第四話(21)
……そうだ、そうだった。
平和な世の中で忘れられがちだけど、もともと魔術ってのは、持たざる者からしたら理不尽な力だった。ただ便利なだけのものじゃない。
高位の魔導師が扱うそれは、雑兵が束になっても敵わない圧倒的な脅威だ。
それを、まざまざと見せつけられた。
手元に【飆牙】があったとして、俺は一撃であの獣をしとめられるか? それ以前に……まともに接近戦をしかけたから勝てるかどうかすら怪しいんじゃないか。
「ノアくん?」
ぐっと拳を握り込んだ俺の表情を、コウがうかがい見てくる。そういえば彼女は、参戦することもなく、落ち着き払った様子で事の成り行きを見守っていた。
「なんだったんだ、いまの」
「デモンストレーション。教官が作った幻。本物じゃない」
言われてみればたしかに、現れ方も消え方も不自然な点だらけだった。なにより本物だったら瘴気を纏っているはずだし、来賓も教官も黙って見ているはずがない。
落ち着いて周りを見渡せば、会場内の装飾が解けて防護膜に変わっている。外部からの客は、大半がその裏の観覧席に避難していた。
ぜんぶ予定通りってわけか。
彼らが目に焼き付けたのは、魔術学園を代表する七回生首席の実力。先代学長の時代から引き継がれた、不可侵の聖域でありつづける学園の誇り。……六回生首席には決して務まらない役割だ。
「……あれが、カイル様」
コウはポツリと呟いて、それきり口をつぐんだ。
この目で見れば認めざるをえない。ヴェルッカ=イーリアスは、まぎれもなく魔術学園総代表の名を背負うにふさわしい、天才級の魔術師だった。
そのうえ剣術もシュナが認める腕だって? どおりで勝ち目はないと断言されるわけだ。レナが必死に止めようとする理由も、認めたくないが理解はした。
「さて、もうすぐ今夜はお開きかな。例年どおり審査結果は後日発表だろうし」
魔力の残滓を振り払うように軽く手を振り、何事もなかったかのような顔でカイルが戻ってくる。
会場中の注目を集めることも、学園の代表として高度な魔術を披露することも、カイルにとっては誇るまでもない当たり前のこと。
そしてその後を継ぐ後輩として、レナ以上にふさわしい相手はいない。レナほどではないにしろ、他にも適材はいくらでもいるが、少なくとも俺には絶対に務まらない。
よりにもよって、苦々しくと思うだろう。それが自然だ。
「タイミングが悪かったね。始まる前に、なにか言いかけていただろう?」
さぞいけすかない相手であろう俺に対してまで、柔和な笑みを浮かべて話しかけてくる奴の、腹の底はどんな色をしているんだか。
非の打ち所のない優等生。
根っからの善人。
学園の王子様。
それらの評価は、すべて真実なのかもしれない。
シュナが言うとおり、カイルに勝る点なんて、俺には一つもないのかもしれない。
だとしても、俺のすることは変わらない。
「ああ、あんたに決闘を申し込む」




