第三話(17)
駆け込んできた魔術の主が、コウに笑顔で手を振る。茶髪の三つ編み。丸眼鏡の向こうの瞳も茶髪。その顔に見覚えはないが、後ろに続く女生徒の集団には、嫌になるほど見覚えがあった。
「連絡ありがとう、リステナーさん!」
「お前……!」
二重三重に飛んでくる拘束魔術を被って膝をつきながら、裏切ったな、と見上げた先で、コウ=リステナーはひらひらと片手を振った。
「歓迎会。がんばって、ノアくん」
いつかと同じように、柔らかい笑みを浮かべたコウが、どんどん遠ざかる。
身動きが取れないほど固く、がんじがらめに拘束された状態で、俺の身体は宙に浮き、見知らぬ女生徒に引きずられていく。ああっくそ、これが嫌だから逃げてたってのに。
≪ばーか。強硬手段とられる前に、さっさとつかまっておけばよかったんじゃない?≫
生意気な相棒に言い返してやりたいが、残念ながら【飆牙】の声は俺にしか聞こえていない。
「ねえねえノアくん」
最初に飛び込んできた女性が全体の指揮をとるリーダーらしい。
思いっきり苦い表情を浮かべる俺を運びながら、眼鏡の向こうの目を細めて、にこにこと話しかけてくる。
「なんだよ誰だよ早く放せよ」
「やだ本当につんつんしてる。威勢がよくて可愛いじゃない。こんな子うちにいたなんて嘘みたい。早く教えてくれればよかったのに」
「うそだろ……」
思いっきりにらんだのに、怯みもしないどころか、きゃっきゃと喜んでいる。なんだこれ。どうすりゃいいんだ。
俺の合意なんて求めてない。つか、そもそも話が通じる気がしない。
「協力ありがとう。私たちも卒業単位かかってるから、本気で仕立てるわよ」
どうでもいいんだよそんなことは!
魔術制御を究めた七回生が、新入生歓迎会の夜の部、通称ダンスパーティーの衣装制作に注ぐ情熱は、並大抵のものではない。場合によっては成績評価にさえ繋がる。
毎年毎年、この時期はレナがよってたかって玩具にされるのを見てきた。
その当事者に、まさか俺がなろうとは。
六回生の首席というだけでも悪目立ちするのに、衆目のある場所でレナとペアを組むことを宣言してしまったようなものだから、噂が噂を呼び、まだモデルという名の着せ替え人形を決めかねていた上級生の制作意欲に火をつけてしまった。
あの日の俺はどうかしていた。出席する気自体さらさらなかったのに、なんでこんなことになってんだか、まったくもって意味が分からない。
「名乗り忘れたわね、私ベッカ。レベッカ=バートン。研究コースの七回生よ。魔術縫製の実技成績は学内でもトップクラスなんだから」
よろしく、と言うか言わないか、勝手に名乗って勝手に話を進める女性、ベッカは、そのままの勢いで流れるように畳みかけてきた。
「あなたの髪色、ほんと珍しいわね。飾りがいあるわー。いい素材が見つかってよかった。ウィルは全然好きにさせてくれないし、イーリアスはイメージ固定されてて創作意欲刺激されなかったのよ。あ、ねえちょっと切っちゃダメ?」
ああ、くそ、薄々察してたけど、やっぱりウィルの縁者かよ。
もはや口をはさむ気力もなく、俺はぐったりとうなだれたのだった。




