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Skew World Overture  作者: 本宮愁
I.離島の魔術学園
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第三話(13)

 鉄壁の仮面を貼り付けたまま談笑を続けるレナとカイル。あの一帯だけが浮世離れした華やかさをまとっていた。純白の神殿や、薔薇が咲き誇る庭園の背景すら目に浮かぶ。


 ああ、まったく、腹立たしい。


 勝手にしろよと思うのに、カイルがレナの右手を掬い取ろうとした瞬間、この身体は勝手に席を立って、彼女の名を呼ぶ。


「――おい、レナ!」


 正直、自分でもなにがそこまで気に食わないのかわからない。

 嫉妬心? まさか。そんな単純なもんだったら、ここまで拗れたりしない。


 昔はそうでもなかった。


 俺は俺で、あいつはあいつで、たまたま近くにいて、たまたま一緒に育って、たまたま互いのことをよく知っていた。ただ、それだけだった。


 成長するにつれて複雑な感情を覚えていった。


 幸せになってほしい。

 笑っていてほしい。


 無理に演じた不自然な形じゃなくて、彼女が願うままの姿で自由に生きてほしい。誰もが憧れる素晴らしい存在になんてならなくていいから、どこかで笑って生きてさえいてくれればいい。


 たぶんこの感情は、俺のものであって、そうではない。


 くりかえし見る浅い夢の中で、いつも俺は俺ではない誰かだった。彼女ではない誰かを大切に思っていた。それこそ、母であり姉であり妹であり、家族のようでも恋人のようで友人のようでもある、ありとあらゆる繋がりを煮詰めたような、深い親愛の情を抱いていた。


 その、あまりにも深い愛情に押し流されて、時折わからなくなる。


 俺自身の感情はどこにあるのか。

 俺は彼女をどう思っているのか。


 ただの妄想だ、白昼夢だ、と、なんども忘れようとした。忘れても、忘れても、なんどでも蘇るあの夢が、後に残していくのは痛みだけ。胸を締め付けるような、俺の知らない感情を突きつけてくる、覚えのない記憶と心。


 あれは誰のものなのか。いつのことなのか。定かではないけれど、きっと、俺が、あるいは俺ではない誰かが、彼女の魂に出会うのは初めてではなかったんじゃないか。


 生まれ変わりなんて馬鹿馬鹿しいと思うけど、実際、俺の中には俺の知らない俺がいるんだ。


 守れという。譲るなという。

 二度と失うなと叫ぶ。


 この心の声はどこからくるものなのか。【飆牙】を手にして以来、その影響かしれないが、目覚めた後に夢の断片が記憶に留まることも増えた。


 どいつもこいつも口うるさくてたまらない。んなこといちいち言われなくたって、どうせ俺は――。


「もういいだろ、帰るぞ」

「ノア……」


 どこかホッとしたような声を漏らすレナの横に並ぶ。背中に突き刺さるウィルの視線は無視するとして、やっぱそうなるよな、右隣からの視線がすっげー痛い。


 けれど、完璧な仮面が崩れる一瞬、彼女はどこか弱々しく、力が抜けたように小さく笑うから。


 俺は、この顔に逆らえない。

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