第二話(9)
番号順に執り行われる、ということは、第一試合はレナとコウだ。
成績優秀者同士の試合とあって、FDの中心に設営されたフィールドの周りには、多くの学生が残っていた。
「ノア!」
試合の準備を整え、片手に細剣を握ったレナが駆けてくる。キッとつり上がった目尻に、嫌な予感がした。
妙な威圧感を受けて、なんとなく逃げ損なう。
……俺が悪い、わかってる。
わかってるけど。
謝りゃいいのか? 微塵も後悔してないってのに?
うだうだと考えているうちに、レナは目の前に迫っていた。
「あんた、なに考えてんの!?」
開口一番、派手な雷をぶちかましたレナは、細剣を握ったまま詰めよってくる。
ひとまず武器を下ろしてもらいたい。ものの弾みで刺し殺されそうだ。
「一人だけ別講義だし、魔術試験は放棄するし、あいかわらず筆記ダメダメだし、なんにも教えてくれないし、魔術試験は放棄するし、教官と試合とか言いだすし、魔術試験は放棄するし……!」
「あれはシュナが――」
「でも受けいれたでしょ!? っていうか魔術試験!」
「受けたところで、どうせ――」
「変な開き直りしてんじゃないわよ! 放棄なんて、よりにもよって心象最悪だし、温情なんて受けられっこない。自分の立場わかってるの!?」
ろくに口を挟めないまま、レナの剣幕に押されて後退する。
――壁?
うそだろ、もうここまで下がったなんて。
「注目集めてんぞ、いいのかよ」
「いまそんな話してない!」
追い込まれた壁際で、刃物を持った美少女に睨みあげられる、の図。
いや、この構図はだめだろ。俺の精神衛生的にも、レナのイメージ的にも。
「どうせ、なるようになるだろ。ここまできたらもう、やるしかない、っていうか」
「そんな状況にしちゃうのが馬鹿だって言ってるの!」
ヒートアップしたレナは止まらない。
周りの学生がこっちをうかがっていることに気づいているのかいないのか。これで姫のイメージは塗り変わ――らないだろうな。この程度、レナなら、簡単になかったことにしてしまえるんだろう。
振り上げられた左手を見て、いよいよ殴られるかと身構える。
今回ばかりは、俺が悪いってのも、わかってるし、それでレナの気が済むなら、い、一発、ぐらい……。
過去に受けたその威力を思いだして、頬が引きつるのはご愛嬌――。
しかし、予想していた衝撃は訪れずに、レナのこぶしは力なく俺の胸を打った。
「ほんと……ばかじゃないの」