第四話(5)
間延びした言葉に脱力した俺とレナは、同時にため息をついてお調子者のクラスメイトを振り返る。
「だれが、っていうかフルネームで呼ぶのやめ――え?」
「コウ……?」
茫然と呟いたレナの視線の先で、闇色のドレスを身にまとった華奢な少女がいたずらっぽい表情をうかべてはにかんだ。
「うん。ひさしぶり、姫。この間はごめん、ノアくん」
元学年次席の才媛コウ=リステナーがウィルの隣で会釈する。いつのまに来ていたのだろう。というよりも、むしろ。
「なんでコウがウィルと一緒に?」
「ペアだからに決まってんだろ。あ、ノアと姫の分も受付すませといたから」
「そりゃどうも……」
珍しい二人組を交互に眺める。にやにやと笑うウィルと、涼しげな無表情に戻ったコウ。いや、なんだろう、この違和感。親しくしている様子がまったく想像できないというか、実際並んでいても心の距離を感じるというか……。
コウが着ている衣装も、上級生の作品らしい。重厚感のある生地の上には幾重にもレースが重なり、襟元や袖口には細やかな装飾が施されていて、作者の気合の入りようがうかがい知れる。ふんわりと裾の広がったシルエットが、幼げな彼女の容姿によく似合っていた。
「どーよ。俺もなかなか隅に置けないっしょ」
「モデル、頼まれてたから。レベッカ=バートンが弟を借し出した」
「そこバラしちゃう!?」
ああなるほど、そういうことね。ベッカたちが裏にいるなら納得できる。
裏事情をあっさり暴露されたウィルはがっくりと肩を落として、俺にもたれかかってくる。
「コウちゃんが冷たい。俺に対する労りが感じられない」
「重い。うざい。暑苦しい」
「いーよなー、ノアは。高嶺の花に囲まれても許されて……」
進級試験以来、初めて顔を合わせたらしいレナとコウは、なにやら楽しげに話しこんでいる。白と黒。陽と陰。静と動。対照的な二人の美少女が寄り添う様は、煌びやかに飾られた会場の中にあってもパッと目を惹く華やかさがある。
「このあたり一帯につきささる野郎どもの視線わかる? てか気づいてる? 気づいてないよなノアだもんな。そろそろ俺ストレスで禿げそうなんだけど」
レナとコウには聞こえない大きさの声でぼやくウィルは、冗談半分ではあるにしろ、たしかに疲れてはいるようだった。成績優秀者同士で組むのが伝統だとか、格がどうのとか言ってたな、そういえば。
「あきらめろ。大体全部お前の姉が悪い」
「その節はまことに申し訳ありませんでした!」
そうこうしているうちに開会時刻を迎え、俺たちは慌ててホール内に駆け込んだのだった。




