第五話(9)
フィールドの中央には、すでにカイルが待ち構えていた。意識を集中するためか、首元で結えた金糸の髪を背に流し、目を閉じて天を仰いでいる様子は、祈りを捧げているようにも見える。
きっちりと着こなした制服の腰元に白革の剣帯を下げ、大地に突き立てた剣を支えに凛と背筋を伸ばす立ち姿は、どこぞの騎士様の肖像画かなにかのように洗練されていた。
見た目だけでいうなら、ローブを羽織っている分だけまだ俺の方が魔術師っぽいだろうな。ただし、宮仕えには程遠い底辺の。
同じ制服でもこうまで差が出るか。
やはり生まれ持った品位というやつだろうか。
「……来たね」
俺が正面に立つと、カイルは目を開ける。
「残念そうだな。俺が逃げ出すとでも?」
「まさか。きみにそんな分別は期待していない――その蛮勇だけは本物と認めざるをえないが」
品行方正な王子様の口から飛び出したあからさまな挑発に、どこからともなく歓声が上がる。お祭り騒ぎに便乗して集まった学生たちだ。やつら教官にバレないように賭けまでしてやがる。
――おーい負けんなよ大穴と、微かにウィルの声が聞こえてきた。
あんの馬鹿、まさか胴元やってないだろうな。
「やれやれ……すこしばかり外野がうるさいね」
「同感だが、こんな馬鹿騒ぎ、よく教官が許したな」
「他ならぬ僕の頼みだからね。エルグリット教官は心よく貸してくれたよ。状況が状況でもあるし、好きにやって構わないそうだ」
誰だ? と首をかしげた数秒後に、シュナ以外にFDを使った実技科目を受け持っている魔術のクソジジイがそんな名前をしていたことを思い出す。
うげえ。そういえばそうだ、こいつクソジジイの弟子だった。レナもだけど。
俺のことを視界に入れる価値もないとばかりに散々蔑んでいた奴のことだ、客観的に見てまったく勝ち目がない無謀な勝負なことも、面白がった学生が玩具にしていることも、わかった上で黙認したんだろうな。
「あんなのの弟子よくやってられるな……」
「きみこそ、シュナ=フェブリテに師事しているんだろう。なにも聞いていないのか?」
残念ながら俺も師匠のクソっぷりに関しては他人のことを言えない立場であった。あの化け猫、今どこでなにしてんのか。
「まあいい、彼らは証人だ。いまさら証明するまでもない自明の事実だとは思うけれど――“生意気な後輩に“、身の程ってやつを教えてあげるよ」
それをご希望のようだからね、とカイルが口の端を吊り上げて挑発的に笑う。へえ、なかなかいい面もできんじゃねーの。




