第一話(4)
その養父も、昨年亡くなった。
魔力の強い人間はみんなそうだ。前触れもなく、ある日突然ぽっくりと逝く。老いが表面化されないまま、期日を迎えて消えてしまう。
……嫌いじゃ、なかった。
あの人はあの人で、最期まで俺に対する責任を果たそうとしてくれた。だから、十分だと思う。始めから愛情を求めたわけじゃない。
見つかったのは、不可抗力。
手を取ったのは、俺の意思。
生きたいのなら来い、と言われた。その言葉に従った。理由があったわけじゃないけど、あれは俺の選択だった。後悔はしていない。ままならない世の中にいらだって、馬鹿みたいに暴れて困らせたこともあったけど。
いまはもう、あきらめた。
命の危険があるわけでもない。いつ暴発するかもしれない俺みたいな危険物でも、学園は捨て置いてくれている。――俺ごとき脅威でもなんでもないし、毒にも薬にもならない役立たずはすっこんでろってことだとは思う。
実際、ほとんどの教師は俺をないものとして扱ってきた。学生たちもまた、しかり。
……ああ、いや。初めのうちは、あいつら、興味本位で近づいてきたんだっけ? 絵に描いたような落第生ぶりに、すぐ離れていったけど。
レナだけが、違った。学園に保護され、引き会わされたときから、ずっと、しつこいくらいつきまとってきた。かなり邪険にした記憶もある。なのになぜか、っつーか、いまでもわけわかんないんだが、俺から離れない。
勝手についてきて、勝手に泣いて、勝手に怒って、そのくせ、いつのまにか笑って、またついてくる。
手のかかる妹のようで、わがままな姉のようで、面倒見のいい母のようで、……ああそうか、俺の中にある家族像は、ぜんぶレナから作られたものだったな。
たぶん俺は、彼女がいるから、このくそったれな世界を諦めきれずにいた。
「ばか。このままじゃ、本当に留年するよ……?」
なにも答えずにいると、レナは泣きそうに顔をゆがめた。
「なんでお前が泣くんだよ」
「泣いてない」
「ああそうかよ、んじゃ泣くな。お前に泣かれると面倒なんだよ」
「だから泣いてないってば!」
涙目で俺を睨んだレナが、簡略化した術式を描く――浮遊術だ。
ほとんどの要素が省かれながら、最低限押さえるべきところは完璧に押さえた、芸術的な陣。教科書にそのまま載っていそうな、とも言う。
俺には、とても真似出来ない芸当。そもそも、俺には要素省略ゼロですら発動できないわけだけど。
手のひらほどの円陣を蹴って、レナの身体が浮き上がる。試験なら文句のつけようもない満点だろう。彼女に惜しみない拍手を、ってね。
さすがさすが――っておい、こっちくる気かよ!?