第二話(13)
さすが、別次元の斬れ味を誇る神剣、底知れない。取り落とさせれば十分なつもりで振り抜いたのに、仮にも魔器となりえる剣を斬ってしまうとは思わなかった。
「の、あ……」
「怪我ないな?」
呆然とへたり込んだままのレナが頷くのを確認して、この状況の元凶に向き直る。
「コウ」
小柄な優等生は、黒髪に表情を隠してうつむいていた。
「俺がお前殺す方が早いけど、――どうする?」
淡々と絞り出した声は、予想よりずっと冷たく響いた。
うつむいたままのコウの肩が震え、だらりと下げたままの手から、剣身の半分を失った武器が取り落とされる。
かすかな瘴気を散らすそれをフィールドの外まで脚で蹴り出すと、シュナが回収に動く様子が見えた。弟子遣いの荒い師匠め。
もう、コウから敵意は感じられない。
禍々しい気配もない。
よくわからないけど、なんとなくあの剣が問題じゃないかと思っていた。――魔は、人の心の弱さにつけ込む。それは、ほんのささいなきっかけで膨らみ、行動を支配する。
誰にだってありえることで、むしろこれまで抑え込んでいたからこそ、表出しなかった。そうして抱え込んだ闇が限界を超えたとき、ヒトは堕ちる。強い人間ほど、急激に、深く。
レナが不動の首席だということは、つまり、それにつづくコウは万年次席ということだ。
成績上位なんて、俺にはまったくわからない世界だけど、当人同士にとってはなにか譲れないものがあったのかもな。
ひとまず、これ以上、危害を加える意思がないとわかったなら、俺が口出すことはないわけで……この状況、どう片付けたものか。
「あー……、いい、悪かった、その」
「適当に謝らないで」
「コウ?」
「きみにとっては、その他大勢なんて、どうでもいいもの、だもんね」
顔を上げたコウの強い眼差しは、背にかばうレナではなく、俺自身に向けられていた。
「わかってる……わかってたの。ちゃんと、わかってたのに。私は姫じゃない。姫にはなれない」
は、いや、なんでそれを俺に言う?
コウを追い詰めていたのは、レナとの確執じゃないのか?
「俺……コウになんかしたっけ?」
コウは泣きそうな顔をして、笑った。
「ノアくんの、そういうところ、大嫌い」
その表情が、言葉とは裏腹にあまりにも綺麗で、俺の頭はすっかり混乱した。
なにを言っていいのかもわからずに立ち尽くす俺を横に押しのけて、レナが前に出る。
「その点は、私も同感だけど――」
「はあ? って、おい」
助けてやった礼も言わずに、と文句をつけようとした俺は、勢いよくコウの頬を打ったレナの平手に閉口する。
……すげー音したぞ、今の。




