第三話(12)
「気になってるくせに」
関係ない、と言い張りながらもチラチラと横目でレナとカイルをうかがってしまう俺を、ウィルは生温い目で見てくる。
「止めてくれば? あのカイル先輩と張り合えるのはノアくらいじゃん。首席だし」
「それを引き合いに出すな馬鹿」
「てゆーか真面目な話、たぶん姫にはお断りできねーぞ」
「なにをだよ」
話の内容はこっからじゃ全然わからないが、どうやらウィルには察しがついているらしい。
「なにって、そりゃ新入生歓迎会のペアに決まってるだろ」
「ああ、あの仮装パーティーか」
「おいおい忘れてたのか」
そういやそんなものもあったな、と気のない声を漏らす俺に、大げさなしぐさでウィルが天を仰ぐ。
閉鎖的な魔術学園が島外から来賓を招いて開く数少ない行事の一つだ。歓迎会と銘打っておきながらメインはその後の夜会で、五回生までは一部の成績優秀者だけが招待される。六回生以上は全員出席だっけな。よく覚えてないが、適当にサボればいいだけの話だ。
たしか、建前上は無礼講の仮面舞踏会のようなものだった気がするし、そう厳しくはチェックされないだろう。俺は一度も出席したことがないので詳しくは知らないが。
もちろん、レナは毎年出席。裏では魔術を使って織り上げた衣装の精巧さを競うコンテストも開催されていて、補助系特化の学生が能力を発揮する場でもあるから、大体レナみたいに目立つ学生は上級生のおもちゃにされていた。
「毎年ファーストダンスは首席が踊るって知らないのか? 伝統的にペアは成績上位で組むもんだし、姫クラスだと相手が限定されてて、七回生の首席から申し込まれたら受けないわけにはいかない」
またかび臭い伝統か。まさかそれ俺も出ろとか言われないだろうな。
あっちもこっちも埃被った規則だらけで嫌になる。俺だったら知ったことじゃないと無視するが、レナは違う。あいつはそういうものを生真面目に守るから、不文律を破って上級生と波風立てるような真似はしないだろう。
「レナクラス、ね」
今でこそレナの実力を前に文句を言ってくるようなやつはいないが、『学園の姫』の地位を確立する前のあいつは、たぶん俺より敵が多かった。
元々、レナは平民出身だ。実績もない子供一人なんて、学園内では特別な存在でも、一歩外に出れば簡単に権威に踏みつぶされる。孤児出身の俺より多少マシだが、フェイルズ家は学園の雑務をこなして生計を立てている、本当に小さな家だった。
彼らは善人ではあるけれど貧しくて、子供に教育を施すことも難しいくらいに生活は困窮していた。だからレナは、俺が学園に引き取られるよりも早くから学園に出入りして、下働きの対価に読み書きを習っていた。
あいつの今の立場が、幼い頃から積み重ねてきた努力の結晶だってことは、ずっと見てきた俺が一番よく知っている。
八方美人な態度も愛想笑いも、必要に迫られて磨かれた処世術なんだってわかってる。
わかっては、いるが。
「……だから捨てちまえって言ってんのに」
もういいだろ、いい加減に。