第二話(20)
「不届き者を厳しく採点してやりたいのは山々だが、お前を落とせば、レナ=フェイルズを始め、この場にいる全員が納得しないだろう」
そう言われて始めて、フィールドを囲う学生たちの視線が、俺たちに集中していることに気づく。
今日、この場に集ったのは、およそ百人。
二百近い瞳が、そろってこちらに向いている。
顔も名前もろくに覚えていない同級生たちは口々に声を上げた。
「まあ、さっきの見せられちゃね」
「ウィルが上がってお前が落ちるとかないわ」
「姫かばったところかっこよかったよー!」
「女子の視線独占しやがって……」
「くやしいけど勝てる気はしないのむかつく」
「正直、最後のはよくやった!」
「講義どころか試験基準まで別枠とか許しがたい」
「認める以外ないでしょ」
若干、妙なのも混ざっている気がするが。
プライドの塊のような学園生サマたちが言うことには、力を示した者が正当な評価を受けられないのも、それによって自分の相対的評価が上がるのも受け入れがたい、と。
――そう、この学園の伝統は、良くも悪くも力こそすべてなのである。
シュナはやれやれと首を振り、芝居がかった仕草で立ち尽くす俺の肩を叩いた。
「しかたない、お前の進級を希望する人数分だけ加点をやろう。――この馬鹿を六回生にしてもいいと思う者は挙手せよ!」
数を数えるまでもなかった。
反対を許さない空気が、満場一致で答えを出す。
ずらりと天を指す手の群れを眺めたシュナは、ニヤリと笑って告げる。
「では、そういうことだ。おめでとう」
「そんなのありかよ……」
弟子も弟子なら、師匠も師匠だ。
「ノア……!」
涙目になったレナが飛びついてくる。今回ばかりは、どこからも舌打ちは聞こえない。
「やるじゃねーの」
フィールドに飛び上がってきたウィルには背中から飛びかかられ、髪をぐしゃぐしゃにかきまぜられる。
衝撃にうつむいていると、バタバタと慌ただしく人が動く気配、そして、無数の学生に囲まれてもみくちゃにされた。
めちゃくちゃだなお前、とか、仕方ないから許してやる、とか、もう誰が誰だかわかんねーけど、次から次へと声をかけられる。
全身にあたらしい風を感じながら、この場にいない黒髪のクラスメイトのことを思う。
コウ。
お前は、みんな認めたくないだけだと言っていたけど、本当にそうだったのかもしれないな。
あの優等生がなにを考えて俺を憧れと呼んだのかはわからないけど。
できるなら彼女にも、この瞬間に立ち会って欲しかったと思う。なんとなく、きっと誰よりも嬉しそうに、よかったねノア=セルケトール、と笑いかけてくれるような気が、した。




