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Skew World Overture  作者: 本宮愁
I.離島の魔術学園
35/155

第二話(15)

 その場に残された微妙な空気を、豪快な笑い声が引き割いた。


 爛れた魔傷をさらけ出しながら、この修羅場に弟子を置き去りにした薄情な師匠がフィールドに戻ってくる。


「いやはや、熱烈な告白を受けたものだなあ、ノア?」

「シュナ!」

「教官を付けろ馬鹿者」


 シュナの手には、両断されたコウの剣が握られていた。その中央を束ねるように取り巻くのは、瘴気の流出を抑える結界術――やはりこの師は、その剣の性質を理解した上で試合を行わせたのだ。


「んなことよりなんで止めなかったんだよ」

「魔は人を誑かすが、根底にあるものは当人の感情だ。一概に悪とは言えない」


 飄々と語るシュナの茶褐色の瞳が、座り込んだまま抱き合うレナとコウを映す。


「己を御すことができるのであれば、力になりこそすれ、直ちに害はない。あれほど感応が鋭ければ、遅かれ早かれ魔に触れただろう……いや、命に関わる前に止めるつもりはあったさ」


 そう睨むなよ、と言われて、俺は初めて自分の表情を自覚した。


 あの瞬間のコウの殺意は本物だった。

 飛び込むのがあと少しでも遅れていれば――。


 無意識に噛み締めていた奥歯から力を抜き、あわてて表情を緩める。失ってない。なにも。


「なるほど。彼女はああいうが、お前にとってレナ=フェイルズは特別ではあるようだな」

「はあ!? 誰が……」

「文句があるならば後でかかってこい――いつまで呆けている。十分後に試験を再開するぞ! 次の者の準備はできているんだろうな?」


 バラバラと了承の声が上がり、学生たちが動き出す。その中に、人波をかき分けてこちらへ向かってくるウィルの姿も見えた。


「おい、シュナ」

「話は後だ。この場で()()を感じ取った者は、当事者の他には、お前と――レナ=フェイルズくらいだろう」


 コウを支え起こしながら、こちらを振り向いたレナの視線は、シュナの手元の剣に固定されていた。


「レナ=フェイルズは残って学生をまとめろ。私はこれを片付けてくる。ウィリアム=バートン。いいところにきたな、コウ=リステナーを医務室へ連れて行け」

「うえ、俺っすか!?」

「返事は『はい』だ。早くしろ」

「はい!」


 鬼教官の睨みに震え上がったウィルがフィールドに上がり、レナに代わってコウの肩を支える。


「待って、――シュナ教官。私は、いつまでに寮を出れば」

「コウ!?」

「お気づきでしょう……()()は、正当な手続きで持ち込めるものではない……重大な規則違反、です」


 レナが、ハッと息を飲む。俺はそんな規則があったなんて初めて知ったが、きっちり暗記している優等生が反応するのだから、間違いはないのだろう。


「ふむ。結構な覚悟だが――私はただ、試合中に折れた剣を安全のために回収しただけだ。勝敗が決した後のことは、()()()()()()として目を瞑らざるをえないだろう。乱入した者ならともかく、()()()()()()()()()()()を持ち込んだことを咎める必要性は感じられんな」

「しかし、それでは――」


 茶褐色の瞳が、いたずらな光を放つ。


「尤も、そんな状態で試験に臨む心構えは問題だ。私はくれぐれも丁重に扱うよう教えたはずだが、整備を怠るようでは得点は与えられない。リステナー家には、こちらから連絡を入れておく」


 事実上の落第宣告を受けたコウは、まだ何かを言おうとして迷い、黙って深々と頭を下げた。

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