を込めた言葉たち、川原で座り込んでいる彼にとって、歓迎すべき客でない事は明らかである。

 そんな歓迎できない客達へ向けて、という意味で吐いた彼のため息は、流れる川を包む澄んだ空気に溶けて消えた。

 空は青く、流れる水は美しく、澄んだ空気は文句のつけようがない。

 そんな状況で彼の心境は消して明るくない。


(王なら、俺の疑問に答えてくれるのか?)


 足音が近づき、彼の近くまで来ても、彼は立ち上がる事すらせず、ただ淡々と己の心の内でどうにもならない疑問を浮かべる。

 子供の頃から聞かされる王様の話、王様は凄い、王様は何でも知っている。

 ある程度年を経た今ではそんな事はないと分かってはいるが、彼は疑問を抱かずにはいられない。


 王に会えば、そう思うも現実的に考えて彼にはまず無理な事が明白だった。

 それが分からない程彼は子供ではないし、能なしと呼ばれる様になった三年前から到底無理だという現実を突きつけられている。


 この世界――クーヴェントに存在する理性と知性ある種族や生き物は『ダスト』と言う能力が一定年齢に達した時点で目覚める。

 それに例外はない。

 彼自身も文献や様々な資料を読みあさり、時には村に来る傭兵や旅人にも聞いて回ったがその回答は全て同じ。

 『ダスト』に目覚めない事など無いと言うものだった。

 当たり前だ、統計や研究等を総合しても『人族は十六歳でダストに目覚める』と結果が出ている。

 しかし、その結果に反して、彼は『ダスト』目覚める事はなく、既に三年が経過している。

 その結果、彼は自らの道も決められず、ダストの恩恵も受けられない能なしの人族としての烙印を村単位で押された。


「おい! 聞いてんのかよ! 能なし!」


 飛んでくる言葉の針が彼の耳に刺さると同時に、彼の後ろで石と石がぶつかる音がする――。


「あぶねぇな、おい」


 言葉と音が聞こえたと同時に、彼は自らの体を石がひしめき合う川原の上に投げ出し、そのまま回転。

 じゃりじゃりと音を上げながら石を蹴飛ばし、体を安定させつつ自らの背後を振り返る。

 その瞬間――パァン! と何かが破裂した大きな音と共に、現在彼の背後に存在する事になった川の水面が大きく弾け飛ぶ。

 ()()()()げただけにしては随分物騒な現象であり、あれが彼の頭にでも当たっていれば、()()()()である彼の命はないだろう。

 川原の地面に手を付いたまま身を低く保ち、体を投げ出さずにはいられなかった原因達に鋭い瞳を向ける。


「当たったら死ぬだろ」

「別に構わねぇじゃん? なぁ?」

「あぁ」

「アホか、俺が死ぬのが嫌だって話だっつーの」


 彼の視線に怯む事なく、原因の少年達はヘラヘラと酷薄な笑みを浮かべる。


 『ダスト』に目覚める事による人族への恩恵は絶大だ。

 その能力の内容がどれだけつまらなく、小さな物でも変わりなく――ダストに目覚めた人族の身体能力は大きく向上する。

 これが世界の常識であり、当たり前の事だ。

 その結果が先ほど少年達が投げた石。


 投げた少年は真ん中でただでさえ大きな鼻を膨らませながら、ヘラヘラと笑みを浮かべている。

 短く刈り上げられた茶色の髪は如何にも村出身ですと語っているような髪型で、服装も能なしと呼ばれた少年と同じような麻色の服装。

 両者にさしたる違いはなく、石を投げた少年が今年十六を迎えた事と、能なしと呼ばれた少年は今年十九になったと言う事だけで、その他に大きな違いはない。

 しかし、その違いが埋める事の出来ない大きな違いだった。

 普通ならばありえない違い――ダストに目覚めなかった者と目覚めた者との違いがそこにはあった。

 ダストに目覚めた者にとって、目覚めていない者との差など一目瞭然であり、怯む所かその辺りにある切り株や石ころの方が転倒の原因になる分まだ怖い物なのだ。


「んで? その能なしを態々探してくれるとか……どーいう風の吹き回しだ? あ?」


 鋭く油断のない黒の瞳を少年達へと向け、威嚇するように低い声を発する。

 しかし、少年達はそれに気を止める事はなく、リーダー格と思われる鼻の大きな少年の垂れた瞳が、ますます垂れ下がり、好色な色の笑みへと変貌する。

 興奮でさらに鼻が大きくなっているが、それは小さな事であり、態々能なしと呼ばれる彼に声をかけ、この様な笑みを浮かべる人物の目的など、既に読めている。


「アンタに御執心の幼馴染だっけ、その子と渡りつけてくんない?」


 どこにでもこういう輩はいるし、能なしと呼ばれた彼の前に今までも似たような事を彼に言ってくる人物が多く現れた。

 しかし、こうして同じような話を持ってくる人物が未だに現れ続けているという事は、能なしと呼ばれた彼がその全てを跳ね除けているから……ではない。

 話に出てきた彼の幼馴染が優秀且つ強い人物だからだ。

 幼馴染がいた時はまだ良かった、彼女自身がそれを跳ね返すだけの強さを持っていたからだ。

 彼女がいなくなってからの今まで、そこからが彼にとっての地獄だった。


 彼女の姿を一度でも目にし、そして彼がダストに目覚めていない能なしだという情報を聞き、彼にコンタクトを取る。

 しかし、彼はダストに目覚めなかった理不尽を味わって以降、自分の身に降りかかる理不尽を何一つ許さなくなり、それが彼の反抗の始まりだった。

 己に降りかかった理不尽を認めず、最後まで反抗の意思を消す事はなく、心はいつまでも折れないまま。

 しかし、それは心だけの問題であり、いつも終わってみればボロボロなのは能なしと呼ばれる彼だけだ。

 血達磨になった事もあるし、酷い火傷を負った事もある、骨を折られた回数などこの三年間で数えるのも面倒な位だ。

 理不尽に抗う力を養う為に行っている訓練時についた傷よりも、圧倒的に多く大きな傷跡が、この三年間で彼の肉体に刻まれていた。

 理不尽に抗い続け未だ一度も折れた事のない心を持ち、そのまま三年経っても未だこういう輩が出てくるという事は、彼の幼馴染はそれほどまでに魅力的だと言う事だろう。


 品格など犬にでも食わせたような笑みを浮かべつつ、能なしの彼に向かって投げかけた言葉に対し、彼はゆっくりと立ち上がり、馬鹿にした様に肩を竦めてみせる。

 始末に負えないと全身で語っている彼の表情は、呆れの色を浮かべた薄い笑みが彩っている。

 鋭い印象を持つ彼が浮かべるその笑みは、見ている者にとって今馬鹿にされているであろう事が如実に伝わる笑みだった。


「おいおい? おいおいおい? 頼み事してるのはそっちだろ? それにしちゃあえらく上から目線じゃねーか?」


 馬鹿にしたような笑みに、馬鹿にしたような言葉に、馬鹿にしたような声音。

 その声を聞いた少年達は例外なくカチンと来たのか、表情を固くし、目の前にいる一人の男を睨み据える。

 リーダー格の鼻が大きな茶髪刈り上げの少年も、緑の髪を伸ばし目付きが少し悪い長身の少年も、逆立たせた赤い短髪が特徴的な少年も、人を小馬鹿にする表情が得意な眼鏡で低身長な少年も……。

 全員が例外なく目の前にいる男に釘付けであり、その瞳が宿すのは例外なく怒りだ。


「アンタ如きに卑屈になる必要はねぇよ、口ばっか達者の能なしに頭を下げる必要が?」

「あるに決まってんだろ。人に頼み事する時は低姿勢から、基本だろ?」


 威圧を強めてくるリーダー格の少年に対して、何の気負いもなく言葉を発する能なしの男。

 腕を組み、とんとんと二の腕を左手の人差し指で叩きながら、頼み事をする時の基本姿勢を説く男に対して、我慢が出来なくなって来たリーダー格の少年を抑え、前に出たのは眼鏡で低身長な少年。

 右手の人差し指で眼鏡を軽く押し上げ、高圧的な態度はそのままに、薄い口を開く。


「僕はアナタの幼馴染とやらに興味はないけど、これはお願いじゃなく命令だって言ったら、どうします?」

「失せろ」


 問いかけのようで問いかけではない眼鏡をかけた少年の言葉に、能なしと呼ばれた男は、間髪入れずに言葉を返すと同時に表情を消した。

 睨みつけるでもなくただじっと無表情で、怯んだ様子も見せず、目の前に存在する問題児達を見据える能なしの男から短い言葉が聞こえた瞬間「おらっ!」と短い声と共に男へと殴りかかるリーダー格の少年。

 それに続くように他の少年達も殺到し、能なしの男には反応すら出来る事はなく、ただただ殴り飛ばされるだけ。

 能なしの男が反応した時には、既にそこには固めた拳があり、意識としては見えるその拳に反応出来ない自らの体に舌打ちを打つのももはやいつもの事だ。

 殴り飛ばされ、川原の上を受身を取りつつも盛大に転がり、無数の切り傷を追うが、奇跡的に大きな怪我はない。

 今度は左上から頭部を打ち下ろすような拳、意識的に追えるレベルの大振りの拳にも拘わらず、能なしと呼ばれた男の体にとっては神速と変わらない拳。

 成すすべもなく打ち据えられ、川原の地面へと頭部をめり込まされる。

 幸いだったのは石があまりない場所だった事だ。もし吹き飛ばされていなければ石に顔面を潰されていた可能性が大きい。


 短い間に無数の擦り傷を全身に負い、側頭部からは地面にめり込まされた時に切ったのか、赤い色の血が滴り落ちている。

 言葉なく地面に沈み、頭部からの出血を認識し、その生ぬるくベッタリとした感触に眉根を寄せ舌打ちを打ちながらも、既に男の体は言う事を聞かない。

 ダストに目覚める事のなかった彼の体の耐久力は、この世界では哀れみを誘うほどに脆弱で、無力だった。

 そんな彼が世界の王に会おうなど、笑い話にもならない夢想の世界の事。

 脆弱で無力な能なしの男が一人、村の外に出た所で、三日も持たずに野獣に食われるかモンスターや魔獣に惨たらしく殺されるか、ただただ旅先で野たれ死ぬか、その様な未来しか待ち受けてはいない。

 至極当然で、簡単で、誰にでもわかる方程式の様な物だ。

 彼自身にもそんな事は分かっていたはずなのだが、それでも舌打ちを止める事が出来ない。一つの理不尽から数多の理不尽を認めざるを得ない現実すら認める事が出来ず、ただただ舌打ちを繰り返す。


「で? 気は変わったかい? 親なし能なしのコウキさん?」


 砂と血で艶をなくした黒髪を掴み上げ、無理やり顔を上げさせられた能なしの彼――コウキと呼ばれた彼は、そんな状態にも拘わらず、へらっと薄い笑みを浮かべてみせる。

 馬鹿にしたような笑みであっても、鋭い瞳は反抗の色を隠しもせず、血まみれ砂まみれのまま、髪を掴み上げる少年を睨み据える。

 今目に入るのはそれだけだ。

 年下にここまでされようが、土を舐めようが、血を流そうが関係ない、ただただ不条理を知っているコウキと言う一人の男はそれに反抗する事しか、今は目に入らない。


「カヒュー……カヒュー……失、せろ」

「だったらアンタが今俺達の目の前で失せな!」


 瞳に浮かぶ消える事のない反抗の光と、変わらない意思を宿した言葉に、リーダー格の少年は掴み上げた頭を更に持ち上げる。

 眼鏡で低身長の少年は、やれやれと肩を竦め、緑髪の長髪高身長の男は、コウキの様子をニマニマと笑みを浮かべて見つめ続ける。

 赤い短髪の少年は服に少し付いた砂や能なしの男の血を、汚い物だと言うように払いのけ、ぬぐい去る。

 この場に無力で脆弱な普通の人間であるコウキを助ける者は――。


「ちょっとアンタ達! 何やってんのよ!」


 今正に川原の地面に赤い水溜りを作る直前だったコウキと、そうしようとしていた少年達に声量の大きな声が掛かる。

 口調や声の高さから女性である事は間違いなく、凛とした張りのある魅力的な声が張り上げられると同時に、川原の近くにいくつも存在している茂みから、その声の持ち主が現れる。


 長く豊かで陽光を反射して輝く金色の髪、白い肌は透き通るような白色ながらも健康的な色を感じさせる。

 大きく愛嬌を感じさせる空色の瞳は、現在怒りによって釣り上がっているが、それも彼女の美しさを損なわせるには至らない。

 鼻や唇は少し小さめで纏まり、女性らしく少し丸み帯びた輪郭、そしてなにより特徴的な横長の耳が、彼女がエルフ族である事を証明している。

 コウキや少年達とは違い、しっかりとした生地で出来た黒色のローブに身を包む彼女の体は、エルフにしては珍しくローブの上からでもハッキリとわかる発育の良さが見て取れる。

 大きい胸やハリを保ちつつもちょうどいいサイズで収まったお尻は自慢だと、彼女自身が公言している部分である。


 鋭い黒の瞳が、大きく声を張り上げながらこちらへ走り寄ってくるエルフの幼馴染の姿を捉える。

 彼女の剣幕に驚いたのか、それともまずい場面を見られたからなのか、それはコウキには理解出来なかったが、掴まれていた自らの髪が離される感覚だけは理解出来た。

 そして、固定されていた力を失った事によって、自らの頭部がまた地面へと吸い込まれる感覚を自覚。

 どさりと重い音を立て、体が地面に吸い込まれる直前、右手にしっかりと付けられた金属製のブレスレットが川原の石と衝突する甲高い音を他人事の様に聞き取り、コウキは意識を手放した――。

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