第三話(6)
曰く、どっかの貴族様の跡取り息子で、上流階級の名は庶民には呼びづらかろうというありがたーい配慮から、カイルという通名を使っているんだとか。紳士然とした態度が女生徒に大人気、正真正銘の貴公子として名高い先輩だ。
要するに、うさんくさい。レナと同類の香りがプンプンする。
ああ嫌だ嫌だ。しかも魔術のクソジジイの弟子ってところが輪をかけて嫌だ。苦虫をかみつぶしたような俺の表情を見て、シュナは意地悪く口角を引き上げて言う。
「やつは剣も強いぞ。ああいう家風ゆえ私には師事したくないそうだが、いい腕だ。学業は言わずもがな優秀。魔術理論、術式展開、魔導研究、剣魔術をはじめとする応用、すべてにおいて秀でており、加えて容姿もいい。お前に勝てる要素はないな」
「だからなんだよ」
わかってるよ、んなことは。個人的に気に食わないってだけで、カイルは非の打ち所がない優等生だし、同時に学園最強の称号をほしいままにする男だ。実際、剣を振り回すしか能がない俺より強いだろう。それがまた気に食わなくはあるけど。
「本物の天才だってんなら、こんな狭い世界に七年間もこもってないでとっとと卒業してるだろ」
「まあ、そう言ってやるな。あれと比べるのはあまりに酷だ。背負うものも才も違いすぎる」
「神童ってのは、そんなにすごかったのか?」
自分で引き合いに出しておきながら、俺は件の神童と面識がない。ただ学園に残された輝かしい記録の数々と、飛び級を重ねて数年で去ったという伝説を風の噂に聞くばかりだ。
「どう言ったらよいのか……ヴィストリアの王太子というだけでも十分な重責だろうに、彼は、あの幼さで国のすべての幸いと呪いを抱え込んだような、なんというか痛々しい子供だったよ」
そんなことより、と強引に話の腰を折って、シュナは続ける。
「コウ=リステナーとは話せたのか?」
「この流れでどうしてそうなる」
がっくりと肩を落とした俺に、シュナは大まじめな顔をして、驚くべき事実を告げた。
「茶化しているわけではないぞ。リステナー家はイーリアス家の分家だ。私は、あの剣の出所はイーリアス家だと睨んでいる」
「な……!?」
「リステナー家は何も言ってきていないが、それが返って妙だ。コウ=リステナーは魔術の才を買われて孤児院から拾われた養子だからな……家名に泥を塗るような行為を許されるとも思えない。おそらく彼女は主家の圧力に逆らえなかっただけなのだろう」
シュナは淡々と考察を述べていくが、俺の頭の中はそれどころじゃなかった。
ちょっと待て、いろいろ入ってくる情報が多すぎて追いつかない。
なんつった? コウの家はカイルの分家で、それから――拾われた?
「孤児院って、まさか」
「ん? ああ。コウ=リステナーは、お前が保護された地区と同じ貧困街の出身だが――知らなかったのか?」