第五話(20)
「なん、だそれ……言ってる意味が、よく……俺ではない、俺であるはずがない、それじゃ俺は誰かの代役? もともと選ばれたのは――必要とされていたのは、俺じゃなくて、他の」
どうかな。先に選ばれたのがどちらのきみだったのかなんて僕には区別できないよ。
きみたちは、時空に隔てられていただけの、本質的に同じ魂を持つ存在なのだから。
いわば、もう一人のきみ。別世界における、もう一つの可能性――そうでもなければ、時空の狭間で衝突するなんてことはありえなかった。
異なる経過を辿ったきみたちの運命は、かつてこの場所で交わり重なった。
その結果、きみたちの境界は、とても曖昧になっている。
きみたちの衝突で異界を繋ぐ門は崩壊したんだ。巻き込まれて散った後継者たちの魂、仕えるべき次なる世界の主を神獣は探し出し、神の座すべき処へと導かなければならない。
でも、ノア。きみは選ばれるべきじゃない。きみでもいいけど、きみでなくちゃいけない理由はない。
「……急に事情をペラペラと話して、どういうつもりだ? 俺にどうしろって?」
だって仕方ないだろう!? きみが先代の記憶にあそこまで引きずられるなんて思わなかったんだ。
どうもしなくていいよ。僕はなにも強制しないし、できない。
だけど、きみ自身が望むなら、僕には拒めない。
僕は導くものにすぎない。選ぶものでも、与えるものでも、奪うものでもない。
きみは既に選ばれていた。
きみは既に持っていた。
翠の一族の根源は、原初の神に通じる。
何人もきみに強制はできない。
きみには抗う術がある。
ただし、その代償は――。
「なんだっていい。つまり俺には本来アレをどうにかする力がある。お前は封印を破れる。そうだな?」
ねえノア、ここまで聞いて、きみという存在がどれほどの奇跡か、どんな犠牲の上に与えられた自由か、想像できないわけじゃないだろう。
たしかに、きっかけはきみの時渡りにある。でもそれは、きみ一人が背負う罪ではない。きみが選ばれていい理由になるはずがない。そうでもしなければ、きみは生き延びられなかった。そもそも、この世界の運命は、とっくの昔から狂って――。
「世界とか神とかどうだっていい。今の俺には力がいる。それがどんなものでも。――断ち切れ、フィオン」
言うと思ったよ……だから嫌だったんだ。
《後悔しても知らないからね》
イヤイヤ絞り出したような声が聞こえると同時に、背中に灼けるような熱を感じた。熱い。熱い。熱い。なんだこれ、背中だけじゃない。全身が、燃え盛る炎に炙られているようだ。
錯覚だ。わかってる。だけど。
異常な熱をもって火照る身体を抑えて、固く目を瞑る。受け入れろ、これは俺を一度、焼いた熱だ。
そして。
ようやくその熱が落ち着いて、目を開けたときには。
「戻って、きた……?」
視界も、感覚も、【飆牙】――いや、フィオンに呼ばれる直前の状態を取り戻していた。




