第三話(3)
レナに学生の列から通路へ押し出されたのとちょうど同じタイミングで、拡声魔術など使わなくてもよく通るシュナの声が、講堂を震わせる。
「六回生代表、出席番号一番ノア=セルケトール。前へ出ろ」
――出席番号一番。
講堂内がにわかにざわつく。
そもそも俺たちの学年は、レナを始めとして、魔術実技に優れた学生が多いと有名だった(そのせいで余計に教授陣からの風当たりが強まった点も否めない)。
そんな中、並みいる天才秀才を押しのけ、あの神童ラルク=ヴィストルイ以来の飛び級卒業を果たすのではないかと噂される不動の首席レナ=フェイルズを追い落とし――うっかり頂点に君臨してしまったのが、この俺、魔術が一切使えない落第生、ノア=セルケトールだ。
俺に言わせりゃ試験規定の裁定ミスだけどな。
理論よりも実践を重んじる実力主義の校風から、進級試験において学力は足切りにしか使われない。魔術研究に特化した別カリキュラムが存在する都合上、試験には免除規定が設けられ、免除された側の試験は満点とみなされる。
つまりどういうことかというと、魔術実技を放棄し、剣術一本で進級試験を突破した俺は――。
モタモタしていると、シュナからの駄目押しが飛んでくる。
「どうした? 史上初の満点合格者。いまだ衆目を集めるのには慣れないか?」
あんたの適当な採点のせいだろうが……! と歯噛みしながら、反論はできない。シュナには、その適当な採点に救われた身でなにを言う、と、席次が発表された日に一蹴されていた。
納得できないながらも壇上へ足を向けた俺の背を、横から手を伸ばしたレナが軽く叩く。すると胸元に小さな陣が浮かび、着乱れていた制服が音もなく整えられて――お前それ三節以上の詠唱いるやつ――いやなんでもない。
俺の幼なじみ、レナ=フェイルズは、同世代では並ぶ者のいない魔術の天才である。
俺たちが籍を置く魔術学園は、どんな国にも縛られない独立した法の下で世界中から集められた学生に英才教育を施し、一流の魔術士あるいは魔術研究者、さらには歴史に名を残す魔剣士までもを数多輩出してきた、由緒正しい学び舎である。
そして、先代学長に連れられてから一年の保護観察期間を挟み、正式に学生として認められた日から数えて五年。
ただの一度も魔術の発動に成功しないまま上級生になり、あまつさえ史上初の満点合格などという反則的な記録(あるいは学園史上に残る汚点)を刻んでしまったのが、俺というイレギュラー中のイレギュラーであった。




