第四話(10)
「ああ、はい……すみません、シュナ教官」
覇気のない声で応じた俺に、シュナ=フェブリテは顔をゆがめた。
「お前がこうも素直だと気味が悪いな」
「おい」
冗談だ、と笑い飛ばす破天荒な師匠は、今日ばかりはトレードマークの外套を脱ぎ捨て、深紅の礼服に身を包んでいた。
彼女がドレスを着ていたらそれはそれで驚きだが、男性用のベーシックなツーピースを完璧に着こなす姿は、男装の麗人というか、どこぞの伊達男のように見える。
たった一箇所、耳元を飾る造花とボンネットだけが、シンプルな装いに文字通りの華を添えていた。
あれ、たぶん装飾というより口元の魔傷を誤魔化すためだろうな。今となっては見慣れつつあるが、あの禍々しさは初対面の人の度肝を抜くから。
「しかし……」
シュナは俺の全身をしげしげと眺め、感心したように呟いた。
「うまく化けたじゃないか」
「これはベッカが勝手に! 俺の趣味じゃない」
「なるほど、レベッカ=バートンの作か。道理で面白い細工がしてある。彼女は得意分野に関してはイーリアスに勝るとも劣らない秀才、いや、奇才だからな」
奇才と言い直されるあたりがベッカの人となりをよく表している。教職員の間でも彼女の奇行は有名なのだろうか。つか、面白い細工ってなんだ。
シュナの視線はそのままレナに流れ、満足げにうなずいた。
「レナ=フェイルズは自作か? よく似合っている」
「いえ、私は素材を提供しただけです。後の加工は先輩方が」
「それだけできれば十分だ。隅々までよく制御が行き届いている。名の知れた魔導士でも純粋に自身の魔力で仕立てられる者は多くない。さすがだな」
「ありがとうございます」
手放しの称賛を受けてレナが微笑む。
ああ、そういえば俺から糸が取れないとかなんとか、仕立てるときにベッカとその仲間たちが騒いでいた気がする。俺の体質が関係していた気がするけど……結局どうなったんだ?
この衣装、下手すると俺の体質がバレてベッカの同類につかまるリスクがあるのでは、という仮説にたどり着いた俺は、おそるおそるシュナに尋ねた。
「魔力とか、服見てわかるものなのか……?」
「まあ、わかる者には、という程度だがな。本来の魔術衣は幻影の一種だ。通常は術者の魔力を素材に使用し、その繋がりから意思を汲み取って身体の動きに沿わせる。――ああ、お前のそれは違う」
「違う?」
まあ、素材なんて提供した記憶はないし、魔力を外に出せない(レナに言わせると正確には魔術として練り上げることができない)俺の事情を考えると、そもそも不可能だろう。目の前で魔術糸が織り上げられていくのは見ていたはずなんだが、俺にはまったくわからなかった。




