第三話(4)
全出席者の注目を浴び、内心うんざりしながら、左右を学生のブロックに囲まれた講堂中央の通路を進んでいく。
向けられる視線のほとんどは好意的なものではない。悪意とまではいかないが、奇異の目線は保護者から、訝しむようなのは他学年の学生から、試すようなのは教職員からか。わかっちゃいたが敵だらけじゃねーの。
普段どおりなのは六回生の集団だけだ。前を向いたふりをして視線を流してくる学生たちの中、うつむいて顔を隠すウィルの肩が小刻みに震えていた。面白がってんじゃねえよ薄情者め。
と、そのとなりの五回生の列に、コウ=リステナーの姿を見つけた。寡黙な優等生は、俺と目があったことに気づいて、スッと目をそらす。
あれ以来、彼女と話す機会は持てていない。
「納得しかねますな。学長」
その男の声が講堂内へ響いたのは、針のむしろのような気分を味わいながら、まもなく演壇へたどりつこうかというところだった。
「聞けば、その少年は一切の魔術が使えないというではないか。とても魔術士の卵とは呼べまい。百歩譲って在学を認めたとして、伝統ある貴校の代表などという立場には到底相応しく――」
「静粛に」
一方的に言い募る男の言を端的に諫めた学長の視線は、講堂の後方に向けられていた。
あれは、学生たちの向こう側、保護者席のある方向か。
「貴君の言は尤もだ。我が学園三百年の歴史をもってしても、このような事態は先例がなく、この度の成績評価は教職員の間でも意見が割れた」
「まさか、シュナ=フェブリテが認めたらなどと馬鹿なことは言いますまい? 剣魔術の第一人者だかなんだかしれんが、前学長の友人だからといって横暴が過ぎる。貴校の設立理念は魔術の探究にあり、戦道具の育成ではないと記憶しているが」
――は? 今なんつった。
思わず保護者席を振り返ろうとした俺の脚を、学長の声が縫い留める。
「ノア=セルケトール」
「……ッ」
「壇上にきなさい」
有無を言わさない圧力に、身体が勝手に従っていた。
魔術ではない。他人の肉体を操るような術は、相当な魔力量がないと使えない。こいつに、そんな力はない。
ただ、俺が気圧された、だけだ。
侮っていた相手から予想外のプレッシャーを受けて戸惑う俺に、学長は続けて指示する。
「【飆牙】をここへ」
腰から外した相棒を差し出そうとすると、無言で首を振られる。学長の手に触れることを拒むように、【飆牙】の周りに薄く風の膜が張ったからだ。そうだ、こいつはそういうやつだった。
しかたなく促されるまま自ら鞘から引き抜くと、ステンドグラス越しに差し込む光を受けて白銀の刀身が煌めいた。――いつ見ても美しい逸品だ。その気位の高さも、三大神の長【風】に由来するという逸話も、頷かずにはいられない。
一見にして、疑う余地を持たせないほどの威厳を持つ、比類なき刀剣。
「おわかりいただけたでしょう。これが、我々が彼を認めざるを得ない、唯一にして最大の理由です」




