第四話(2)
「別に、ベッカは普通の学生だよ。ちょっと変態、じゃなかった、偏執的なとこあるけど」
「今まで出会ったことのない生物だった……」
「あーね。くそ強引で話聞かないよな、あのひと。でも一応、人の姉だかんな。未知の生命体みたいに言うのやめような」
いや間違いなく未確認生物だろ、あれは。
研究コースってやつはみんなああなのか?
ベッカの勢いもすごかったが、彼女に扇動された協力者たちの気合の入り方もおかしかった。頭狂ってんじゃねーのか。
正直、つかまってた間、途中から記憶がない。気づいたら採寸されていて、気づいたらデザインが決まっていた。
俺から糸が取れないとかなんとか騒いでた気もするが、そりゃ俺は魔力を外に出せない体質らしいからな。普通に無理だろ。
嫌々説明すれば、研究気質どもの目が輝いた。あの瞬間、奴らは目的を忘れ、俺を貴重なサンプルに位置付けていた。
正直、追われている間よりよぼど身の危険を感じた。
やっぱ俺、早めにここ脱出した方がいいんじゃないだろうか。
遠い目をして、ホワイエの天井に吊られた古めかしいシャンデリアを眺める。
ホールの入場受付時間にはまだ少し余裕があり、そもそも男女ペアでなければ入れない。レナが来るまではここで待機だ。あの優等生にしては珍しく、まだ支度に手間取っているらしい。
俺はというと、歓迎会の終了早々ベッカに捕獲され、着替えさせられ、髪までセットされ、そのまま会場に放り込まれた。姉の暴走を見かねたのか、監視役に任命されたのか、どちらかは知らないが会場前にはウィルがいて、申し訳なさそうに頬をかいていた。
「普通の学生があんな人数引き連れるかよ‥…」
「わかった普通じゃないのは認める。認めるけど、はじめに追いかけまわしてたのはベッカ関連じゃなくてお前のファンだろ」
「ファン?」
なにを言ってるんだ、と残念なものを見る目を向けた俺に、ウィルは盛大なためいきを返してくる。
「これだよ」
「なにがだよ」
「まあそりゃね、俺らにも責任の一端はあるとは思うよ?」
「だからなにが」
「いい加減、自覚持てってこと」
やれやれと首を振り、いいかノア、と真面目な顔をしたウィルが俺の両肩を掴む。なんだよ暑苦しい。
「ベッカの動機は横に置いて。そもそも、お前は首席なんだよ。お前にとって首席ってどういう存在よ?」
「うざい。めんどい。関わりたくない」
「わかった俺の聞き方が悪かった。お前以外の学生から見たレナちゃんはどういう立場だった?」
偶像、規範、代表、目標、憧れと嫉妬の的。
思いつく限りの内容を適当に上げ連ねていく俺の言葉一つ一つに、ウィルが頷く。
「そういうことだよ、今じゃノアもそういう立場なわけ」




