第二話(11)
「なんだそれ、どういう――」
シュナを追ってフィールドに近づこうとして、途中で立ち止まる。
学生の壁が、じゃまだ。
同じローブを身にまとったクラスメイトたちは、話しかけてこそこないものの、なにかと俺の行動を監視している。あの中に飛び込む気にはなれない。
中途半端な位置で立ち止まっている間にも、突き刺さるような視線が、四方八方から飛んでくる。
「……くそ」
このあいだまで、あからさまに存在無視してたじゃねーか。
耐えかねて踵を返すと、最後列にいたウィルが気づいて、俺を呼び止めてきた。
「おいノア、どこいく気だよ! 姫の試合始まるぞ」
「上で見てくる。視線がうるさい」
「あー、なるほどなるほど? 色男はつらいね」
「……」
無視して観客席を目指すと、ウィルはあわててついてきた。
「あ、待てって。俺も行く」
シュナの弟子という肩書きは、俺に新しい世界を見せた。
もともと俺の見た目は目立つ。レナのように憧れられる色彩ではなく、否応なく目に入る異様な色としてだけど。
どこにいてもすぐに見つかる。遠巻きに眺められて、物言いたげな視線を無数にぶつけられる。面と向かって文句も言いに来ないくせに。
……これが、あいつの感じてきた世界か。
良くも悪くも特別としか見られない。見上げられるのも見下げられるのも、行き過ぎれば苦痛だ。いつまでも俺につっかかってくる理由がわかった気がした。
いや、今はそんなことより――。
最前列に腰を下ろし、中段に構えて向かい合う二人を遠目に見下ろす。
まがりなりにも闘技場の名を冠する施設だけあって、観客席からでも動きは十分見て取れる。さすがに大スクリーンの中継はされてないから、音は聞こえないけど。
開始の合図と同時に、仕掛けたのはコウだった。
――速い。
一切の迷いなく踏み込んで繰り出された突きを、間一髪、身体をひねって躱したレナは、どこか戸惑ったような表情を浮かべた。
「あっぶな!?」
隣でウィルが立ち上がって叫ぶ。
たしかに際どいタイミングだった。俺は普段の講義のレベルを知らないけど、全力で勝ちを取りにいったのがわかる。
レナもすっかりコウの気迫に押されているようで、突き出された剣を叩き落とせばいいものを、むりやり横にそらして距離を取り、なにやら声をかけていた。そんな余裕あるのかよ、お前。
シュナに提示された課題は、10分間の試合だ。勝敗を付ける必要もなく、時間が経過すれば、それでおしまい。相手の剣を弾くなり、かすり傷でもつければ即終了。
宣言通り、コウは本気だ。二手三手と容赦なく追撃して、レナがなんとかしのぐ、という流れのくりかえし。このあいだ話したときの一面を思い出させるコウの猛攻に、レナは防戦一方だった。
おとなしげに見えて、なかなか一癖ありそうなやつだったな、そういえば。
レナの剣術は始めてみる。運動神経は良い方だし、あいつに出来ないことなんてないとは思うが、さすがに魔術とは勝手が違うからな――。
隣で観戦していたウィルがつぶやく。
「なんか……おかしくないか?」
「ああ、そうだな。らしくない」