第三話(5)
始業式につづけて行われる学年別のガイダンスを当然のようにふけた俺は、ひとり第三演習場の片隅を歩きながらボヤいていた。
「なんなんだ、さっきの……」
老朽化を理由に使われなくなった、これまた過去の産物の施設だ。外壁近いここには蔦に覆われた物見塔もある。空が近くて人が寄りつかない、まだレナに見つかっていないサボり場の一つ。
「俺は剣の付属物かっての」
――【飆牙】の輝きは、それ一つで万人を黙らせる力を持っていた。
誰もが言葉を失い、水を打ったように静まり返った講堂は、その刹那まるで敬虔な信徒が集う聖堂のようにすら思えた。
俺はせいぜい祭壇の上で神の依り代を捧げる黒子にすぎない。その他大勢と同じ端役。わかっちゃいたが面白くはない。
《当然でしょ。この僕をあんなハゲに触れさせようとするなんて正気を疑ったよ》
相棒の腹立たしい言を受けて、舌打ちする。
べつに俺だって渡すつもりはなかったさ。新しい保護者の意外な一面に戸惑ってるうちに物事が進んで、勝手に終わっていただけだ。
「へいへい。大体なんだよ、あの男。学生でもないくせに偉そう、に――」
ぶつぶつと呟きながら外壁をよじ登ろうとしていた俺の目の前に影が差し、あわてて文句を飲み込む。
「あの紋章はイーリアス家の者だな。ヴェルッカ=イーリアスの縁者だろう」
「シュナ!?」
「教官を付けろと何度言えば覚えるんだ」
言うが早いか制服の裾を掴んで、地面に引き落とされた。
とっさのことに受け身もとりきれず、急所をかばい転がりながら無様に着地する。……今の、老人だったら死んでんぞ。俺は身体が丈夫なだけで不死身じゃねーし、痛覚だって人並みにあるんだが。
恨みがましく睨み上げた先で、赤毛の美女は肩をすくめた。
「新学期初日からサボりとは。首席が不良とは我が校も落ちたな」
誰のせいだ、誰の。
「で、その、ゔぇ……すって誰だ」
聞きなれない発音を再現できず、あいまいにごまかした俺を、シュナは生暖かい目で見返す。
「七回生の首席、本校の総代表だ。まさか知らないわけでは――学内ではカイルと名乗っていたか」
「あー……はいはい。あのオージサマね。なるほど」
学園の『王子』カイル先輩。他学年の俺でさえ名を知っている、レナ=フェイルズと並ぶ学内の有名人だ。そんな本名だったのか、あの人。
「そりゃあ由緒正しい血統の正統派魔術士サマからしたら、俺みたいなのは気にくわないだろうな」




