表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Skew World Overture  作者: 本宮愁
I.離島の魔術学園
8/155

第一話(7)

 焦ったレナは、俺のことなどすっかり忘れているようだった。どうしよう、どうしよう。とくりかえしつぶやいて、驚くべき速さで構築されていく高等魔術の陣に、あわてたのは俺の方だ。


「待てって! 転移なんて高等魔術、学内の禁止事項だろ。見つかったら罰則くらうぞ」

「でも、このままじゃ……!」


 どちらにしろ罰則を受けるって? だからといって転移はまずい。「遅刻回避のために使いました」なんて言い逃れも利かない状況、優等生に耐えられんのかね。


「お前、地頭いいくせにすぐパニクる癖、直せよな」


 授業なんざ全部サボるつもりだったけど、ここでレナに貸しを作っておくのも悪くない。


 ――なにより、事情が変わった。


「おとなしくしてろよ」

「へ? ちょっと、ノア!?」


 油断した隙にレナを抱えあげて、FDへの最短経路を思い描く。まあ無理じゃないな。


「ッ他にやり方あるでしょ、ばか! 変態! 降ろして!」


 肩の上でレナが暴れるけど、とりあえず無視。『姫』らしく姫抱きしろってか? 見つからなきゃいいんだろ、見つからなきゃ。


 横目に確認した砂は、たしかに残り少なかった。


 ――まあ、やってみるか。


 角を曲がり、いりくんだ学舎の裏道を、できる限り人目につかないように走り抜けていく。


 俺にとって学園は、物心ついて以来ずっと過ごしてきた場所だ。敷地内の見取り図はとっくに頭ン中。目瞑ってたって余裕で抜けられる。


「レナ。風の移動系――なんか補助みたいなの、使えるか?」

「できる、けど! それだって、禁止項目」

「ばーか、空間つなぐよりかよっぽどマシだっての。下手に高度なことしてみろよ? あっというまに個人特定されちまう」

「そういう問題!?」

「やっぱいーや。このままで、たぶんいける」


 地面を蹴りつけ、ほとんど滑空に近いような勢いで、走る、走る、走る。


 急速に流れていく景色に、レナがちいさく悲鳴をあげた。舌噛んだ、とか、酔う、とか、細々とした苦情が山ほど寄せられるけど、黙殺。……はは、後で殺されんのは俺かも。


 ま、いいや。それどころじゃなく気が乗ってるから。


「き、もちわる……。っていうか、なんで……出ないんじゃ」

「シュナ=フェブリテが来るんだろ」


 世界的にも数少ない剣魔術のエキスパート。昔、一度だけ、彼女の戦いを見た。あれはホンモノだ。魔術に頼らず、その剣戟だけで相手を屠ることができる者。


 ――圧倒された。シュナ=フェブリテは、魔術がすべてだと思っていた俺の常識をぶち壊した。魔術が使えない俺には、決して手が届かない存在ではあるけど。……それでも、あの剣が学べるとしたら。


 ああ。――ぞくぞくする。


 興奮が顔に出ていたのかもしれない。レナが息をのむ音が、ハッキリと耳に届いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ