第四話(17)
一拍おいて、麗しの幼馴染みは絶叫した。
「止めるに決まってるでしょ!?」
その声に周囲の歓談が一瞬止まり、突然奇行に走った美少女に何があったのかと小声で噂する。
レナの頬にサッと赤みがさして、うつむいた彼女の肩が(おそらく怒りに)震えた。
いや、睨まれたって今のは俺のせいじゃない。たぶん。きっと。
「どーぞ、お好きに。でも、お前に俺が止められた試しあったっけ?」
「なんであんたってそんなに馬鹿なの……」
どこで育て方まちがえたんだろう、などと呟きながら、レナは立ちくらみしたかのように額を抑えてみせるが、いまさら深窓の令嬢ぶってみたところで後の祭りである。そして育てられた覚えはない。
まあ、俺と一緒にいることに気づいた時点で、うちの学年のやつらはいつものやつかと呆れた目線を投げてきたし、コネクション繋ぎに忙しい七回生と招待客の興味はすぐに移ったようだけど。
いまだに腹抱えて笑ってんのはシュナくらいなものだ。いい性格してやがる。
「ようするにコウは白、イーリアスかリステナーのどっちかあるいは両方が黒、ついでにヴィストリア王家も怪しさ満点ってことだろ。どっから何が出てくるか知らねーが、カイルをつついてみればハッキリする」
ついでに言うと、俺はこの問題に興味がない。
中途半端な情報与えられたせいで気になっちゃいるけど、積極的に関わる動機はまったくない。
コウには悪いが、そこまでの正義感は持ち合わせてないんだよな。
とはいえ目の前で事件が起こればさすがに――いや、試験のときだって、レナが相手じゃなかったら俺は首を突っ込んでいただろうか。
たぶん、ない。
仮にウィルが相手だったとしても、俺は動かない。そういう奴だって、自分でわかっている。
シュナ=フェブリテがいたからというだけではなく、あの場に彼女がいなかったとしても。
全部計算ずくだったとしたら、あの優等生かなり腹黒い……って、いまさらか。
「まあ、ここらで挫折を知っておくのも悪くない」
「シュナ教官……」
「俺が負ける前提かよ……」
ようやく笑いを収めたかと思えば勝手なことを言うシュナに対し、俺とレナはほぼ同時に非難の声を上げた。
「つか、止めないんだな」
「どうせ聞かんだろう。じつは面倒な筋から呼び出しを受けていてな。私はしばらく留守にする」
「はあ? ……っなんだこれ」
文句を言おうと開けた口に、シュナは手に持っていたグラスを押し付け、きついアルコールの匂いに顔をしかめた俺を鼻で笑う。
「餓鬼め」
「その餓鬼にいきなり酒渡すなよ」
「十四になれば竜の里では成人し、ヴィストリアでは立太子される。どうせ生まれた場所も日付も知らんのだろう。なら別に今日でも構わんさ。いらなければイーリアスにでもかけてこい」
「あんたな……」
そりゃたしかに正確な年齢なんか知らねーし、半ば一緒に育ったレナは今年で十四だけど。
適当にもほどがあるだろう。
「好きにしろ。私も、お前の養父も、みなそうしてきた」
「シュナ?」
「お前にできるとは思わんが、あまり追い詰めるなよ」
そう言い残して、背中越しに雑に右手を振り、年齢不詳の女傑は会場を去っていった。
もしかして、一人前と認めてやるから後は任せた、ってことなんだろうか。
初めからそのつもりで俺たちに情報を与えて、選ばせたなんてことは――ないよな、さすがに。
適当な師匠に限って。




