第五話(7)
「……――――っはぁ、ハァ、ハァ、は……?」
荒い息を整えながら、ぼうぜんとつぶやく。
身体中がじっとりと汗ばんでいて、肌に張り付いた衣服が気持ち悪い。
どこだ、ここ。いつだ、いま。
「おれ、なに、して」
鈍く痛む重い頭を片手で抑えながら、上体を起こす。
寝ていた?
どこで――いや、部屋。部屋だ。寮の。俺の。
ここは魔術学園。
大陸の東南に浮かぶ離島。
一面の青い海に囲まれた、緑豊かな島。
無数の色にあふれた、ここが俺の世界。
「ああ…………そう、だよな」
他になにがあるってんだ。
真白いシーツを握りしめて、シミひとつない天井を仰ぎ、深々と息を吐く。
ここが、俺の生きてきた場所。
疑うまでもない。
《なにをしてるの》
あきれたような、小馬鹿にしたような、どこか尊大な少年の声が、頭の内側に響く。
ひょうが?
――【飆牙】。
ああそうだ、俺に預けられた【風】の剣。
部屋の片隅にたたずむ美しい刀剣に視線を流し、頭の片隅に引っかかった記憶をたぐり寄せるようにして、すこしずつ今を理解していく。
俺はノア=セルケトール。
魔術学園の先代学長クリス=セルケトールの養子にして、魔術の使えない落第生。
破天荒な女剣士シュナ=フェブリテに師事した結果、六回生に上がると同時に首席に収まってしまった異端児。
そして、神剣と称えられる至高の刀剣、【飆牙】の主だ。
ホントウニ?
「っ……」
再び襲った鋭い頭痛に、こめかみを抑えてうめく。
そこに【飆牙】が、キンキンと追い討ちをかけてくる。
《ちょっと、この僕を無視するとか何様のつもり?》
なんか、お前、うるさくなったなあ。
柄を握るどころか、触れてさえいないのに。離れた場所からよく喋る。
最初のころの威厳はどこへ消えたんだ。
《不愉快なこと考えてるね……?》
いーえ、めっそうもございません。
ご機嫌斜めの相棒が風を纏いはじめたところで、ベッドから降りて両手を掲げ、早々に降参の合図を送る。備品を切り裂かれちゃたまらない。こんなことで騒ぎを起こしたら、またレナに怒られ――。
ないか。
あいつは俺を避けてるんだった。
適当に着替えた制服の襟を整えて、よれよれのローブを肩にひっかける。黒は良い色だ。薄汚れていてもわからない。問答無用で浄化魔術をかけてくる幼馴染も今はいない。
《ノア》
関係ない。
俺は俺の好きにするだけだ。
いちいち細かなことに目くじら立てられずにすんで、せいせいしている。
《聞いてるの、ノア》
ピリ、と背中に嫌な鋭さを纏った風を感じて、あわてて【飆牙】を掴む。
なんだよ。
俺はいま支度に忙し――。
《死ぬぞ》




