第三話(15)
「女性を物のようにあつかうのは感心しないな」
そう言って困ったように微笑するカイルに、苛立ちが募る。
なにが感心しないだ。わざわざ別学年のところに来なくても、王子様を飾り立てたがる女子学生なんて腐るほどいる。それも、あのレナが警戒して萎縮するくらいに過激な集団がな。
お似合いな相手を見繕ってもらえばいいさ。得意だろ? そういうの。
「そりゃ、あんたの方だろ。装飾品探すなら他を当たれっつってんのがわからない?」
「きみこそわからないのか。彼女の才を活かす立場に、僕ならば繋ぐことができる。今年は最後のチャンスなんだよ」
カイルは冷静だった。予想外の切り返しに、一瞬、返す言葉を見失う。
「まさか、いつまでも学生を続ける気でいるわけではないだろう? レナ嬢の将来を思うならば、卒業規定を満たす見込みすらないきみが彼女を束縛するべきではないと思うが」
「……っ」
いつまでも、学生でいる、わけがない。
じゃあ、いつまで? いつまで俺はここでこうして燻っていればいい?
学園は俺を外に出す気があるのか? 【飆牙】を持ち出すことを許すのか?
答えはノーだ。ありえない。今の学長はあのハゲ、常人並みの魔力で魔導研究の第一人者にまで上り詰めた男だ。始業式の手のひら返しを考えても、まちがいなく手元に置こうとするだろう。持ち主とセットで。
ろくな未来なんてないとわかりきっていた。それでいいと諦めていた。
けれど、それは、今以上のものを望まなかったのは、大したものを持っちゃいないわりに、行き詰まった現在の居場所が心地よかったからだ。放り込まれた鳥籠の中で、隣に彼女がいたから。
だから、俺は。
俺は、彼女を。
失いたくない?
ちがう。それは俺じゃない。俺の望みじゃない。彼女の望みでもない。
じゃあ、なんなんだ。どうなったら俺は満足するんだ。
「それは誤解です。イーリアス先輩」
気づけば、レナが俺の前に立っていた。
「ノアが私を縛るなんてことはありえません。彼を追いかけるのは、昔から私の役目でした。ノアは、とにかく自由なんです。学園の古びた規則に、彼を留めることができるとは思えません」
毅然とした態度で語る彼女の背中を、あっけにとられたように見つめて、吹き出す。
ああ、でも、そうだな。そうだった。
「それに、ノアのわがままごときに振りまわされるほど、私の意思は弱くないですよ。立派に六回生代表を務めさせてみせますから、ご安心ください」
これがレナだ。
レナ=フェイルズだ。
意地とプライドが服を着て歩いているような、強いんだか弱いんだかよくわからない、けれど決して折れることのない少女。
俺にこいつの意思を変えさせるなんて、そりゃ無理な芸当だった。
俺たちは互いにやりたいようにやる。ぶつかれば喧嘩して、交われば寄り添って、いつか別れる日がきたとしても、再び出会う日の存在を疑うことなく、きっと進んでいける。
「……貴女は自分の価値を知った方がいい。付き合う人間は選ぶべきだと思うよ」
「お気遣いいただきありがとうございます」
瞳に強い意志をたたえた勝気な表情のまま淑女の礼をしてみせる少女の一人勝ちで、第一の騒動は幕を閉じたのだった。




